コア宙域編を終えて次はどこに向かうべきか。順番からすればマッシリア宙域なのですが、実はここはほぼ全ての公式資料の和訳が『ナイトフォール(Knightfall)』で済んでしまっていて、残っているのはあの「人類の支配」の首都だったカッグシュス星系(の周辺の通称「ハブ・ワールズ」)と、グランドツアー第11話の舞台になったシウォニー星域、あとDGPの独自設定過ぎて頭を抱えるピルグラ星系(『ナイトフォール』で訪れるダトルムナ星系と場所がかぶってるんだけど…)のみ。どれもわざわざ紹介するには微妙なところなのでパス。他は、ザルシャガル宙域やディアスポラ宙域やオールド・エクスパンス宙域は資料のほとんどが1127年以降の荒廃した時代のものばかりだし、ダイベイ宙域も資料が少なすぎるし、イレリシュ宙域やデルファイ宙域は資料すらないし。
となると、資料なら膨大にあるあそこしかないか…。
前置きが長くなりましたが、今回からいよいよ「人類の故郷」ソロマニ・リム宙域の紹介を始めます。第三帝国の冒険の舞台で双璧を成すこの宙域は、もう一つの帝国最辺境であるスピンワード・マーチ宙域とは全く違う雰囲気と活気に満ち溢れています。
ソロマニ・リム宙域は、広大な帝国の3%ほどに過ぎない星系群ですが、帝国の全人口の約1割強がこの宙域に住み、貿易額の実に40%がここで産み出されている、高度人口密集かつ経済先進地域です。ヴランド宙域やコア宙域ほどの歴史はありませんが、それでも数千年の(ある意味では30万年以上の)歴史があり、宇宙の歴史上で重要な役割を果たしてきました。
その積み重なった「過去」について語り始めると膨大な量となってしまうので、それについては別の機会にするとして、今回は「現在」について語りたいと思います。
現在のソロマニ・リム宙域を語る場合、絶対に欠かすことのできない要素は「ソロマニ主義」です。マギス・セルゲイ・オート=デヴロー(64年生~141年没)によって提唱された「ソロマニ仮説(Solomani hypothesis)」は、宇宙各地に存在する「人類」の起源がテラ(1827)であったとする学説で、588年にテラが帝国に編入されて研究が進んだことによって、その正しさが証明されました(ただし人類のテラ起源説は第二帝国時代から半ばプロパガンダ的に唱えられていたこともあって、特に驚かれることもありませんでした)。ソロマニ主義者たちは、このソロマニ仮説を自分たちの都合のいいように解釈し、ソロマニ人の優越性を掲げているのです(ソロマニ仮説自体には人種間の優越性に触れている部分はありません)。
このソロマニ主義は、ある意味でソロマニ・リム宙域の状況を簡略化しました。どこの宙域でも色々な勢力の思惑や信条が複雑に絡み合うものですが、この宙域では「ソロマニ主義を肯定するか、否定するか」の二択しかありません(ただし、肯定派同士否定派同士が味方同士であるとは限りません)。このソロマニ主義をめぐって様々な事件が、時として戦争が起きているのです。
現在のソロマニ・リム宙域は、大きく分けて3つの勢力が星々を領有しています。
ソロマニ連合 Solomani Confederation
ソロマニ連合は、ソロマニ主義を元に「宇宙は優越人種であるソロマニ人によって支配されるべきである」と(派閥によって程度の大小はありますが)主張している国家です。かつてソロマニ連合が帝国の一自治区であった時代にはソロマニ・リム宙域のほぼ全域を支配していましたが、ソロマニ・リム戦争後は宙域内の7割以上の星系を帝国に「奪われた」格好となっています。この失われた「ソロマニ圏」の領地を、そして何よりも自分たちの故郷であるテラを奪還することが連合の悲願です。
現在ではホーム(アルデバラン宙域 1009)を実質上の首都としているソロマニ連合は(正式な首都は今でもテラです)、かつての「地球連合」を模した行政組織を作ってはいますが、実際はソロマニ党による一党独裁国家です。ソロマニ全軍の指揮権も持つ行政の長である事務総長(Secretary-General)は、法的にはソロマニ党の最高評議会(High Council)と同格とされていますが(※事務総長は最高評議会の議長も兼ねます)、その権限は限られたものです。
