限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

沂風詠録:(第59回目)『国際人のグローバル・リテラシーの図書リスト(3)』

2010-06-07 09:33:07 | 日記
一昨日昨日に引き続いて私の授業、国際人のグローバル・リテラシーで使っている図書リストをご紹介する。

尚、今年(2010年)は、ライフネットの出口治明社長に中国のテーマについて『中国 歴史と思想』と題して特別講義をして頂いたので、今年は中国に関しては、多少枠組みを変更した。
ちなみに出口社長の推薦された参考図書は:
 【1】 都市国家から中華へ(殷周 春秋戦国)(中国の歴史・第2巻)(講談社)平勢隆郎
 【2】 モンゴルが世界史を覆す(日経ビジネス人文庫)杉山正明
 【3】 古代中国の文明観―儒家・墨家・道家の論争(岩波新書)浅野裕一
 【4】 http://www.icis.kansai-u.ac.jp/data/journal03-v2/journal03-v2-05-tanigawa.pdf

一般的に言って、中国の思想と言えば、儒教、孔子、論語という言葉が浮かんでくる。そしてあたかも中国社会が数千年来、儒教の教えで塗り固められていたかのように錯覚している。その上、儒教と言えば、論語に出てくるような、『仁、徳、礼』などヒューマニズムにあふれた紳士をような振る舞いをしている人をイメージしてしまう。しかし、このようなほの暖かいイメージは現実の中国の度を越した環境汚染、超格差社会、蔓延する汚職、などを目にした時に、無残にも完膚なきまでにたたきのめされてしまう。そして、一体中国は儒教の国なのか?儒教の教えは何故かくも現実の社会悪に対して無力なのか?と考え込んでしまうに違いない。

私が得た結論から述べると、中国社会の心棒を貫いているのはやはり儒教であるが、この儒教というのが日本人が考えているものと別のしろものである、と言うのが謎をとく鍵なのだ。更に言うと、日本人だけがいろいろな思想をごっちゃに受け入れているのではなく、中国だって、いろいろな思想を受け入れているが、それらには必ず上下関係が位置づけられていて、適用する順番が異なる。それらの関係を正しく理解すると、中国の現実、および過去の歴史的事実のほとんどが『理にかなっている』と理解できる。ただ、ここでいう『理』は、我々が通常理解している、普遍性のある社会正義、のことではなく、中国人が考える所の歴史的な理のことだ。

朝鮮(ここでは韓国と北朝鮮をまとめて朝鮮と称する)は日本の隣国でありながら、地勢的(geopolitic)な状況が日本と全くことなり、強国の中国、モンゴル、満州からの侵略を数千年にわたって受け続けてきた。そのため、本来的には日本人と心情的には一致するものを持っていたはずであるが、現在ではその行動規範が日本と全く異なってしまった。あたかも、日本人でもアメリカに移住して、二世、三世となると全くその行動規範がアメリカ人と同化するのと同じような現象だ。

朝鮮人の行動規範が大きく転換したのは、李朝(1392年 - 1910年)が儒教を国教とした点にあると私は思っている。朝鮮では儒教は日本と異なり、正しく受け入れられた。その結果を社会構造の変化、社会規範に見ることができる。DNA的に日本と一番近い朝鮮の社会を歴史的に俯瞰してみることで、『儒教』の本質が分かり、また逆に日本の本質が見えてくる。

明治の初期、岡倉天心は『アジアは一つ』と言い、福沢諭吉は『脱亜入欧』と言った。この相反する言葉は、どちらもそれぞれの体験からアジアというものを捉えた、彼らの信念のこもった発言であった。これらの言葉に、心情的に好感、反発を抱く前に、果たして自らがどれだけアジアと言うものを理解しているか問うて見る必要があると私は考える。理念的に漠然とアジアというものを考えるのではなく、実体としてのアジア、つまり『手触りのあるアジア感』が必要とされる。中国とインドはどちらもアジアの二大文明でありながら、中国人は歴史を書き残すことに異常なほどの執着心を見せるに対し、極言すれば、インドには歴史書がない、と言われる。この点がこれら二大文明の根本的なあり方の差を象徴している私は思っている。

