メランコリア

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レイモンド・ブリッグズ『THE MAN おぢさん』(小学館)

2016-07-21 13:49:59 | 
レイモンド・ブリッグズ『おぢさん』(小学館)

『THE MAN おぢさん』(小学館)
レイモンド・ブリッグズ/作 林望/訳

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「魚と珍客は三日おけば臭う」(中国のことわざ)


最初のページに書かれていて、なんのこっちゃと思った。
でも、読んだ後なら、この意味も、表紙のおぢさんの哀愁も分かる。

レイモンド・ブリッグズは『水たまりおじさん』(BL出版)のキャラ設定もキョーレツだったけど、
こんどのタイトルはズバリ「おぢさん」ていうのもスゴイ。

イギリスの一般庶民が日常的に食べているものが詳細に分かって、なんだか興味が湧いた。
こっちの輸入食料品店でも売ってるかな?


あらすじ(ネタバレ注意

【月曜日】
ジョンをたたき起こして「なにか着るものをくれってんだ」と言うおぢさん。
まだ夢を見ているんだと思うジョン。

次は「なにか食べるものはないのかね?」と催促するが、
菜食主義者の母親が買う食糧に「くだらない健康志向だ」と文句ブツブツw

ジョンが普段食べているもの
ブランフレーク(玄麦)
脱脂粉乳
など


スノーマンが描いてあるw

おぢさんが買ってきてくれと頼んだもの


マザーズプライドの白い食パン
フランク・クーパーのマーマレード
PGティップスの紅茶
ジャージー牛乳のゴールドトップ(濃厚で、乳脂肪分が多い


ジョンは、おぢさんが「拝借さん」だと思うがそれも違うという(『床下のこびとたち』アリエッティだ!
母親も開けない秘密の戸棚に寝たらいいとすすめるジョン。



お風呂に入りたいというおぢさん。
「バスフォームあるかね。アボカドか、ピーチブロッサムがいいんだが」と好みがうるさい。

「わしは、自分の家を持っているわけじゃない。あちこち移動しつづけていなけりゃならんのさ」

年齢を聞くと、「年を数える長さがちがう」

髪も切ってあげながら、妖精なのかと聞くと
「このわしが、くそったれの妖精なんぞに見えるか!」と怒る。


父母はもちろん、自分のことは誰にも喋るなと誓わせる。

「とりわけ官憲に漏らしてはならん。すなわち学校当局、市役所、厚生省、警察・・・それらの脳なしどもだ。
 それからヤジ馬根性のクズ連中、つまりヒワイな新聞、下賤な雑誌、お涙頂戴のくだらん本を出す出版社、
 アホタレのテレビ局、ペラペラ軽薄なラジオ、要するに、どうしようもないゴシップを撒き散らす奴らのことだ」


衛生にうるさいおぢさんは、水洗トイレは命取りの深さだから、屋根にのぼって、配水管でするという。



【火曜日】

ジョンの普段の朝食は、ブランフレーク、ナチュラルヨーグルト、全粒粉のパン(なんだか親近感
おぢさんは、ベークドビーンズを要求。

大声で「朝の朝礼」(BBCのラジオで日曜日の朝に放送される教会の礼拝番組)の聖歌を歌って、
ママに聞こえて、芝居の練習をしていると誤魔化すジョン。

「もう、いくらも残っちゃいないんだ、わしらは」

「ぼくの姉さんは自然保護協会に勤めてるんだ。きっとおじさんたちの種の保存を図ってくれるよ」

「冗談じゃない、ジャムじゃあるまいし、保存なんてまっぴらだ」

今度は、ジョンはおぢさんが「物乞い」だと思うが、それも違うという。




お菓子はアフターエイト(ミントクリームを挟んだ薄いビターチョコレート。私の好きなやつかな?)を注文。
買い物から帰ると、サッカーの中継を見ているおぢさん。
ジョンは芸術のほうが好きだというと口論となる。

「きみは幸せな子だな。見ろ、なんでもあるじゃないか。
 わしもピカピカの大きなクルマを持って、こんなバカデッカイ家を持って・・・」


“緊急事態”でパパたちの寝室の電話を使い、ジャムで汚れていたことを怒られるジョン。




【水曜日】

油料理を禁止されているジョンは、目玉焼きの代わりにゆで卵をつくる。
「丸いほうから食べる? とんがってるほう?」
(『ガリバー旅行記』の小人たちは、これが原因で戦争となる

「ぼくは何をしてあげたらいいんだろうかって心配してたんだ」と言われて憤慨するおぢさん。

「自分でなんでもするんだ。
 もしわしが、おまえさんのために何かしてあげるって言ったら、どんな気がする?
 いったい、お前さんは何様かね、神様かね?」


(そう、母親から“何か送る?”“心配だ”と何万回も言われるのは、信用されていないような、
 私のやり方を全部否定されているようで毎回傷ついてしまうんだ
 単純な同情は、人間の驕りでもある


