1977年初版 昭和55年 第3刷 宮川やすえ/訳 梶鮎太/装幀 こさかしげる/挿絵
※「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します
ロシアというと、共産国、厳しすぎる寒さと貧しさがイメージされて
文学の中にも色濃く投影している気がする
本作からは、とても生真面目で、繊細すぎるほどの感性が溢れている
自然の美しさを言葉でどう讃美しても
五感で感じるほどは届かないけれども
ここまで精密に描ききる才能が凄い
長編を書く小説家は、自らが生まれ育った土地を舞台にするから
これほど精密に描写できるのか
いや、飛び抜けた観察眼と記憶力
それらを文章にする力量がないとムリだよな
純粋な子どもたちのやりとりを読んで、何度か泣きそうになった
【内容抜粋メモ】
●日本の子どもたちに
ある時、知人の作家と小学校の国語教育について話した
その時、作家はこう話した
ことばというものは、対象が目に浮かぶように教えなければならないから難しい
木と言ったら、それがくっきり見えなければならない
(ことばはテレパシーにはかなわないけどね
何年か後、いつも学校に遅れる息子が
先生にフシギに思われていることを知った母が叱ると
少年は「どうして遅れるのか自分でも分からない 森の中の近道を通っているのに」
そこから生まれたのが「冬のかしの木」という短編
■冬のかしの木
ウバーロフカ村から小学校までの小道を歩く24歳の先生アンナ
大学を卒業してここに来て2年経ち
国語を教えるのが上手だとみんなから褒められていた
1時間目の授業は5年A組で、名詞について生徒に答えさせていると
サーブシキンがまた遅刻して来て、みんなにまじって「冬のかしの木!」と答える
アンナ:まだ形容詞までは習っていないのよ 休み時間に教員室へいらっしゃい
歩いて30分ほどの道のりを1時間前に家を出てもどうしても遅刻してしまう
サーブシキンの父は第二次世界大戦で戦死して
母は4人の子どもを1人で育てている
サーブシキンに案内してもらい、母に注意してもらうよう言いに行こうとするが
森のウサギの足跡、泉、大きなかしの木などに感動していちいち足を止めて感心する
気づくと、サーブシキンの母が仕事に出る15時を過ぎている
アンナ:これからは大通りを通って学校へいらっしゃいね
アンナはこれまでなんと貧しい、冷たい授業をしてきたか気づく
ことばは素晴らしい人生のように生き生きと美しく、豊かであらねばならないのだ
アンナ:あんた、この道を通って学校へ来ていいわよ
サーブシキンが心配してアンナが帰るのを見送っているのを見て
森中でいちばん素晴らしいのは、かしの木ではなく
サーブシキンだと分かると胸があたたかくなる
■いたずらっ子カマロフ
4歳くらいの男の子が、なにかするたび保母らは叱る
ショートパンツの片方に両足を入れて歩いたため、他の子も将棋倒しになる(w
後日、幼稚園から脱走したカマロフを見る
幼稚園には猫の額ほどの運動場しかないのに
子どもがそこからちょっとでも出ると
保母さんは大声で追いかけて捕まえる
放し飼いの子牛を見て、大きな犬だと思い近づくと
子牛は怒って進み出るが、カマロフも負けてない
カエルを追いかけたりして冒険していると
保母、若い助手、乳母、皿洗い、看護婦、番人のおじいさんたちが取り囲み
カマロフの自由は終わった
カマロフは手に握ったカエルを気前よく差し出す(w
■恋と旗
学校のピオネール(国家組織の少年団 小学校4~7年生までが所属する)の大祭典で行進する
クラスいちばんの美女カーチャが隣りにいるので有頂天の僕と友だちのパーブリク
2人はカーチャの行く所どこへでも追いかけるほど恋している(今じゃストーカー行為だな/汗
ようやくカーチャと話すチャンスがあり、カーチャは苗字を変えたいと話す
話下手なパーブリクも小声で加わるが無視される
同情より裏切りの気持ちになる僕
僕たちは、劇場でビシネフスキー作の映画『陸軍第一騎兵隊』を観るが
ちっとも分からず、劇場中ざわつく中、僕はカーチャの髪にキスする(突然!?
