原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

執行停止の申立て~平成21年・公法・第2問を素材に

2011-02-13 | 行政法的内容


三連休,岡山→倉敷と回ってきました。岡山の後楽園,倉敷の美観地区,とても綺麗。「渋い」と思われるかもしれませんが,そういうの好きです(笑)横浜のみなとみらいや神戸のパーバーランドなんかの海辺の都会的な街並みも好きだし,渋谷や道頓堀なんかのごちゃごちゃしたところも好きだし,那覇の国際通りのような一見すると日本じゃないような街も好きだし,京都や金沢の茶屋街なんかの歴史的な風情を感じる街も好きだし,札幌や仙台なんかの東京よりちょっとゆったりとした大都市も好きだし,それから名古屋の地下街で迷子になるのも好きです(笑)写真は,倉敷(その1)。岡山・倉敷の話はまた次回以降に。

さて,2つ前の記事から引き続き,平成21年の行政法について。様々な利害関係を有する原告が登場する,マンション建設反対の事案ですね。前回,原告適格について言及したので,今日は,仮の救済(執行停止)について。仮の救済は,ほとんどの年で書くことになるので,受験生も準備万端のテーマかと思いきや採点雑感によれば…

①「執行停止に関して,行政事件訴訟法の要件を解釈した上で,本件を適切に当てはめて利益衡量を行った答案は,極めて少数であった」

②「多くの答案は,侵害される利益や訴えの利益の消滅のおそれにかんがみて執行停止が認められるといった程度の記述にとどまっていた」

③「重大な損害の解釈について論じないまま,結論のみを述べる答案も見られた」

④「執行停止の必要性について論じているものは少ない」

このようなことが述べられています(以上の,①~④の4文が,「書き方」「どこまで書くか」を見極めるうえで,私なりに重要だと思う点です)。この採点雑感に従えば,執行停止は次のように述べればよいことになります。

まず,執行停止の必要性(④)を示す必要があります。抽象的に言えば,執行不停止原則(25Ⅰ)のことです。ただ,それだけでは具体的事案に即して述べたとはいえないので,例えば,本件においては,問題のマンションが完成すれば訴えの利益がなくなってFらは本案を維持できなくなる,ということまで述べる必要があります。なお,ここでは「本案を維持できなくなる」でとどめておくのが適切です。「係争機会が奪われる」まで書いてしまうと不適切。仮に建物が完成して,建築確認の取消訴訟が却下されることになっても,何となれば,除去命令(建築基準法9条)の義務付けなどをする余地は残されているからです。

次に,そして,執行停止の論述のヤマになるのは,「重大な損害」要件です。これは,重大な損害についての解釈を示さなくてはいけません(③)。確かに,非常に抽象的な要件ですからね。ここは,定説のないところかと思いますので,どのレベルに至れば重大な損害かは,「事後の金銭賠償で回復が不可能もしくは可能であっても著しく不適切」などの規範でよいでしょう。そして,それをどう判断するか(どのような視点で判断するか)と言えば,25Ⅲです。これは,しっかりと条文を適示必要があります。

なお,ここでの重大な損害とは何か?合格者の答案を見ていても,きちんと指摘できている答案は意外と少ない。工事による騒音?建物が完成してしまうと訴えの利益がなくなること?いずれも違います。原告は,何を問題にしているか?いかなる利益の侵害を根拠として訴えを提起しているか?この部分は,原告適格で検討したこと,要は,個々の原告らの被侵害利益に着目しなくてはいけません(それと整合しなくてはいけません)。Fについては,問題のマンションが倒壊してしまえば,自らの「生命」(建築基準法1条)が危機にさらされる可能性があるのですね。生命は,「事後の金銭賠償で回復が不可能」です。Gは,「財産」ですね。これも,マンションの価値が莫大であることからすると,「事後の金銭賠償は可能であるが著しく不適切」と言えるでしょう。仮に,侵害されるGの損害が,車一台程度の財産的損害であったら,これは事後的な金銭賠償でいいのではないかと思います。騒音損害やなどを捉えて「重大な損害」としてしまうと,それは論理的な整合性を欠く答案となります。

さらに,「緊急の必要」の要件も問題になりますが,これは本案終結までに工事が完成してしまうこと(訴えの利益が失われること)を指摘できればいいでしょう。

また,「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがない」ことも要件として,しっかりと認定しなくてはいけません。この要件,例えば,「本件においては,まだ建物が完成していないので『業者の』損害もそれほど大きくない」などというようなことではありません。あくまでも,「公共の」福祉に対する影響です。本件でいえば,損害を被るのは,業者という一私人にすぎないのであって,公共の福祉全体への影響はないのですね。これが例えば,ごみ処理場の場合だとごみを処分できなくなるという公共の利益への影響が考えられ(人口の急増などの事情があれば),また,刑務所建設の場合でも同じでしょう。近時,仮釈放が認められにくくなったり,あるいは,犯罪そのものの増加・刑期の長期化などの事情から刑務所が過剰収容状態になっていると言われており(←明日,刑務所見学です),そうした事情のもとであれば,公共の福祉への重大な影響アリとされる可能性があるでしょう。

以上,ポイントをさらっと書きました。仮の救済は,準備がしやすい部分ですので,しっかりと点数を確保したいところです。


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