大江戸余話可笑白草紙

お江戸で繰り広げられる人間模様。不定期更新のフィクション小説集です。

富貴天に在り ~新選組美男五人衆~ 68

2015年08月18日 | 富貴天に在り ~新選組美男五人衆~
第四章 日和見 ~馬詰柳太郎~

 隊を無断で脱したのが分かり、追っ手が掛けられたら、馬詰父子では成す術が無い。信十郎は流石に年の功で、その辺りも慎重に考えていた。
 が、そうするうちにも、お米が八木家に姿を現す回数が増え、柳太郎を冷やかす声は日増しに大きくなる。
 こうなっては、幹部に知れるのも時間の問題。いや、既に知られているのかも知れない。
 その日は、程なくしてやってきた。文久四(1984)年一月十五日、将軍・家茂の上洛に伴い、下坂していた新選組も帰陣を待っていたかのように、南部家当主の亀二郎が、八木家当主の源之丞を訪ったのである。隊士たちは、すわ縁組かと浮き足立って、二人が向かい合う座敷の障子越しに聞き耳を立てていた。そんな様子を、胸につかえを漢字ながら所在なく、前川家の門前に立ち尽くす柳太郎。
 案ずる様に、南部亀二郎は、お米の腹の子の話でやって来たのだが、八木家源之丞がそれを真っ向から否定。以前八木家の奉公人にお米が懸想し、勝手にあれやこれや言い触らしたが為、その奉公人は辞めてしまった経緯があった。
 だが、南部の手前、新選組に話は通すと約定していた。
 経緯を聞いた土方だが、正直、どうでも良い話である。しかし、源之丞の顔を立てる意味でも、柳太郎を呼び付けた。
 「何をしておる。入れ」。
 柳太郎は障子の外に正座している。
 「はい」。




ランキングに参加しています。ご協力お願いします。

人気ブログランキングへ

にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へにほんブログ村


最新の画像もっと見る

コメントを投稿