原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

「罪責を論ずる」ということ~あてはめの書き方で理解度はわかる

2011-02-03 | 刑法的内容
今日は,全国的にいくぶんかは寒さが和らいでいるのでしょうか?広島も週末くらいと比較すると,寒さも峠を越えたか,と思う感じです。陽も(日も?)長くなって,これから春になっていくのだな,と思われます。まぁ,まだ2月の上旬ですから,もう1回や2回は寒気が流れ込んでくるのでしょうけど…。

と,そんな今日も,講話&講義&起案。明日までこんな感じの予定です。

さて,今日は「罪責を論ずる」ということを。司法試験のおける刑法の「お決まり」の出題が,この「罪責を論ぜよ」です。これがどういうことを意味するのかを厳密に定義するのは難しいのかもしれませんが,さしあたりは,「いかなる犯罪が成立するか,そして,罪数処理はどうなるか」という意味で捉えればよいでしょう。

この罪責を論ずる前提として,「行為をどのように捉えるか」(例えば,甲が乙宅に窃盗に入って現金を盗み,ATMに行って自己の口座に入金した後,もう一度,乙宅に入って同じく現金を盗んだとして,これを1個の行為と捉えるか2個の行為と捉えるか)が問題となりますが,ここは今日はさらっと。この点は,目的(範囲)や被害者・被害品の同一性,などから一連の1個の行為と捉えられるか,という視点で考えていくのでした。先の事案でも,「まずはとりあえず見つかった10万円を取ってそれを入金して,もう一度物色しよう」という意思・目的(犯意)であれば1個の行為でしょうし,「10万円見つけて入金したものの,それでは不満でさらに金品を摂取しよう」と新たな犯意が生じたのであれば,これは別個の2個の行為と評価できるでしょう。その場合,併合罪ですね。

さて,本題。「罪責を論ぜよ」とは,「いかなる犯罪が成立するか」の問題ですから,思いっきり基本に立ち返ると,論ずるべきは,①構成要件を充足すること,②違法性阻却事由がないこと,③責任阻却事由がないこと,を論ずる必要があります。もっとも,②と③は,訴訟法的にも,弁護人が少なくとも争点を顕在化させなばならない,検察官に不存在の立証責任まではないと考えられていますので,特に問題にならない限り,論ずる必要はないと言えます。②ならば,例えば,正当防衛が成立する可能性がある時のみ,論ずればよいと言えます。

とすると,罪数部分を除いて,常に論じなくてはならないのは,①構成要件充足性です。とうぜん,実行行為,結果,因果関係,故意が論述の基本となり,これを「事実に即して」(←刑事系の出題趣旨・ヒアリング等で散々出てくる表現)。で,この部分で,刑法の理解が問われます(各論の「論点」はここで意味を持つ)。構成要件要素の意義(規範)を正しく理解しているか(法理論),それを適切にあてはめられるか(事実の分析・評価)ですね。平成20年のヒアリングでは,「車の両輪」と表現される点です。

すごく有名な点,強盗罪の「暴行・脅迫」で説明します。「暴行・脅迫」とは,反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫ですね。そして,それは,社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するかという客観的基準(客観説)で決せられるのであって,具体的事案の被害者の主観を基準とする(主観説)ではないのですね(判例・通説)。ここまでは,ほとんどの受験生がパスすると思います。今,流行の言い方なら,

上位規範:反抗抑圧程度の暴行・脅迫

中位規範:客観説

下位規範:日時,場所,被害者の年齢・性別・体格と加害者のそれとの比較,凶器の使用の有無,脅迫文言の内容とそれが発せられた状況,などの客観的事情から総合判断

こんな感じになります。あてはめの視点として,下位規範(事実を抽出すべき視点)を出しておくのですね。規範とあめはめにブリッジを架けて論理性を高める,という意味で,下位規範を提示しておくことは有意義だと思います。

で,問題はここから先です。例えば,問題文に「被害者はナイフを突きつけられ,『このままでは殺されてしまうのではないか』と強く思い,財布を差し出した」などとあると,答案で,