ソロマニ軍は大きく海軍と陸軍に分けられ、それぞれの最上位将官は最高評議会のメンバーでもあります(※他に最高評議会には各省の長官も名を連ねています)。ソロマニ海軍は平時は星域単位で運用が行われ、戦時のみ連合海軍として結集します。帝国の偵察局や海兵隊の役割も、ソロマニ軍では海軍が担います。一方ソロマニ陸軍は色々な星系に駐屯しています。また、国境付近などの重要星系には祖国防衛隊(Home Guard)と呼ばれる軍組織が置かれていることもあります。
そして、ソロマニ連合にはもう一つ重要な組織である、ソロマニ治安警察こと「ソルセック(SolSec)」があります。ソルセックは「ソロマニ主義を外敵から守る」ための、言わば秘密警察的な組織で、国内の治安維持から国外の諜報活動まで行っています。ソルセックは一般市民の中から監視員(Monitor)を選び、文字通り周囲を監視させてソルセックに報告させています。同時に軍にはソルセックから政治士官(political officers)が送り込まれています。そして、一般市民の中に紛れ込んだ秘密工作員が、ソロマニ主義にとって危険と判断された対象の排除を行います。暗殺だけではなく、拉致や社会的地位の失墜など、排除の手段は様々です。これによって市民は(表面上は)党や国家への忠誠を誓うようになるのです。
しかしソルセックが守るのはあくまでソロマニ主義です。えてして市民を弾圧するように動きがちではありますが、どの組織の下にも置かれてないソルセックは、軍を含む行政機構のチェック役でもあるのです。
連合に加盟している各星系には帝国以上の自治権が与えられていて、それぞれの星は平等とされています(そのため、ソロマニ連合には星域首都という概念はありませんが、重要な行政組織などが集中する星が帝国の星図で「星域首都」として記載されています)。そして星系間を旅行する際には、ソルセックが発行したパスポートが必要となります。また帝国と異なり、国内で恒星間組織を結成することも可能なので、ある恒星間組織が別の組織と対立しあっていることもありえます。ソロマニ・リム宙域内だけでも、ジャルダン、ククルカン、牛飼座近傍星団(Near Bootes Cluster)、テティス・ラピュタ共同体(Thetis-Laputa Coalition)といった組織があります。国内だけでなく、ソロマニ党内すら様々な派閥が入り交じっていて、ソロマニ主義で統一されているとはいえ連合は一枚岩ではないのです。
ただ忘れてはならないのは、連合市民の多くも戦争よりは平和を望んでいることです。正式な国交こそありませんが、国境を越えた経済や文化交流は着実に行われています。帝国も国境侵犯がない限り、ソロマニ連合を黙認する姿勢を取っています。
帝国 The Imperium
リム宙域の12星域を統治下に置いている帝国は、その他の宙域と同様に貴族制による支配を行っています。ただしあくまでここは占領地なので、治安回復のためにいまだに軍政が布かれている星系も多くありますが(軍政の星系には貴族が置かれません)、帝国政府は徐々に自治権を回復させています。ちなみにテラ星系は、1110年に軍政が解かれることになっています。
宙域内の貴族は、主に3つの派閥に分けられます。スレイマン女公に代表される「抵抗派(Resistance Houses)」は、ソロマニ自治区成立後も領内に残って帝国への忠誠を保っていた一族です。彼らは現実主義で実利を重んじ、リムの諸問題の平和的解決を目指しています。アルクトゥルス公やアスカロン侯が主導する「亡命派(Exile Houses)」は、一度自治区から帝国中央に脱出して戦後に戻ってきたグループです。彼らは急進的かつ好戦的で、ソロマニ連合との再戦を主張しています。「新興派(New Houses)」は、自治区時代に絶えてしまった貴族の領地を引き継ぐべく戦後に任命された貴族たちで、彼らの主義主張は急進的から穏健的まで様々です。強いて言えば「野心的」であるのが共通点です。