僕たちの年代の男の子たちは、国内戦争の歌を聴いて大きくなり
いつかは戦場に行って死ぬのだ
そのころの僕たちの大部分は、この夢が叶ったものだった
恋の望みが叶ってうぬぼれた僕は、旗を担ぐと言い張り、年上旗手2人の間に立つ
旗は次第に重くなり、遅れがちになる
レーニン廟で旗を落として、無様に転ぶ姿がまざまざと浮かび
ただ空しく、恐ろしい孤独を感じていると、パーブリクが助けてくれる
家に帰り、女の子に初めてキスし、旗を持ち、友情を知った素晴らしい1日のあとが
どうしてあんなに悲しかったのか、思い出しては40歳になった今でも考えている
■ワーシャとかめのマーシカ
ワーシャは母と出かけた先で「生きものの店」を見つけて
2匹の小さなカメに夢中になり、ママに買ってと頼むが
ママ:ウチにはカメのマーシカがいるでしょ
人が生活していくには、努力とガマンが必要だと教えなければならない
ワーシャ:
ママはお金が惜しいだけさ
マーシカを誰かにあげるよ よぼよぼのばあさんガメなんだもん
ママがハンモックで昼寝をしている間に家を抜け出して
市場で「カメはいりませんか!」と何時間も叫ぶ
荷物おろしのおじさんが息子のために買うと言い、9ルーブルと言うと
荷物おろしのおじさん:7ルーブルしかないから家までくれば全額払うよ
おじさんに渡してから、マーシカが果物が好きなことなどいろいろ教えるが
おじさんはマーシカをポケットにつっこんで家に入ってしまう
ワーシャは有頂天で家に帰り、母に話すと、悲しい顔をする
母:あんたは昔から仲の良い1人の友だちより、新しい友だち2人のほうがいいのね・・・
ワーシャはマーシカが冬眠の途中で目を覚ましてしまわないかとか
いろいろ気になり、自分に腹が立ってきた
世界は自分のためにあるのではなく、自分が世界のために生きているのだ
世話になったらお返しをしなければならない
(これもある意味、共産国的
マーシカと取り換えてもらうため、子ガメ2匹と
いちばん大切なオモチャの鉄砲を持って、夜におじさんの家へと向かう
なにか予感がして起きると、息子がいないため
さっき聞いた家に行ったのだろうと思った母は
追いかけて、まもなく息子の後ろ姿が見える
子どもを育てるのは、なんと難しいことだろう
強くて正しい心をもつ子どもになってくれたら、どんなに嬉しいだろうと思いながら
ワーシャを呼び止めないで遠くからついて行った
■少女とこだま
30年前、避暑地での出来事
シネゴリア海岸に行くと、真っ裸の女の子が甲羅干ししている
セリョージャ:恥ずかしくないのかい?
ビーチカ:ちっちゃいうちは構わないってママが言ったわ
涙石のコレクションをしていると見せてと言われる
切手、自転車のマークも集めていると自慢する
ビーチカ:私はこだまをどっさり集めたわ
翌朝、ビーチカはセリョージャを連れてボリショエ・セドロ山に登る
森番の小屋に白犬が2匹いて吠えたてる
冒険物語に出てくるドラゴンだと想像するセリョージャ
「悪魔の指」で「セリョージャ」と叫ぶと、いろいろな所からこだまが返ってゾッとする
絶壁の上、狭い谷間、クラクラするほど高い崖の上から洞穴も教えてくれる
2人はすっかり仲良くなり、ビーチカが裸で海で泳いでいると
ガキ大将イーゴリたちが来てひやかし始める
ビーチカはセリョージャに助けを求めるが無視されて
ビーチカ:臆病者! 情けない弱虫! といって去る
イーゴリらにこだまの秘密を話してしまい、翌朝、連れて行く約束をする
朝から雨が降っていて、同じ場所から叫ぶがこだまは全然返ってこない
イーゴリ:うそつき
ママと市場に行った時、ビーチカに会った
紺のブラウスとスカートをはいていると、ビーチカだと分からなかった
ビーチカ:
ママがここに飽きてしまったから、あたし行くわ
あんたに集めたこだまをあげる
だから、あの子たちに見せてあげて仲直りしなさいよ
大事なのは、どの場所から叫ぶかってことなの
叫ぶ場所を細かく教えて去る
セリョージャの母はビーチカがとてもキレイな子だと褒める
母:あんたは、なにも分かってないんだから!
