瀬戸市民言論広場

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ある女性の実感記

2020年07月19日 | お知らせ
人生で一度くらいは「あー、英語が話せたらなー」と考えたことはないだろうか?
英語の勉強には目標設定が大事だ。

30歳の時に縁あって、海外で仕事をすることが決まった。
海外で暮らす不安よりも「やったー、これで英語がペラペラ喋れるようになるのかー」と心の中でガッツポーズをした。
学生時代から英語は嫌いではなかったが、特別に将来は英語に携わる仕事がしたいといったモチベーションもなく、日本でごく普通に仕事をしていた。

当時の私は、英語が話せないのは日本にいるから。
話すチャンスがないから。と思っていたので、海外生活、ましてや仕事をすれば英語なんて自然にネイティブのように話せるようになるんだろうと考えていた。

国を変えて合計8年間を海外で過ごした。
結論から行くと、私が思い描いていた「英語が話せる人」にはなれなかった。

最初の2年ぐらいで、自然に生活をしていても英語なんて上達しないんだと気づき、後半は私なりに日本語断ちをしたり、英会話スクールに通ったり、大学院にまで通ったのだが、私の憧れていた宇多田ヒカルさんのようにカッコよく英語を話すレベルには到底辿り着けなかった。
それでも真摯に英語と向き合ってきた私はまだマシなほうで、海外に何年住んでも一向に英語が話せていない日本人がうじゃうじゃいるのが現実だ。

いやいや嘘でしょーと思うかもしれないが本当だ。
そりゃ、スタバに行けばまあまあ流暢に「Can I have a coffee?」と注文し、店員さんと朝の一言二言くらいは交わらせるけど、それは私が週に3回は朝コーヒーを買う生活をしていたので、毎回同じフレーズを繰り返すことで、自然に言葉が出てくるようになっただけの話である。

じゃぁ自己紹介はどうだろう?
これも練習の賜物である。
新しい人に会えば必ず自己紹介をするので、名前、出身地、仕事などなど8年間のうちに何度も何度も繰り返せば、自己紹介くらいはまあスラスラ言えるレベルだ。

すると、多くの外国人は「Your English is great」と言うのだが、私は「Thank you」といいつつ、心の中で「いやいや、練習しただけですから」と呟く。
1対1で話すと、体感的には相手7:私3ぐらいの割合で会話が進行していく。
相手が話題を提供し、私が二言三言答える。すると相手がまたそこから会話を広げるといった具合だ。
大人数での会話となるとその割合は9:1 いや、むしろ存在を忘れられて壁の花となるしかない状況に何度も陥った。
みんなの話している話題についていけない。
何とか愛想笑いで誤魔化すのがやっとで、どうか私をパーティーに誘わないで!といつも願っていた。

多分、大人になってから海外生活を経験した人なら、この気持ちが痛いほどわかるはずだ。

一昨年帰国し、グローバル枠の中途採用で入社し、現在は日系企業に勤めている。
「何年海外にいたの?」
「は、8年ほどです」
「わ~、すごい。英語ペラペラなのね~」
「いえいえ」
この会話が繰り返されるたび、
海外生活を10年ちかくもしていた人=英語がネイティブ並みに話せる。
という世間の思い込みと、自分の英語力とのギャップに苛まれ、もういっそのこと英語なんて喋れなくていい。と思ってしまうのだ。

実際、会社では英語が話せる人として認識されているし、英語の文章もナントナクは読めてるし、書けてはいる。
日本語だったらパッと本を開いて、斜め読みをすればだいたいの意味はつかめるが、英語ではそういうわけにもいかないし、文章ひとつ書くのだって、この表現で合っているのだろうか?と。
きっと野暮ったい英語に違いないと思いながら書いている。
日本語で考えて、日本語で話すように英語を使いこなせるかというと、答えは100% ノーである。

私は英語の先生や、通訳者になりたかったわけじゃないのに、ゴールを「英語を母国語のように使えるようになる」と誤って設定してしまったせいで、こんなにも英語に苦しめられる事態に陥ってしまった。
最初から「英語でコミュニケーションが取れて、現地で生活ができること」と設定していれば、こんなことにならなかったのだろう。
高すぎる山を目指してしまったばっかりに、途中まで登ってもまだ頂上が見えず、遅すぎた出発に息切れ寸前だ。

よく、海外留学したら、数か月後には英語で夢を見るようになった。なんて話があるけれど、全くのウソだ。
いや、頭の柔らかい学生ならそうなのかもしれない。
高校を卒業してアメリカに留学し、そのまま在住している妹は、アメリカ人のように会話し、考える時も英語。独り言ももう英語で、たまに日本語を忘れるそうだ。
18歳から英語漬けなのと、30歳からの英語学習では同じゴールにたどり着けない。

どうか、今から英語を勉強しようと思っている大人の皆さんには、低い山を目指して「海外旅行で現地の人と意思疎通ができること」とか、「英語で新聞が読みたい」といった具体的な目標を立てて英語の勉強に励んでほしい。
くれぐれも、ペラペラと英語をしゃべっている自分を想像しながら始めないでほしい。

*この文章を書いた女性は20代にJICAー国際協力機構の海外青年協力隊に合格し海外派遣されました。卒業した大学院はオーストラリアの大学(Griffith University)です。
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