「本件では,被害者は殺されてしまうと思って財布を差し出したのであり,だとすれば反抗抑圧程度の暴行・脅迫があったといえる」

などと書いてしまいがちです。ですが,これがまずいのはわかりますよね。主観説的なあてはめになってしまっていて,規範とあてはめが整合していないのです。書くならば,

「本件では,加害者は被害者にナイフを突きつけられている。ナイフは,人を殺傷する能力を有するものであり(←事実の評価・分析),そうであれば,被害者の反抗を抑圧するに十分であったといえる」

が,客観説的視点からの正しいあてはめです。「事実の評価・分析」をしっかりすることも,大事なポイントですので,意識してください。

もう一つ,故意(構成要件的故意)について。

まず,あまりよくない書き方として…

「加害者は,犯行当時,金策に窮していた。また,被害者が宝くじに当選し,億単位のカネを持っていることを知っていた。そして,凶器のナイフに指紋を残さないようにと,犯行前日に手袋を購入していたので,強盗の故意があったといえる」

どこが良くないか,わかりますか?わからない場合,「(構成要件的)故意」についての理解が不十分です。

(構成要件的)故意は,いつ要求されるのでしょうか?それは,実行行為時です。仮に,「よくない書き方」の事情があったとしても,実行行為時には反抗抑圧程度の暴行を加える意思はなかったのかもしれないし,恐喝の意思に変わっていたかもしれない。「よくない書き方」は全て実行行為前の事情であって,これは,実行行為時に故意があったことを推認する積極的な間接事実には間違いないけれども,直接に故意を基礎づけるものではないのですね。ですから,

「加害者は,被害者の首筋にナイフを突きつけている。そして,ナイフを突きつけた状態で,ドスきいた低い声で『カネ出さんとどうなるかわかっとるけえの』と述べている」

などが適切な事実の指摘です。「よくない書き方」で挙げた間接事実は,故意を認定するために,付加的に述べるべきでしょうね。

ロースクールではあまり指導されないであろう,実戦的な点について少し書いてみました。参考にしてください。

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2 コメント

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今日の記事を読んで (匿名)
2011-02-03 22:19:32
やっぱり先生の論文講座が受けたいです。労働法の過去問講座もすごく良かったですし。どうして修習中は兼業が一律に禁止されるのでしょうか?法律と無関係の業務ならまだしも、司法試験受験指導は法律学で、修習の阻害どころか促進効果があるはずです。こういったものまで禁止するのは実質的関連性どころか合理的関連性もないように思います。どなたかも言っておられましたが、先生が教壇から離れるのは社会的にも大きな損失であると思います。

勝手な書き込みですみません。今日の記事はとてもためになりました。これからも更新を楽しみにしていますのでよろしくお願いします。
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Unknown (はら)
2011-02-04 01:14:21
そう言って頂けるのは大変ありがたいのですが…,今年は勘弁してください(笑)教壇への復帰時期が遅れるのは嫌なので,それから迷惑をかけてしまう方もいるので,今年は大人しくします(笑)

目的・手段審査,上手な考察だと思います(笑)まぁ,そうなんですよね。法律を教えるなら,そうなんですよね。適用違憲の主張もできるでしょうね。…と,考えてみると,この問題,良い問題ですね(笑)

貸与制に移行して,かつ,修習が依然として義務的であれば,違憲の可能性も高いのではないかと…。私は,自分が原告になる気は「さらさら」ないのですが,もし(仮の話ですよ!),今後,原告になる人が出たならば,私は手弁当で代理人をやってあげたいです。

もう少し,社会学的に考察してみても,この問題がなおのこと司法試験への参入を妨げているのですよね。世の中には,1年くらい働かなくてもどうってことない人もいて,そういう人には問題にならないのでしょうが,そうではない人も多いわけです。私が知る限りでも,この1年は厳しいということで合格しても修習に行けず…,という人が複数人います。家のローンだとか,子供の難病治療のためだとか,介護費用だとか,理由は様々なのですが,経済的理由で法曹の道を断念する(あるいはスタートが遅れる)なんてことは,決してあってはならない。しかし,事実,ある。だったら,何とかせねば…。

そういう風に思います。

ワンポイントアドバイスは,ブログで積極的にして参りますので,ぜひ参考にしてください!
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