バスを追いかけると、窓越しに見えるビーチカは世界一美人だと思う
セリョージャ:ママが君はとてもキレイだって!
ビーチカは小川の向こうから銀貨を1枚投げる
川越しに銀貨を投げると、またここに戻るという言い伝えがある
セリョージャはシネゴリアを離れる時、銀貨を投げるのを忘れたため
2人はそれきり会えなかった
■サーシャとミーチャ
モスクワ郊外の別荘で遊ぶ少年2人
活発で機転の速いサーシャは飛行機ごっこや、北極探検などして想像力豊かだが
ミーチャは追いつけずにしぶしぶ付き合っている
鼻輪が大キライな雄牛が1頭逃げだす事件が起きる
牛飼いと牧童を突き倒したと聞いて、牧童と仲良くなったサーシャは同情し
早速、サーシャは暴れ牛ごっこをやろうと言い出す
雄牛は駅に行ったため、警官が銃を撃って脅かし
コルホーズ(集団農場)から誰か来てもらって殺そうという話になる
オートバイに乗り、猟銃を持った若者が、門にかんぬきをかけて
外に出ないよう命令していく
サーシャ:僕たちで牛を殺そう 別荘の持ち主の猟銃は弾がこめてあるんだ
(海外は身近に銃があるのがコワイよ・・・
屋根裏部屋の窓から牛に狙いをつけるが、急に可哀想になる
ミーチャ:あいつ、暴れん坊じゃないみたいだね
サーシャ:僕たちで助けてやろうよ
雄牛を庭に入れると、ノドが渇いていて、樽の水をごくごく飲みはじめる
おじさんが雄牛を引っ張って行く
おじさん:助けてくれて、ありがとう
手柄など気にしないサーシャ
手柄などいつでも手に入ることをよく知っていたのだ
■ピオネールの赤いネクタイ
終戦後、紙不足で、小学校のラキーチンたちはノートの隅から隅まで使った
新しいノート、糊の匂いのする画帳を開く時、どんなに嬉しかったことだろう
クラスの新しいピオネール委員長リーナが
学校中のクラスで紙くずを集める合同大会を発表した時
ラキーチンは待ってましたと喜んだ
2班の班長のラキーチンは、何度も負けているカルネーエフをやっつけようと意気込む
GFのニーナたち女子はみんな映画俳優にのぼせていた
ガキ大将カラーブホフと子分たちが待っているのが見えたため
劇場で働いているホロークの所に行くようすすめるニーナ
余ったポスターなどをたくさんもらう
翌朝早く、ラキーチン、ニーナ、パーブリク(この名前2回目だけど、ロシアでよくあるのかな)は
中央郵便局に一番乗りする
たくさんの手紙、封筒、パンフレット、新聞などが
コンベアで運ばれていく様を見てニーナは感動する
全部合わせて30kg
カルネーエフはその半分だったが、徐々に追いついてきて焦り
班のメンバーに呼びかけ、ののしり、鼓舞するラキーチン
死んだおじいさんの本も惜しげもなく紙くず回収所に持っていった
それでも、カルネーエフの班がついに追い越した
カルネーエフは小学校に上がる前の子どもたちに集めさせて
その代わりに動物園に連れて行ったり、スケートを教えたりすると約束した
ラキーチンは子どもを使うのはよくないと訴えたが
委員長リーナ:小さい時から社会生活に慣れさせることを考えだしたのは偉いわ
最後の日、また中央郵便局に行っても、もう何もない
負けたと思うと、大量に目の前を流れる『マッシュルームの育て方』の入門書にも腹が立つ
どうしてこんなものに紙をムダにするのか!
ラキーチンはそれを4束袋に入れる
リーナは自分のクラスが1位になったので大喜び
2班は1位だが、リーナはカルネーエフの働きをべた褒めする
そこに中央郵便局から新しいパンフレットが盗まれたと知らせが入る
ニーナはラキーチンがやったと思い、自分がやったと言い出す
ラキーチンはそれを嬉しく思うが、自分がやったと告白する
カルネーエフ:卑怯者!
