どうも実に風変りなバー・オパールである。
が――。その次の瞬間に、私は、なお一層驚いてしまったのである。
それは、今押した呼鈴の響きに応じて、奥のドアーを排して現われた少女の、その余りの美しさから来る驚きであった。この燻んだようなバー・オパールの雰囲気とは凡そ正反対な、俗にいう眼の覚めるような美少女がまるで手品のように忽然と現われたのである。呼鈴を押したのだから誰かが現われることはあたりまえなのだが、その少女があまりにも私の好みを備えすぎていたせいか、ふと手品を連想したほどであった。
夢幻織のワンピースが、まるで塑像をみるように、ぴったりと体の線を浮出さしていた、そして、その艶々と濡れたような円らな瞳を、ジッと私に灑ぎかけていた。しかし一ト言も口をきかなかった。『いらっしゃいませ』もいわないのである。それでいて、私はその瞳の中から柔かい言葉を、いくつか囁かれたような気がしたのであった。
――蘭郁二郎「白金神経の少女」