★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

大谷翔平氏結婚における虚実の皮膜

2024-02-29 23:02:47 | 思想


寛而栗、柔而立、愿而恭、乱而敬、擾而毅、直而温、簡而廉、剛而塞、彊而義

書経の九徳である。寛容であるが威厳があり、穏やかであるが仕事の能力がある、謹厳であるが礼儀正しく、能力はあるが誇らず、柔順であるが果断で、真っ直ぐな性格だが温和であり、大きな視点を持ちながら細かく、さっぱりしているが篤実で、強い意志を持つが正しさから逸脱しない、――こんな奴が部下として最高であり、君主の政治の前提である。

考えてみると、ここまでの資質はむしろ部下のそれではなく、いまやヒーローの資格である。ヒーローを自分の部下だと思っているであろう現代人ならそうなる。つまり、上のような人物は例えば大谷翔平氏であろうが、――結婚したそうである。

大谷翔平氏については何も知らないが、「巨人の星」でいうと星飛雄馬やオズマ(だっけ?)みたいな野球サイボーグが破滅に突き進むのがカタルシスだったのにくらべると、落合やイチローによって、人間のままで野球に命を捧げることが可能になったのかもしれないとは思う。つまりこれは野球が虚構であることをやめたということだ。あるいは、ついに普通の人も含めてサイボーグになったということかもしれない。そういえば、わたしのまわりの体育会系の学生で「競技のためにはならない無駄なコミュニケーションとか飲み会」を嫌う者がいくらか増えてきてる気がする。大谷氏がどうなのかはしらないが、体育会系もだいぶ雰囲気が変わりつつあるのかもしれない。氏は、一徹も姉もいないのに自分ですべてをコントロールしてるのであろうか、野球選手はイチローも含めすごくパートナーとかに依存的であるイメージがあるんですが、社会の側でそういうものが用意できるようになったのであろうか。

――彼の結婚報道は、昨日、こういうことを考えていた矢先に起こり、大谷氏がまさに虚構よりも人間であることが明らかになってよかった。より精確にいうならば、大谷氏もついに人間に浮気したということであろうか。

大谷氏が虚構並みにすごいから、みんな非現実的な可能性を考えたはずである。

高峰秀子さんが黒澤明から大谷翔平に乗り換えた可能性かある。別れさせられたって言ってたし。あるいは、細が残業で帰ってこないから大谷と結婚したかもしれない。――しかし細が帰宅したので可能性はかなり減ったが、わたくしと大谷と二刀流結婚をしている可能性がある。いや、むしろ大谷ならやってくれる、独身と結婚の二刀流を。

ヒーローは虚構をつくる。逆に、虚構が死ぬときもある。

木曽義仲、あれが牛に松明をつけて敵陣に放したでしょう。あの牛、特攻隊があれですね。私はほんとに特攻隊の若者が可哀想ですよ。何も知らずに死んでゆく。

――梅崎春生「桜島」