秘書:ピオネールの赤いネクタイをしめる値打ちがない 隊から追い出せ
ラキーチンは自ら学校を出て、タバコを買い、吸って死のうと真面目に考えるが
なにも感じなかった
ラキーチンの学校にはオクチャブリャータ(ピオネールの前の組織)がなく
中央経済委員会附属の隊に入れてもらったが
1年後、親が会と関係ないと分かって追い出された
よその学校のピオネールに入ろうとして、追い出されたこともある
いつでも一生懸命やって来たのに・・・
カルネーエフへの憎しみが沸いて、学校に戻り、決闘を申し込む
誰も来ない共同便所のそばをケンカの場所に指定し
パーブリクを立会人にする
ケンカに弱いカルネーエフを相手にした途端、ケンカをやめたくなるが
なんでも最後までやり遂げるカルネーエフはやみくもにかかってきて
何度も殴られては倒れて、パーブリクが止めても聞かない
とうとう立ち上がれなくなり
カルネーエフ:もうやれない 生まれて初めてケンカをしたよ と言って去る
パーブリクはカルネーエフが学校全体の会議で話し合うべきだと言ったことを話す
ニーナは、パンフレットを盗んだラキーチンがカッコいいと思い、スケートに誘う
そこにもガキ大将カラーブホフと子分が来て
今度はラキーチンがケンカをふっかけて、ぼこぼこにやられる
周りの世界は少しも変わらないのに
僕だけが人生を始めからやり直さなくてはならないのだ
ラキーチンは翌日、学校をサボってモスクワ一周の旅をする
明日は休みだから、みんなとても幸せそうに見える
帰宅すると、パーブリクが来て、カルネーエフの演説で
ラキーチンは赤いネクタイを取り上げられずに済んだと話す
カルネーエフ:
ラキーチンはいちばん頼りになる人間だ
誰より一生懸命働いてるが、班を組織することができずに悔しいんですよ
ラキーチン:そうだ! 僕は本当に役立たずの班長だった!
その時ようやく、人を許すということが、どんなに力を持っているかを知る
■解説
ユーリイ・エム・ナギービン
1920年モスクワ生まれ
映画専門学校卒業後、第二次世界大戦に従軍し重傷を負った
ソビエトで彼の名前を知らない人はいない
映画のライターとして、黒澤明氏監督『デルス・ウザーラ』のシナリオも書いて
来日したこともある
※「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します
ロシアというと、共産国、厳しすぎる寒さと貧しさがイメージされて
文学の中にも色濃く投影している気がする
本作からは、とても生真面目で、繊細すぎるほどの感性が溢れている
自然の美しさを言葉でどう讃美しても
五感で感じるほどは届かないけれども
ここまで精密に描ききる才能が凄い
長編を書く小説家は、自らが生まれ育った土地を舞台にするから
これほど精密に描写できるのか
いや、飛び抜けた観察眼と記憶力
それらを文章にする力量がないとムリだよな
純粋な子どもたちのやりとりを読んで、何度か泣きそうになった
【内容抜粋メモ】
●日本の子どもたちに
ある時、知人の作家と小学校の国語教育について話した
その時、作家はこう話した
ことばというものは、対象が目に浮かぶように教えなければならないから難しい
木と言ったら、それがくっきり見えなければならない
(ことばはテレパシーにはかなわないけどね
何年か後、いつも学校に遅れる息子が
先生にフシギに思われていることを知った母が叱ると
少年は「どうして遅れるのか自分でも分からない 森の中の近道を通っているのに」
そこから生まれたのが「冬のかしの木」という短編
■冬のかしの木
ウバーロフカ村から小学校までの小道を歩く24歳の先生アンナ
大学を卒業してここに来て2年経ち
国語を教えるのが上手だとみんなから褒められていた
1時間目の授業は5年A組で、名詞について生徒に答えさせていると
サーブシキンがまた遅刻して来て、みんなにまじって「冬のかしの木!」と答える
アンナ:まだ形容詞までは習っていないのよ 休み時間に教員室へいらっしゃい
歩いて30分ほどの道のりを1時間前に家を出てもどうしても遅刻してしまう
サーブシキンの父は第二次世界大戦で戦死して
母は4人の子どもを1人で育てている
サーブシキンに案内してもらい、母に注意してもらうよう言いに行こうとするが
森のウサギの足跡、泉、大きなかしの木などに感動していちいち足を止めて感心する
気づくと、サーブシキンの母が仕事に出る15時を過ぎている
