石井信平の 『オラが春』

古都鎌倉でコトにつけて記す酒・女・ブンガクのあれこれ。
「28歳、年の差結婚」が生み出す悲喜劇を軽いノリで語る。

ジジイは未来を語るな

2010-01-09 18:33:49 | AERA メディアウォッチ
 戦後の日本人がやってきたことの結果は、五百兆円の国家負債と、どん詰まりにきた環境破壊であった。つまりこれが、次の世代に残してやれる遺産の主要品目である。政治、官僚、企業に加えて、メデイアもこの結果に責任はないのか?

 戦後復興が一段落した時、このまま生産拡大に突っ走るか、それとも、緑の国土を維持し、伝統と文化を大切にしてゆく第三の道を模索すべきか、メデイアはそのための思索と討論を呼びかけることはなかった。

 そのような選択を考えるまもなく、終わりなき産業拡大という暗黙の国策に、メデイアも荷担した。所得倍増、列島改造からバブル経済へ。今、そのことの一切の反省がないまま、政府もメデイアも、ただ「景気回復」だけを叫んでいる。

 そう思いながら手元の「週刊文春」をめくったら、「下河辺淳が語る非常識私論」なる連載コラムが目にとまった。プロフィールには「一切の公職については辞表を提出した75歳の老人」とある。毎回「水の文化」とか「木の文化」とか、実に耳に心地よげな放談をエンエンと連載している。

 「日本人は縄文以来、海と川をつないだ生活を成り立たせていたんです。…江戸時代は、三百の藩ごとに山奥から谷、丘陵部を経て里山、畑、水田、町、港へ行って海へ行くという水系による一貫した流域ができていた。これはすばらしい水の文化でした」(6月3日号より)

 おいおい、その素晴らしい水の循環を戦後メチャメチャにした張本人は、どこの誰なのか? 列島改造計画など、戦後の主要総合開発を官僚トップとして陣頭指揮し、国土庁事務次官にまで登りつめた、下河辺さん、あなたではないのか? 

 退官後の今も、東京海上研究所理事長のかたわら、国土審議会会長、河川審議会、首都移転、地方分権など国の未来に関わる会の委員におさまっている。あなたに未来を語る資格ありや? 

 被告席に座って、未来の世代から尋問されてしかるべきだ。たとえば、熊本県川辺川ダムは計画発表から33年たち、すでに千二百億円使いながら、いまだに本体工事に未着工なのは何故ですか?

 なーんにもしないで、ただ緑の国土を未来に手渡すべきだった。老人を敬愛し、その経験と知恵を聴く時代は、もう来ないだろう。老人がこのような社会を作った元凶であり、ジジイは未来をいじってはいけない、語ってもいけない。

メディアウォッチより (1999年6月「AERA」掲載)

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