南米というのは、私も1984年に2ヶ月弱、旅行するまでは、全く実感がつかめない地域、文明であった。しかしこの旅行以降、南米に関する報道は実感を以って理解できるようになった。とりわけ、 1996年の年末に発生し、1997年4月になって特殊部隊の突撃によってようやく解決したペルー大使館の人質事件の社会背景はよく理解できた。さらには、彼ら南米先住民(インデォ)の態度を間近にみることによって人としての生き方を教えられたことは、以前『南米先住民の高潔な人格』に書いた。



 10.中国 哲学(儒教、老荘、韓非子、墨子)、仏教

#1001 儒教の毒(PHP文庫) 村松暎
#1002 塩鉄論(岩波文庫) 曽我部静雄訳
#1003 儒教とは何か(中公新書) 加地伸行
#1004 朱子語類抄(講談社学術文庫) 三浦國雄
#1005 新訳仏教聖典(大法輪閣) 木津無庵編
#1006 韓非子(岩波文庫) 金谷治
#1007 孟子(岩波文庫) 小林勝人
#1008 論語(岩波文庫) 金谷治
#1009 荘子(中公文庫) 森三樹三郎
#1010 老子(中公文庫) 小川環樹
#1011 韓非子・墨子(平凡社・中国古典文学大系) 柿村峻、薮内清

 11.中国 歴史(史記、資治通鑑)、科学技術の発達

#1101 アジアの歴史―東西交渉からみた前近代の世界像(岩波現代文庫) 松田寿男
#1102 中国古代の科学(講談社学術文庫) 薮内清
#1103 入唐求法巡礼行記(中公文庫) 円仁(深谷憲一・訳)
#1104 夢渓筆談(平凡社東洋文庫) 沈括(梅原郁・訳)
#1105 論衡(平凡社東洋文庫) 王充(大滝一雄・訳)
#1106 中国科学の流れ(思索社) J・ニーダム(牛山輝代・訳、薮内清・解説)
#1107 史記・上中下(平凡社・中国の古典シリーズ) 司馬遷(野口定男・訳)
#1108 漢書・全8巻(ちくま学芸文庫) 班固(小竹武夫訳注)
#1109 正史・三国志・全8巻(ちくま学芸文庫) 陳 寿、裴松之(今鷹真、井波律子、小南一郎)
#1110 春秋左氏伝(平凡社・中国の古典シリーズ) 竹内照夫

 12.中国 庶民生活(唐、宋、元、明)、現代中国の諸問題

#1201 中国=文化と思想(講談社学術文庫) 林語堂(鋤柄治郎・訳)
#1202 新華僑(中公文庫) 莫邦富
#1203 内部・ある中国報告(朝日文庫) 船橋洋一
#1204 中国奥地紀行(平凡社東洋文庫) イザベラ・バード(金坂清則・訳)
#1205 東方見聞録1,2(平凡社東洋文庫) マルコ・ポーロ(愛宕松男・訳)
#1206 洛陽伽藍記(平凡社東洋文庫) 楊衒之(入矢義高訳注)
#1207 中国人・上下(時事通信社) フォックス・バターフィールド(佐藤 亮一・訳)
#1208 熱河日記・朝鮮知識人の中国紀行 ・1、2(平凡社東洋文庫) 朴趾源(今村与志雄・訳)
#1209 東京夢華録・宋代の都市と生活(平凡社東洋文庫) 孟元老(入矢義高、梅原郁・訳)
#1210 マッテオ・リッチ伝・1、2、3(平凡社東洋文庫) 平川祐弘
#1211 酷刑・血を戦慄の中国刑罰史(徳間文庫) 王永寛(尾鷲卓彦・訳)
#1212 康熙帝伝(平凡社東洋文庫) ブーヴェ(後藤末雄・訳、矢沢利彦・校注)
#1213 クルス『中国誌』・ポルトガル宣教師が見た大明帝国(講談社学術文庫) ガスパール ダ・クルス(日埜博司・訳)
#1214 中国近世の百万都市(平凡社) J・ジェルネ(栗本一男・訳)
#1215 醜い中国人―なぜ、アメリカ人・日本人に学ばないのか (カッパ・ブックス) 柏楊(張良沢、宗像隆幸、・訳)
#1216 日本語と漢字文明(WAC、ワック株式会社) 黄文雄
#1217 人間力!中国を駆ける男-- 研修・実習生を通して見る"大国"の実態(日刊現代) 河守俊行
#1218 中国が偉大になれない50の理由(ランダムハウス・講談社) デイヴィッド・マリオット、カール・ラクロワ(中谷和男・訳)