アンナ:これからは大通りを通って学校へいらっしゃいね
アンナはこれまでなんと貧しい、冷たい授業をしてきたか気づく
ことばは素晴らしい人生のように生き生きと美しく、豊かであらねばならないのだ
アンナ:あんた、この道を通って学校へ来ていいわよ
サーブシキンが心配してアンナが帰るのを見送っているのを見て
森中でいちばん素晴らしいのは、かしの木ではなく
サーブシキンだと分かると胸があたたかくなる
■いたずらっ子カマロフ
4歳くらいの男の子が、なにかするたび保母らは叱る
ショートパンツの片方に両足を入れて歩いたため、他の子も将棋倒しになる(w
後日、幼稚園から脱走したカマロフを見る
幼稚園には猫の額ほどの運動場しかないのに
子どもがそこからちょっとでも出ると
保母さんは大声で追いかけて捕まえる
放し飼いの子牛を見て、大きな犬だと思い近づくと
子牛は怒って進み出るが、カマロフも負けてない
カエルを追いかけたりして冒険していると
保母、若い助手、乳母、皿洗い、看護婦、番人のおじいさんたちが取り囲み
カマロフの自由は終わった
カマロフは手に握ったカエルを気前よく差し出す(w
■恋と旗
学校のピオネール(国家組織の少年団 小学校4~7年生までが所属する)の大祭典で行進する
クラスいちばんの美女カーチャが隣りにいるので有頂天の僕と友だちのパーブリク
2人はカーチャの行く所どこへでも追いかけるほど恋している(今じゃストーカー行為だな/汗
ようやくカーチャと話すチャンスがあり、カーチャは苗字を変えたいと話す
話下手なパーブリクも小声で加わるが無視される
同情より裏切りの気持ちになる僕
僕たちは、劇場でビシネフスキー作の映画『陸軍第一騎兵隊』を観るが
ちっとも分からず、劇場中ざわつく中、僕はカーチャの髪にキスする(突然!?
僕たちの年代の男の子たちは、国内戦争の歌を聴いて大きくなり
いつかは戦場に行って死ぬのだ
そのころの僕たちの大部分は、この夢が叶ったものだった
恋の望みが叶ってうぬぼれた僕は、旗を担ぐと言い張り、年上旗手2人の間に立つ
旗は次第に重くなり、遅れがちになる
レーニン廟で旗を落として、無様に転ぶ姿がまざまざと浮かび
ただ空しく、恐ろしい孤独を感じていると、パーブリクが助けてくれる
家に帰り、女の子に初めてキスし、旗を持ち、友情を知った素晴らしい1日のあとが
どうしてあんなに悲しかったのか、思い出しては40歳になった今でも考えている
■ワーシャとかめのマーシカ
ワーシャは母と出かけた先で「生きものの店」を見つけて
2匹の小さなカメに夢中になり、ママに買ってと頼むが
ママ:ウチにはカメのマーシカがいるでしょ
人が生活していくには、努力とガマンが必要だと教えなければならない
ワーシャ:
ママはお金が惜しいだけさ
マーシカを誰かにあげるよ よぼよぼのばあさんガメなんだもん
ママがハンモックで昼寝をしている間に家を抜け出して
市場で「カメはいりませんか!」と何時間も叫ぶ
荷物おろしのおじさんが息子のために買うと言い、9ルーブルと言うと
荷物おろしのおじさん:7ルーブルしかないから家までくれば全額払うよ
おじさんに渡してから、マーシカが果物が好きなことなどいろいろ教えるが
おじさんはマーシカをポケットにつっこんで家に入ってしまう
ワーシャは有頂天で家に帰り、母に話すと、悲しい顔をする
母:あんたは昔から仲の良い1人の友だちより、新しい友だち2人のほうがいいのね・・・
ワーシャはマーシカが冬眠の途中で目を覚ましてしまわないかとか
いろいろ気になり、自分に腹が立ってきた
世界は自分のためにあるのではなく、自分が世界のために生きているのだ
世話になったらお返しをしなければならない
(これもある意味、共産国的
マーシカと取り換えてもらうため、子ガメ2匹と
いちばん大切なオモチャの鉄砲を持って、夜におじさんの家へと向かう
なにか予感がして起きると、息子がいないため
さっき聞いた家に行ったのだろうと思った母は
追いかけて、まもなく息子の後ろ姿が見える
子どもを育てるのは、なんと難しいことだろう
強くて正しい心をもつ子どもになってくれたら、どんなに嬉しいだろうと思いながら
ワーシャを呼び止めないで遠くからついて行った
■少女とこだま
30年前、避暑地での出来事
シネゴリア海岸に行くと、真っ裸の女の子が甲羅干ししている
セリョージャ:恥ずかしくないのかい?
