獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

山崎浩子『愛が偽りに終わるとき』第1章 その2

2022-12-02 01:47:00 | 統一教会

以下の文章は、山崎浩子『愛が偽りに終わるとき』(文藝春秋1994年3月)
より、引用しました。
著作権上、問題があればすぐに削除する用意がありますが、できるだけ多くの人に読んでいただく価値がある本だと思いますので、できるだけ本の内容を忠実に再現しています。
なお、漢数字などは読みやすいように数字に直しました。

(目次)
■第1章 「神の子」になる
□第2章 盲信者
□第3章 神が選んだ伴侶
□第4章 暴かれた嘘
□第5章 悪夢は消えた
□あとがき



“霊眼”の開けた青年との出会い
彼女から話を聞いた私も、その内容に大変興味を持った。
この世には、科学では解明しきれない、何かしらのエネルギーがあるのではないかと思っていた私は、霊界や先祖の因縁話がきらいではなかった。そのO氏から何か話を聞けば、自分の新たな道が開けるような気がした。
でも、私には自分以上に大切な人生の師というべき人がいた。それは、高校時代の恩師だった。
当時、先生は学校を辞められたばかりで、環境が変わり、何かと悩みの多い時期でもあった。それに、先生も占いがきらいじゃないはずだし、自分よりもむしろ先生の方を観てもらいたいという気になった。
「あのサァ、先生が二、三日東京に出てくるからサ、先生を観てもらおうか」
私はT子と相談し、あるホテルのレストランで、4人で会うことになった。
T子と私と恩師、そしてO氏。
霊感が強いといわれるO氏は、私の目には、ただの純朴な青年に見えた。以前は警官だったというが、サラリーマンふうのスーツを着込み、赤ら顔で、とても霊眼が開けているという雰囲気ではなかった。実直そのもので、人が悪そうには見えなかった。
恩師を前にしてO氏は、紙とペンを取り出し図解しながら、人間には二つの心がある、悪なる心を善なる心の方へと移行させていかなければならないというようなことを言っていた。
ニコニコと笑いながら、またある時は恩師の目をじっと見つめながら、身をのりだすように懸命に話していた。
いくらか話すうちに、O氏は私という人間にも興味を持ったようだった。
「いやあ、山崎さんとも今度ゆっくり話してみたいもんですねえ」
私もそんな気になって、
「そうですね」
と答えた。
話を終え、礼を言ってO氏と別れた私は、恩師に感想を聞いてみた。
「何かあの人はあんまり信じられん。質問されてこっちが言ったことに反応してるだけで、その人を見ただけで当てるというのじゃないから。話してる内容も、悪なる心を善なる心に……なんて、当たり前の話だし」
そっけない答えだった。いろいろ悩みの多い先生だけに、何かお役に立てればと思っていたのだが、ちょっぴり残念だった。
けれど私は、当たり前の話ではあっても、それがとても整理されていて、紙にスラスラと書きながら説明してくれることに興味を持ち、O氏の言う通り、ゆっくり話す機会をつくることにした。


いちばん高い印鑑を買う
今度は、自分を観てもらうために、友人T子とO氏と三人で会った。
生年月日、字画、……そして聞かれるままに自分の家族のことや経歴を話した。
O氏は、いちいち「ああ、そうですかあ」「ふうん、なるほど~」と、あいの手を入れながら、真剣に聞いてくれた。そして、私たち二人を見比べて、納得したように何度もうなずくと、
「いやあ、T子さんと山崎さん、お二人似てらっしゃいますねえ」
と言った。それから手相を観ながら、
「本当に先祖の守りが大きいですね。ウ~ン、苦労をされてきましたねえ。お父さんが亡くなられたんですね。そうですか。これはお父さんの助けが大きかったです。浩子さんが新体操で世界に出ていくために、ずいぶん後押しをされたんでしょう。それでここまでやってこられたんですよ。でも、今は転換期です。T子さんと一緒ですよ。今までグーンとあがってきた運勢ですけれども、多少停滞してますね。このまま、またあがっていくのか、これから落ちていくのか、今が本当にいちばん大切な時に来ています」
私は、自分自身の今の時期というものを考えてみた。88年という年は、私の新たなスタートの年であった。
新体操の現役を引退して4年。後進の指導にあたる面白さに目覚め、やっとの想いで新体操スクールの開校にこぎつけたのが88年の4月である。何百人という子供たちに接し、十数人のスタッフを抱え、気の安まる時がなかった。
自分の一言が、大きな意味を持ち、子供たちやスタッフに影響を及ぼしていく。指導すること、スタッフの長としてやっていくことに、今まで自分がやってきたことでは得られない、何か大きな自信が必要な時だった。
「今がいちばん大切な時」という言葉は、スーツと私の心の中に入っていった。
もしも、私の運勢が落ちる方向に行くとしたら、せっかく開校できた新体操スクールも衰退していくに違いない。スタッフともうまくやっていけなくなるに違いない。
「自分の精いっぱいのお金で買えるものでいいんですよ」
そう言うO氏の言葉を聞きながら、私はカタログの中のいちばん高い印鑑を選んだ。山崎浩子個人としてではなく、スクールの代表として、会社の社長として、それを選んでいた。
年が明けて、新しい印鑑を手にした時、なぜだかうれしくてならなかった。これから何かが変わっていくのかもしれないという、期待と不安が入り混じった、妙な気持ちにもなった。
「私も祈りをこめて彫らせていただきましたよ」
O氏はそう言って、やさしそうな笑顔を浮かべた。