ソロマニ党以外の政党が非合法である連合に対し、現在の帝国内でもソロマニ党の活動は合法です(ただし星系政府や軍政によっては非合法化されている場合もあります)。もちろん暴力や破壊活動が伴わない範囲内で、ですが。帝国内のソロマニ党員は当然大なり小なりソロマニ主義を掲げ、「征服者」である帝国に対して反発的な立場を取りがちですが、ソロマニ連合政府としては、これらの「同胞」に対して声援は送るが、経済的・軍事的援助は行わない、という態度を取っています。確かに彼らは有事には味方となってくれるでしょうが、煽って呼び込んだその有事が必ずしも連合やソロマニ主義にとって利益になるとは限らないからです(ただしそんな消極的に見える姿勢が過激なソロマニ主義者の不満を呼んでいるのも事実です)。
現在の宙域公爵はディンジール公爵ロバート・オート=ボードゥアン(Duke Robert haut-Beaudoin of Dingir, またはRobert Stephanos Beaudoin)が務めていて、彼は現ソル大公キーラン・ランゴス・アデアー(Archduke Kieran Langos Adair of Sol)がソロマニ・リム宙域にやって来るまで(※ソル大公は領域首都をエクセター(ディアスポラ宙域 2729)からリム宙域内に移転させる計画を進めています。この遷都は1112年に完了する予定です)、宙域最高位の貴族として統治を行います。
ヴェガ自治区 Vegan Autonomous District
帝国領内のヴェガ星域とエスペランス星域に存在するヴェガ自治区は、群小種族ヴェガン(Vegan)が高度な自治権を持って統治しています。帝国は通常、国内に恒星間行政組織の結成を認めていませんが、ヴェガ自治区はソロマニ・リム戦争後の国境の監視と宙域の安定化を目的として、例外措置で1004年に設置されました。
自治区の中央政府は、試験によって選抜された官僚によって統治されています。彼らは「聖約の守護者(Guardians of the Sacred Covenant)」と呼ばれるトゥフール(後述)で、他のトゥフールを監督し、仲裁することを人生の道と考えています。
なお自治区内は帝国の市民や貨物が自由に通ることができますし、人類も多く居住しています。
ソロマニ・リム宙域に主に住んでいるのは人類、それもソロマニ人です。ソロマニ人の故郷であるテラが近いので当然と言えますが、ヴィラニ人の故郷であるヴランド宙域ですら人種間の混血が進んで「純血のヴィラニ人」に滅多に出会えないのに対し、ソロマニ・リム宙域では今でも「純血のソロマニ人」が多く存在します(ただし自分が純血のソロマニ人だと主張している人が本当にそうなのかは別の問題です)。次に多いのが俗に「帝国人(Imperials)」と呼ばれる混血の人類です。また数は少ないですが、第一帝国時代から住むヴィラニ人に加え、ジェオニー人(Geonee)やスーラット人(Suerrat)といった群小人類も居住しています。
人類以外では、距離的な近さからアスランやハイヴの姿を見かけることがあります(宙域内に昔から移住しているアスランもいます)。逆にヴァルグルやククリーはあまりいません。ヴァルグルも遺伝子的にはテラが故郷なのですが、彼らはあまりテラに郷愁を抱かないようです。宙域の帝国領内のヴァルグルは、主に帝国の官僚として赴任してきた者です。
宙域内の群小種族は、何といってもヴェガンの存在が大きいです。帝国と友好関係にあるヴェガンは、ムアン・グウィ(ソロマニ・リム宙域 1717)を母星とする知的種族です。「ヴェガ人」という名前はテラから見てムアン・グウィの方角にある明るい恒星の名前から付けられたもので、彼らは自身を「テュイ(Tyui)」と称しますが、他種族と交流する際は主にヴェガンを使います。
ヴェガンは平均身長2.2メートルほどの、酸素を呼吸する恒温生物で、2本の腕と2本の足を持ちます。彼らの平均寿命は200年以上です。母星の低重力の影響で、体の大きさの割に人類より頑強ではなく、0.5G以上の環境では何らかの対策なしに生きることができません。彼らは砂漠気候で進化したので、熱の発散のためにひょろっとした体型となり、足は砂地に沈み込まないように幅広く広がり、目は砂塵から守るために透明な目蓋の膜で覆われるようになっています。また主星の赤さに適応したため、赤外線を見通すこともできます。手は3本の触手になっています。
ヴェガンは人類と比べて、あまり感情を持ちません。怒りや恐れといった強い感情はめったに出さず、富や権力というものにもそれほど興味を示しませんが、好奇心は旺盛です。