ビーチカ:ちっちゃいうちは構わないってママが言ったわ
涙石のコレクションをしていると見せてと言われる
切手、自転車のマークも集めていると自慢する
ビーチカ:私はこだまをどっさり集めたわ
翌朝、ビーチカはセリョージャを連れてボリショエ・セドロ山に登る
森番の小屋に白犬が2匹いて吠えたてる
冒険物語に出てくるドラゴンだと想像するセリョージャ
「悪魔の指」で「セリョージャ」と叫ぶと、いろいろな所からこだまが返ってゾッとする
絶壁の上、狭い谷間、クラクラするほど高い崖の上から洞穴も教えてくれる
2人はすっかり仲良くなり、ビーチカが裸で海で泳いでいると
ガキ大将イーゴリたちが来てひやかし始める
ビーチカはセリョージャに助けを求めるが無視されて
ビーチカ:臆病者! 情けない弱虫! といって去る
イーゴリらにこだまの秘密を話してしまい、翌朝、連れて行く約束をする
朝から雨が降っていて、同じ場所から叫ぶがこだまは全然返ってこない
イーゴリ:うそつき
ママと市場に行った時、ビーチカに会った
紺のブラウスとスカートをはいていると、ビーチカだと分からなかった
ビーチカ:
ママがここに飽きてしまったから、あたし行くわ
あんたに集めたこだまをあげる
だから、あの子たちに見せてあげて仲直りしなさいよ
大事なのは、どの場所から叫ぶかってことなの
叫ぶ場所を細かく教えて去る
セリョージャの母はビーチカがとてもキレイな子だと褒める
母:あんたは、なにも分かってないんだから!
バスを追いかけると、窓越しに見えるビーチカは世界一美人だと思う
セリョージャ:ママが君はとてもキレイだって!
ビーチカは小川の向こうから銀貨を1枚投げる
川越しに銀貨を投げると、またここに戻るという言い伝えがある
セリョージャはシネゴリアを離れる時、銀貨を投げるのを忘れたため
2人はそれきり会えなかった
■サーシャとミーチャ
モスクワ郊外の別荘で遊ぶ少年2人
活発で機転の速いサーシャは飛行機ごっこや、北極探検などして想像力豊かだが
ミーチャは追いつけずにしぶしぶ付き合っている
鼻輪が大キライな雄牛が1頭逃げだす事件が起きる
牛飼いと牧童を突き倒したと聞いて、牧童と仲良くなったサーシャは同情し
早速、サーシャは暴れ牛ごっこをやろうと言い出す
雄牛は駅に行ったため、警官が銃を撃って脅かし
コルホーズ(集団農場)から誰か来てもらって殺そうという話になる
オートバイに乗り、猟銃を持った若者が、門にかんぬきをかけて
外に出ないよう命令していく
サーシャ:僕たちで牛を殺そう 別荘の持ち主の猟銃は弾がこめてあるんだ
(海外は身近に銃があるのがコワイよ・・・
屋根裏部屋の窓から牛に狙いをつけるが、急に可哀想になる
ミーチャ:あいつ、暴れん坊じゃないみたいだね
サーシャ:僕たちで助けてやろうよ
雄牛を庭に入れると、ノドが渇いていて、樽の水をごくごく飲みはじめる
おじさんが雄牛を引っ張って行く
おじさん:助けてくれて、ありがとう
手柄など気にしないサーシャ
手柄などいつでも手に入ることをよく知っていたのだ
■ピオネールの赤いネクタイ
終戦後、紙不足で、小学校のラキーチンたちはノートの隅から隅まで使った
新しいノート、糊の匂いのする画帳を開く時、どんなに嬉しかったことだろう
クラスの新しいピオネール委員長リーナが
学校中のクラスで紙くずを集める合同大会を発表した時
ラキーチンは待ってましたと喜んだ
2班の班長のラキーチンは、何度も負けているカルネーエフをやっつけようと意気込む
GFのニーナたち女子はみんな映画俳優にのぼせていた
ガキ大将カラーブホフと子分たちが待っているのが見えたため
劇場で働いているホロークの所に行くようすすめるニーナ