フライドポテトが食べたいというおぢさん。「テイクアウェイ(イギリスではこう言う)の店はないのか?」

実は、この家にずっと前から目をつけて、しょっちゅう出入りしていたと告白する。

「居心地よし、おふくろさんはしょっちゅう外出、おやじさんは朝7時~夜8時までいない
 イヌ・ネコなし、幼児なし、きわめて善い少年あり」


クリスマスプディングも美味しかったという。
イギリスのXmasパーティに欠かせないお菓子。
前年の暮れにつくり、翌年のクリスマスに蒸しなおして食べるのが習慣/驚


また親に怒られて、口論になる。

「おじさんをおいてあげてるのは、可哀相だと思ったからにきまってるよ」

「誰にでもそうするのかい。わしの小ささに関係ないかい」


自分の部屋でごはんを食べるのがおしおきなんだ。
フライドポテトが出されるのも週に1度。

急に「抱っこしてくれ」とせがむおぢさん。

「この世界は・・・危険でいっぱいだ。
 もう長いこと、わしらの仲間には会っていない。たった一人を除いてな」

「とうとう分かったぞ、おじさんは難民なんじゃない?」

外国人だと言われて、また怒るおぢさん。

「わしらはわしらの種族が大好きなんじゃ。
 お前さんたちの種族も大嫌いだ。世界中をぶち壊す、ばかでかい怪物め」


(ジョンが次々とおぢさんを定義する人々の総称は、世の中の低層で暮らすたくさんの人々がいるってことの表れにも思える


母親がジョンを心配している声が寝室から漏れてくる。
「きっと、私が菜食、菜食って言いすぎたんだわ/泣」



【木曜日】

すっかり嫌気がさして、おぢさんを放っておくと「わしは自分でお茶くらいいれられるぞ」
と言うので、キッチンに置くと、滑って落ちそうになり「死んだかと思った」と蒼白になる。

「ごめん。一人でほっといちゃ、いけなかったね」

でも、すぐに横柄になって、キッチンの掃除をしながら、またジョンは理不尽さを感じる。
「女の子じゃあるまいし。女の子は料理が好きだし、掃除や片付けなんかも好きだけど」(それも偏見だ

プライベートのない生活に文句を言うおぢさん。

「娯楽がほしいなら、テレビでも見てろ。わしは、わしなんだから」

「じゃ言うけど、おじさんは小さいことを売り物にしてる」

「珍物もすぐに飽きるってわけだ」


ママから臭いが酷いと言われたと告げる。「体臭なんてもんじゃない。おじさんはクサイんだ」

「今ちょうどラジオでおじさんみたいな人のことを言ってた。世話と保護が必要な人たち
 僕は、おじさんのソーシャルワーカーってわけだよ」


ジョン「当方、屋敷内で浮浪者を保護しましたって電話をするか。老人慈善協会、老人ホーム、救護ホーム・・・」

おぢさんも反撃に出て
「わしはマッチ棒1本あればいい、家を燃やしちまえば、お前はホームレスってわけだ、わしみたいにな。
 お前たちも保護と世話を要するってことになるわけだ」



「今日で何日目? うちへ来てから」
「まる3日さな」


【金曜日】

2人は夜中に散歩に出て頭を冷やす。
ジョンはおぢさんに謝るが、もういない。





(ブリッグスの登場人物は、いつも急にいなくなっちゃうんだ。ずるいや/涙


【あとがきに代えて 辛口の絵本 林望 内容抜粋メモ】
『グリーン・ノウの子どもたち』を書いたルーシー・ボストン夫人の居館に8ヶ月ほど寄宿していた時、
彼女は私にこう諭したことがある。

「子どもはつねに大人の言葉を使いたいものですよ。
 だから子ども向けの本を、子ども言葉で書いてはいけません。
 私は、大人のきちんとした言葉、あえて難しい英語で書くのです」


本書も甘口のヒューマニズムを期待すると、見事に裏切られる。言葉も世俗的で乾いている。
人生はきれい事ではなく、背後に辛く苦いものを内包しているのだと教えている。その代弁者がおぢさんなのだ。
ごく普通の世俗的な生活の中にこそ、真の意味でのヒューマニズムの依拠すべきものがあるとでも言いたげだ。

この本はあえて、辛口の乾いた言葉で訳した。
けっして乱暴でも、言葉知らずなのでもない。
それがこういう優れていて、社会批評的な児童文学の正統的な文法だと信じてのことである。




いつだったか、女の子が寄ってきて、大事に握り締めていたグミを私にくれたことがあるのを思い出す。
ベタベタだったし、私はグミは好きじゃないけど、ちょっと恥ずかしくて、ちょっとホンワカした

小さい子どもって、なにか自分の持っているものを、大人にもあげようとする。無心で。
あとで、自分の手元に何も残らないなんて考えもせずに。

そして「ありがとう」と言うと、とってもステキな笑顔までもらえる。二重のプレゼント。
それこそが、ヒトの本当の姿。

等しく分け合うこと。
ない人に、ある人があげること。

それが世界中でできたら、いっぺんにこの世界は天国と同じになるだろう。

でも、そんな子どもを、大人は1日も早く、大人のルールってやつで「教育」する。
「社会性を身につけさせるために」とかいって。
大人のいう「社会性」て何だ。



ところで、ウチにもいるかなあ、小さなおぢさん。

よく芸能人とかでよく見るって人もいるし。でもそれは妖精の類なのか?
まあ、“種”はなんでもいいかw

なにせ、ウチではしょっちゅうモノがなくなったりするから
・・・いや、それは私の不注意で、濡れ衣だな

でも、本書に出てくるみたいなおぢさんだとちょっと困る
なにせ、典型的なおぢさんだもんね

しょっちゅう世話が必要で、自分の趣味を押し付けたり、
違った価値観で口論になったり、お風呂嫌いで臭うとなるとさらに・・・
小さいからって、勝手に洗うのも失礼だし。

私も中途半端な菜食主義者だから、気が合わないかも・・・



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