 13.韓国 哲学、歴史、科学技術、庶民生活、日本との関連

#1301 朝鮮儒教の二千年(朝日選書) 姜在彦
#1302 江戸時代の朝鮮通信使 (講談社学術文庫) 李進煕
#1303 三韓昔がたり(講談社学術文庫) 金素雲
#1304 海游録(平凡社東洋文庫) 申維翰(姜在彦・訳)
#1305 懲ひ録(東洋文庫) 柳成竜(朴鐘鳴・訳)
#1306 朝鮮幽囚記(平凡社東洋文庫) ヘンドリック・ハメル(生田滋・訳)
#1307 西洋と朝鮮(朝日選書) 姜在彦
#1308 人物韓国史(徳間文庫) 麗羅
#1309 朝鮮紀行(講談社学術文庫) イザベラ・バード(時岡敬子・訳)
#1310 物語韓国史(中公新書) 金両基
#1311 人物 朝鮮の歴史(明石書店) 李離和(南永昌、高演義、舘野アキラ、蜂須賀光彦・訳)
#1312 看羊録・朝鮮儒者の日本抑留記(平凡社東洋文庫) 姜(朴鐘鳴訳注)
#1313 オンドル夜話・現代両班考(中公新書) 尹学準
#1314 両班(ヤンバン)・李朝社会の特権階層(中公新書) 宮嶋博史

 14.インド、東南アジア・南米 歴史、社会、日本との関連

#1401 インディアスの破壊についての簡潔な報告(岩波文庫) ラス・カサス(染田秀藤・訳)
#1402 真臘風土記・アンコール期のカンボジア(平凡社東洋文庫) 周達観(和田久徳・訳)
#1403 不思議のフィリピン -- 非近代社会の心理と行動(NHKブックス) 中川剛
#1404 ニューギニア紀行・19世紀ロシア人類学者の記録(平凡社) N・ミクルホ=マクライ(畑中幸子、田村ひろ子・訳)
#1405 ペルー征服(講談社学術文庫) W・H・プレスコット(石田外茂一、真木昌夫・訳)
#1406 バタヴィア城日誌1,2,3(平凡社東洋文庫) 村上直次郎、中村孝志
#1407 琉球王国(岩波新書) 高良倉吉
#1408 クック太平洋探検(岩波文庫) 増田義郎訳
#1409 文明の生態史観(中公文庫) 梅棹忠夫
#1410 文明の生態史観はいま(中公叢書) 梅棹忠夫編
#1411 セイロン島誌(平凡社東洋文庫) ロバート・ノックス(浜屋悦次・訳)
#1412 アレクサンドロス大王東征記・上下 -- 付インド誌(岩波文庫) フラウィオス・アッリアノス(大牟田章・訳)
#1413 インド思想史(岩波文庫) J.ゴンダ(鎧淳・訳)
#1414 物語 バルト三国の歴史(中公新書) 志摩園子

以上で、私が『国際人のグローバル・リテラシー』の授業で使っている図書リストの紹介を終わる。
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