余ったポスターなどをたくさんもらう
翌朝早く、ラキーチン、ニーナ、パーブリク(この名前2回目だけど、ロシアでよくあるのかな)は
中央郵便局に一番乗りする
たくさんの手紙、封筒、パンフレット、新聞などが
コンベアで運ばれていく様を見てニーナは感動する
全部合わせて30kg
カルネーエフはその半分だったが、徐々に追いついてきて焦り
班のメンバーに呼びかけ、ののしり、鼓舞するラキーチン
死んだおじいさんの本も惜しげもなく紙くず回収所に持っていった
それでも、カルネーエフの班がついに追い越した
カルネーエフは小学校に上がる前の子どもたちに集めさせて
その代わりに動物園に連れて行ったり、スケートを教えたりすると約束した
ラキーチンは子どもを使うのはよくないと訴えたが
委員長リーナ:小さい時から社会生活に慣れさせることを考えだしたのは偉いわ
最後の日、また中央郵便局に行っても、もう何もない
負けたと思うと、大量に目の前を流れる『マッシュルームの育て方』の入門書にも腹が立つ
どうしてこんなものに紙をムダにするのか!
ラキーチンはそれを4束袋に入れる
リーナは自分のクラスが1位になったので大喜び
2班は1位だが、リーナはカルネーエフの働きをべた褒めする
そこに中央郵便局から新しいパンフレットが盗まれたと知らせが入る
ニーナはラキーチンがやったと思い、自分がやったと言い出す
ラキーチンはそれを嬉しく思うが、自分がやったと告白する
カルネーエフ:卑怯者!
秘書:ピオネールの赤いネクタイをしめる値打ちがない 隊から追い出せ
ラキーチンは自ら学校を出て、タバコを買い、吸って死のうと真面目に考えるが
なにも感じなかった
ラキーチンの学校にはオクチャブリャータ(ピオネールの前の組織)がなく
中央経済委員会附属の隊に入れてもらったが
1年後、親が会と関係ないと分かって追い出された
よその学校のピオネールに入ろうとして、追い出されたこともある
いつでも一生懸命やって来たのに・・・
カルネーエフへの憎しみが沸いて、学校に戻り、決闘を申し込む
誰も来ない共同便所のそばをケンカの場所に指定し
パーブリクを立会人にする
ケンカに弱いカルネーエフを相手にした途端、ケンカをやめたくなるが
なんでも最後までやり遂げるカルネーエフはやみくもにかかってきて
何度も殴られては倒れて、パーブリクが止めても聞かない
とうとう立ち上がれなくなり
カルネーエフ:もうやれない 生まれて初めてケンカをしたよ と言って去る
パーブリクはカルネーエフが学校全体の会議で話し合うべきだと言ったことを話す
ニーナは、パンフレットを盗んだラキーチンがカッコいいと思い、スケートに誘う
そこにもガキ大将カラーブホフと子分が来て
今度はラキーチンがケンカをふっかけて、ぼこぼこにやられる
周りの世界は少しも変わらないのに
僕だけが人生を始めからやり直さなくてはならないのだ
ラキーチンは翌日、学校をサボってモスクワ一周の旅をする
明日は休みだから、みんなとても幸せそうに見える
帰宅すると、パーブリクが来て、カルネーエフの演説で
ラキーチンは赤いネクタイを取り上げられずに済んだと話す
カルネーエフ:
ラキーチンはいちばん頼りになる人間だ
誰より一生懸命働いてるが、班を組織することができずに悔しいんですよ
ラキーチン:そうだ! 僕は本当に役立たずの班長だった!
その時ようやく、人を許すということが、どんなに力を持っているかを知る
■解説
ユーリイ・エム・ナギービン
1920年モスクワ生まれ
映画専門学校卒業後、第二次世界大戦に従軍し重傷を負った
ソビエトで彼の名前を知らない人はいない
映画のライターとして、黒澤明氏監督『デルス・ウザーラ』のシナリオも書いて
来日したこともある