石井信平の 『オラが春』

古都鎌倉でコトにつけて記す酒・女・ブンガクのあれこれ。
「28歳、年の差結婚」が生み出す悲喜劇を軽いノリで語る。

爆走タンデム 日本の秋を先走る私

2009-09-30 07:17:02 | バイク
かつて『ミスター・バイク』企画、ホンダの大型バイクで東京から神戸に爆走し、コーヒー一杯飲んで、とんぼ返りしたこともあった。禁欲的だったボク。

『ゴーグル』では「気分はイタリアン」の連載で、真っ赤なモトグッツィ・チェンタウロ1000ccに跨って、大人のバイクライフをエンジョイした。悦楽的だったボク。いずれも遠い日の思ひ出だ。

還暦が過ぎた。「思ひ出」列車が、汽笛とともにボクの前を走り去って行く。ドップラー効果のサウンドだけを残して。

ふと、やり残した快楽って何かあったっけ、と思う。・・・そうだ、女性ライダーに「タンデムで」うしろに乗せてもらうことだ。かつて、女性を後ろに乗せたことはあるけど、背中に結構な乳房を感じたりしたけど、耳元で「いい感じ」なんて息のこもった声を掛けられたこともあったけど、けど、けど・・・ボクは実は、全然胸フェチじゃない、尻フェチなんです。残念!

やり残しは、限定解除の免許をもった女性に誘われて、バイクの後部座席に跨って、女の尻に密着して後ろから抱きつきながら爆走すること。股間にはエンジンが火の玉のなって吸気・圧縮・爆発の無限究動を繰り返す。ああ、それならば、行き先などはどこでもいい。

ヘルメットからのぞく黒髪が、風に乱舞している。「にがい米」のシルバーナ・マンガーノの腋毛のように。その映画を見て、制御できない欲望に立ちすくんでいたのは、満員電車のような新宿「日活名画座」の最後列に立っていたガキの僕だった。それからセックスもバイクも知った。

思えば、かつてのタンデムで今ひとつに乗り切れなかったのはライダーとしての「責任感」のせいだった。

万一事故を起こしたらどうしよう。バイクが壊れたり、タイヤがパンクして何も対処できず、オロオロと取り乱すところを見られたらどうしよう。そして、一気にホテルの駐車場に乗り付けて、その先にドドッと歩み寄ることを断られたらどうしよう。

つまり今現在、悠然とタンデム・ライディングを楽しむことよりも、その先の悲惨と、その先の快楽にばかり意識が行っていた。そんな「先走る自分」で人生を無駄にしてこなかったであろうか。

 じゃ、どんな女性ライダーの後ろに乗せてもらいたいか。尻が見事で、知的でスケベーな女性である。革ジャンを脱ぐと、その下は絹のランジェリーで、バイク・ブーツを脱ぐと、すぐにイタリア「ラ・ペルラ」社のガーター・ストッキングを両脚にスルスルとはく、コスプレ、変身が大好きな女性だ。

会話が楽しく、ユーモアがあって、夕食のときワインをボトル半分は飲めて、可愛く乱れる。ベッドでは、昼間に見せた限定解除のワイルドさを存分に発揮しつつ、メリハリの利いたスロットルさばきで、先へ先へとコーナーを攻める。ああ、そうなると、チン筋梗塞をいつ起こしてもおかしくない僕のために、看護婦か介護士の免許ももっていてほしい!

僕は円熟したエイジド・ライフを夢見ている。その先にあるオシメと入れ歯のことは心配しない。先のことを心配して、いいことはひとつもなかったから。

日本の秋は夜長である。ボクは翌朝のタンデムを夢見ながら眠りにつく。朝食にはモーニング・エスプレッソでパチッと目を覚ます。朝もやの中を十和田湖へ! 気分はイタリアンだ、コモ湖でもいいぜ。紅葉の道をひた走るだろう。人馬一体じゃない、女体と一体になって、妄想は「火の玉ボーイ」になって爆走する。


文章: 石井信平

雑誌「ゴーグル」掲載文 2005年9月


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