背寒日誌

2019年7月12日より再開。日々感じたこと、観たこと、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

美しきダニエル・ダリュー

2005年10月30日 23時47分46秒 | フランス映画
 フランスの古い女優のことでも書いてみようかと思う。日本でいうなら、明治・大正生まれの女優だが、私の場合、日本人の古い女優にはどうしても感情移入できない。つまり昔の映画を見ても若い頃の女優に惚れることができない。それが、欧米の女優だと話が違う。戦前の古い名画でも、美しい女優が出ていると、私はうっとりと見とれてしまう。
 ダニエル・ダリューは、そんな女優の一人である。フランスで最も長い経歴を持つ女優で、日本の田中絹代みたいな存在である。顔かたちはどちらかと言うと高峰秀子に似ている。ダニエル・ダリューは1917年生まれで、14歳でデヴューしたという。戦前すでにトップ・スターだった。戦後もずっと活躍し、今も現役で映画に出演している。これほどの女優は、もう彼女のほかはいない、と言ってよい。近年は話題作「8人の女たち」にカトリーヌ・ドゥヌーヴやエマニュエル・ベアールと出演して、その健在ぶりを示したという。大したものだ。実をいうと私はこの映画をまだ見ていない。ドゥヌーヴの変わりようが恐くて見られないのだ。「8人の女たち」でいちばん年寄りの女を演じた女優がダニエル・ダリューだったとのこと。この映画を見られた方はご存知かと思う。
 私が初めて見たダニエル・ダリューの映画は「うたかたの恋」(1935年製作、原題「マイヤリング」)だった。20年以上前にテレビで見て、そのときなんと可愛らしい女性なのかと思った。オーストリアの皇太子が銀行家の娘と恋に落ち、マイヤリングという場所で心中する話で、悲恋ものの名作だった。この娘を演じたのが当時芳紀17歳のダニエル・ダリューで、皇太子役がシャルル・ボワイエだった。これは実際にあった有名な事件で、これについて書かれた著書も多く、何度か映画化されたそうだ。私はこれより先にリメイク版の「うたかたの恋」(カトリーヌ・ドゥヌーヴとオマー・シャリフ主演)を映画館で見たのだが、このリメイク版には失望していた。とくに主演のドゥヌーヴに落胆したのだった。しかし、旧作「うたかたの恋」のダリューは、段違いに素晴らしかった。シャルル・ボワイエそっちのけで、私はダリューばかり見ていた覚えがある。「ローマの休日」でオードリー・ヘップバーンを見たときと似たような体験だった。
 ダニエル・ダリューは、小顔美人で、少し白痴美的なところがある。まず、驚いたときの放心した表情がなんともいえず可愛い。たとえて言えば、鳩が豆鉄砲でも食らった表情とでも言おうか。目はぱっちりしているが、目尻は少し垂れている。鼻筋はなだらかですーっと通っている。そして、口元が愛くるしい。いわゆるおちょぼ口で、フランス語を話すときの表情がまた良いのだ。声も可愛らしい。
 といったわけで、以来ダニエル・ダリューの出演した映画は努めて見てきた。彼女こそフランスの代表的美女である、と私はずっと思っている。