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コンビニ人間/マチネのあとに/光/永遠とは違う一日 他

2017年03月05日 | 

最近読んだ小説から、感想をまとめて書き残しておきます。

村田沙耶香「コンビニ人間」

昨年の芥川賞受賞作。作者自身が現役のコンビニ店員さんというだけあって、生き生きとした仕事の描写にまず引き込まれました。本人が幸せで、誰に迷惑かけているわけでもないのに、こうあるべきという勝手な理想像へと矯正しようとする周囲の人々。日常に潜む同調圧力の暴力性がみごとに描かれている作品でした。

途中、最低男の白羽さんが登場してからは、物語はどんどんシュールな世界へと引きずり込まれ、どうなることかと思いましたが^^; 最後は落ち着くべきところに着地してほっとしました。

平野啓一郎「マチネの終わりに」

天才クラシックギタリストの蒔野と、国際ジャーナリストの洋子の静かに情熱的なすれ違いラブストーリー。それぞれにモデルとなる人物がいるとプロローグにありましたが、2人の思考のプロセスや行動には(勝手な想像ですが)作者の平野さん自身が大事にしているものが反映されているように感じました。

相手を大切に思うがあまり、情熱に走らずに身を引く2人にやきもきしつつ、知的で洗練された会話や、2人にそれぞれおそいかかる苦難、ライバルの存在など、ドラマティックな展開を楽しみました。脳内キャスティングで、ダニエル・ブリュールとメラニー・ロランを思い浮かべながら読みました。^^

三浦しをん「光」

映画化されると聞いて読んでみたくなりました。三浦さんらしからぬドロドロしたサスペンスですが、おもしろくてぐいぐいと引き込まれました。ある離島が津波に襲われ、すべてを失った美花、信之、輔の3人の少年少女。彼らはある秘密を抱えたまま離ればなれに成長しますが、20年後、輔が信之を探し出したことで、再び歯車が動き始めます...。

信之にとって、恋人を守るために邪魔者を消すのも愛ならば、そのことを封印して平然と生きていくこともまた、家族を守るための愛なのでしょう。そして妻も恋人も、真実に目を背けて生きていくことが、自分を守る最良の方法だと知っている。いつかそのバランスが崩れることを予感しながら、心がひやりとするのを感じました。

押切もえ「永遠とは違う一日」

モデルさんの書く小説なんてと思っていましたが、なかなかすてきな作品でした。6編からなる短編集ですが、それぞれ少しずつお話が関わりあっているので、順番に読むと、途中で「え?」と意表を突かれる場面があります。私が気に入ったのは「バラードと月色のネイル」。少女漫画のひとコマみたいですが心揺さぶられる場面がありました。

フィクションですが、モデルやミュージシャン、絵の先生など、作者を取巻く世界がみずみずしい筆致で描かれています。悪人の登場しないハッピーエンディングなので、人によっては物足りなく思うかもしれませんが、作者のまっすぐな眼差しが伝わってきて好感がもてました。

佐藤泰志「黄金の服」

昨年映画化された「オーバーフェンス」と表題作、他1編が収められています。作者は何度も芥川賞候補になりながら41歳で生涯を閉じた不遇の作家ですが、近年続けて作品が映画化されたことで改めて評価が高まっています。作品に共通しているのは何者でもない自分の未来への漠とした不安で、それが今の不穏な時代の空気にマッチしているのかもしれません。

「オーバーフェンス」は東京で傷ついた主人公が、故郷の函館にもどってきて新しい一歩を踏み出そうとするまでが描かれていて、未来への一条の光が感じられるラストにほっと救われました。「黄金の服」は東京多摩地区を舞台にした若者の群像劇で、虚無的に生きる彼らの姿になんとなく(石原慎太郎さんの)「太陽の季節」を思い出しました。


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6 コメント

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☆ latifaさま ☆ (セレンディピティ)
2024-09-28 08:57:51
latifaさん おはようございます。
本は最近全然読めていなくて...
見ると欲しくなってしまうのですが、積ん読状況が続いています。
latifaさんはコンスタントにいろいろな本を読んでいらして、すごいなーと思っています。

佐藤さんの本は、再評価されてから少し読みました。
こんなにたくさん映画化されていると知ったら、天国でびっくりされるでしょうね。
存命の間に人気が出ていたら... と思わずにはいられません。