ビデオ学習に通う
「山崎さん。いいビデオがあるんですけどね。見てみませんか。ホントにためになるビデオですよ」
その時の私は何でも吸収したかった。自分が大きくなれるものは、何でも取り入れたかった。
今のままの私ではいけない。もっともっと人間的に大きくなりたいというのが願いとなった。
O氏に紹介された自己啓発センターのビデオ学習に通い始めたのは、それから間もなくのことだった。
都立大学の駅からすぐのマンションの中に、そのカルチャー・センターはあった。入るとそこはサロンのようになっていて、明るい雰囲気に包まれていた。
「これからは、この方にいろいろとご相談されたらいいですよ。まだ若いですけど、経験豊富な方ですからねえ」
と、私を連れてきてくれたO氏が、担当のカウンセラーを紹介する。私より若そうな女性だが、ほほえみを絶やさず、物腰も穏やかである。
(こんな人でも怒ったりすることがあるのかな)
そう思うほどの落ち着きぶりだった。
アンケート用紙が渡され、そのカウンセラーの女性がいろいろと質問してくる。
「どんなものに興味をお持ちなんですか?」
政治や経済、様々な項目が書かれていたが、「人間関係」という項目に目をひかれた。
人と人とが関わり合って生きていくということは難しいことである。しかし、関わり合いなしには成長できないのも、また事実だと思った。「人間関係」という項目に私はペンで印を入れた。
「霊界はあると思っていらっしゃいますか」
「はあ、まあ、あるんじゃないかなあ……という感じですね」
「じゃあ、神様はいらっしゃると思いますか」
「う~ん、それもたぶんいらっしゃるんじゃないかなあ……という感じです」
私は子供の頃から、神の存在を否定してはいなかった。それが“神”という名であるのかどうかは別として、この世には計り知れないエネルギーの存在があるように思っていた。
とくに現役時代は、演技の前には必ず神に祈り、終えたあとも神に感謝した。神が私をいつでも守ってくれているようであり、また神様がいるから悪いこともできないなあ、なんて小さい頃から思っていたものだ。
アンケート用紙に書いたり、質問に答えたりしたあとに、いくつかの学習コースを説明された。
いちばん高いのは12万円で、訪韓ツアーなんてのも含まれている。私はそんなヒマもないし、その下の4万円のビデオ学習コースを選んだ。
そのあと、ビデオのある部屋へ案内された。狭い部屋だったが、ビデオとテレビのセットが何台か並んでいて、各セットの間には、隣の人の顔が見えないように間仕切りがしてある。
一人、ヘッドフォンをしてビデオを見ている人がいた。まだ若い女性だった。私が入っていくと、目だけチラッと動かしたが、またすぐ画面に見入っていた。
間仕切りがあるということで、隣の人と物理的にも心理的にも境界線があるように思えた。サロンの明るさとは逆に、冷たい空気が流れているようだった。私は無関心を装い、渡されたビデオテープを自分でセットすると、ヘッドフォンをつけて小さな画面に向かった。
ビデオの内容は、善とは悪とは、霊界とは、神とは、といった感じで、私にとっては興味をひくものだった。見えないもの、見えない世界について、わかりやすく解説してくれるようで関心は強かった。
ビデオの中で講師が、黒板に向かって講義する。私はO氏がくださったノートにその講義内容を書き移す。学生生活にもどったような感じである。
それからは、一週間に一度をメドに、センターに通うことになった。

 


(つづく)

 


解説
山崎浩子さんが旧統一教会と出会い、入信するまでがていねいに描かれています。
この段階ではまだ、勧誘する側は「統一教会」という名前を出していません。
名前を隠しての勧誘ないし物品の販売は悪質ですね。


獅子風蓮