「コンビニ人間」は翻訳されて、海外でも人気だそうですね。
村田沙耶香さんの小説、他のも読んでみたいです。

「マチネ」はきれいにまとまりすぎているかな?
映画の方は、ちょっと見てすぐにギブアップしてしまいました。

「光」はしをんさんにはめずらしいドロドロ劇ですが、引き込まれました。
でも映画では見たくないかも...。

PS お返事ありがとうございます。
おそらく長い通路(スカイウォーク)をずっと歩いて、そのまま地下から入られたのかな?と想像しています。
ガーデンプレイスは全体的にれんが造りで、美しいですよね。
スペースに余裕があって広々として贅沢な造りだと思います。

PS スーホルムの記事も見てくださってありがとうございます!
姉妹店が辻堂のテラスモールに入っているのですね。
(行ったことはないのですが、テラスモールはできた頃に話題になっていて知っています!)
北欧風のインテリアが魅力的ですよね。
(あとから知ったのですが、ACTUSの系列なんですね。納得!)

いつもていねい見てくださって、コメントくださってありがとうございます♪
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Unknown (latifa)
2024-09-27 09:09:47
セレンディピティさん、こんにちは!
うわー!佐藤泰志さんの本、かつてお読みになられていたのですね♪
幅広く色々な本をお読みになられていてすごいわー!
私は興味はあるのですが、まだ読んでいませんでした。

他の本は「コンビニ人間」は凄く面白くてその年のベスト3に入れた記憶があります。

マチネは、、、残念ながら、ちょっと私は好みではなかったです。

「光」はしをんさんとは思えない様なドロドロ内容でしたね。

PS しつこくも、ちょこっとだけ。
レンガの建物の件、更に追加でありがとうございました。
その赤レンガの建物は、そもそもそちらの記事でご紹介されていた場所ですよね。
私は外観は見てないのです。
その長い通路を通っただけの移動で辿りついたレンガの内部の場所だったので、解らなくてごめんなさい!

PS ノルウェーまだ~むさんの処で紹介されていた北欧の素敵なお店、もともとはセレンディピティさんがご紹介されていたとのことで、こちらでも検索しちゃいました。
私も姉妹店ですが、辻堂のテラスモール店に2回程行った事があります。

長くなっちゃってごめんなさい
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☆ ごみつさま ☆ (セレンディピティ)
2017-03-07 08:09:22
おはようございます。
どの作品も、おもしろかったです!

ミーハーですが、文学賞の受賞作品や話題作は
とりあえず読んでみたくなってしまいます。

又吉さんの「火花」も読みましたよ!
今、ドラマをやっているんですね。誰が演じているのか
(特に先輩の方)気になります。あとでチェックしてみよう。^^

平野さんの作品、今回は大人のラブストーリーです。
2人の知的な会話がスリリングで楽しめましたよ。
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☆ 神崎和幸さま ☆ (セレンディピティ)
2017-03-07 08:02:36
神崎様、はじめまして。
コメントをありがとうございます。

「コンビニ人間」今の時代の生きづらさがみごとに描かれていましたね。
本を読んで、このシュールなイラストの装丁に納得!でした。

「マチネの終わり」は、もどかしく思いながら読みました。
>過去は変えられる
はっとさせられる言葉でした。

「光」は勧善懲悪でないラストに胸を締めつけられました。
彼はあの罪をこの先ずっと抱えて生きていくのか...
それが何よりも重い十字架のように思いますね。
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どれも面白そう (ごみつ)
2017-03-06 21:17:19
こんばんは!

今回はフィクションが中心なんですね。
読ませていただくとどれも面白そうです。

芥川賞作品と直木賞は、毎回気になりながら、なかなか読めないんですよね~。

今、NHKでドラマでやってるピース又吉さんの「火花」を見てるのですが、面白いです。
がぜん本も読みたくなってきました。

平野氏の作品も最近読んでないから気になります!
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Unknown (神崎和幸)
2017-03-06 14:21:32
こんにちは。

自分も「コンビニ人間」読みましたよ。
人間描写が独特でした。
そのうえこの世の生きづらさを上手く表現されていると思いましたよ。

それに「マチネの終わりに」も読みましたがとても切なかったです。
そのうえ過去は変えられる、という言葉が印象に残りましたよ。

「光」はなんとも言えない読後感を覚えました。
そのうえ背負った十字架は重いと感じましたよ。
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