ヴェガン社会はトゥフール(tuhuir)という役割に分けられます。それぞれのトゥフールは特定の仕事(政治や軍事、商売や芸術など)に従事し、それ自体が言わば哲学的な「道」でもあります。それぞれのトゥフールは世襲制ではなく、ヴェガンは50歳頃に成人の時期を迎えると、自分の道を求めて放浪の旅(イッリシュテョシュン(irrishtyoshun))に出ます。そして時間をかけて自分のトゥフールを選択し、大人として社会に迎えられます。一旦選んだトゥフールは生涯変えることはありません。しかし実際には、半数のヴェガンが親と同じトゥフールを選択する傾向はあります。また、0.5%のヴェガンはそのまま一生「放浪者(pilgrims)」となります。彼らは他者から軽蔑されますが、時として偉大な革新者となり、新たなトゥフールを築くこともあります。
トゥフール同士が対立するということはあまりありません。「ヴェガンの誓約(Vegan Covenant)」で抑制されているからです。これは全てのヴェガンの最低限の権利や道理を定めた言わば憲法のようなもので、1万年前からあると伝えられています。原本こそ残っていませんが、ヴェガンの言葉の変化に応じて何十回と翻訳され、改定されてきました。ヴェガンには人類における宗教のような概念はありませんが、この「誓約」が彼らにとっての聖典のような役割となっています。
またこの地域の特色として、「知性化種(uplifted species)」の存在があります。恒星間戦争の頃から、ソロマニ人は軍事利用のためにテラの動物に遺伝子改良を施し、知性を与えました。有名なものではドルフィン、エイプ、ウルサ、ミニファントが挙げられます。彼らは帝国では知的種族として平等な市民権を得た反面、ソロマニ連合では二級市民扱いです。それでも連合内のドルフィンは、自分たちに知性を与えてくれたソロマニ人に感謝し、ソロマニ主義を奉じて、ソロマニ以外の人類や異星人よりも自分たちが優秀だと考え、宇宙の全ての海に植民地を作るべく、星系政府や祖国防衛隊に勤めています。さすがにソロマニ党に入ることはできませんが、ソロマニ主義者の多くはドルフィンに対してはあまり差別的な待遇をしませんし(優秀な部下程度には見ています)、ソロマニ党の中にも少数派ですがソロマニ人とドルフィンの平等を求める「ドルフィニスト派」が存在するほどです。
そんなドルフィンは学名をTursiops galactisといい、ソロマニ・リム宙域だけでなく宇宙各地の海洋世界の様々な分野で活躍しています。元々のイルカの寿命は20年程度でしたが、遺伝子改良の結果50~60年程度生きることができるようになりました(さらに抗老化薬による延命も可能です)。彼らは水中を平均時速40キロ程度で泳げて、無呼吸で30分間は耐えることができ、水深200メートルまで潜ることができます。また彼らは肉食で、1日に15キログラムの魚を食べます。
ドルフィンは完全なる平等の文化を持ち、私有財産の概念すらありません。個人の持ち物は全て「公共物を借りた」と考えるのです(そのため、他種族の所有物を勝手に「借りて」しまうトラブルがよく起きます)。彼らは15~20人程度の大家族の単位で生活し、大家族同士の交流は行われますが、お互いがあまり近くに住むことはありません。また人類のような大きな社会構造を作ることもないため、ドルフィン移民のみの星系は政治形態コードで0(無政府)と分類されます。
ドルフィンは海中のみで生きるように体ができているため、海の上での活動を支援するために様々な装備が開発されました。代表的なのはトラベルスーツ(通称Tスーツ)で、ドルフィン版の宇宙服といった感じです。Tスーツの内部はとても湿っていて、さらに反重力ベルトと内蔵通信システムが動きと会話をサポートします。また「手」を持たない彼らは、元々は人間用に開発されたウォルドー(Waldos)という義手を愛用しています。TL9のウォルドーはTスーツに装着して舌と頭の動きでぎこちなく操作していましたが、TL12以降のウォルドーは手術によって神経と直接接続され、脳による直感的な制御が可能となっています。
ドルフィンと人類は友好関係を築いていますが、問題となるのは会話です。人類はドルフィンの言語を肉声では理解できず、一部のドルフィンは銀河公用語を学んだものの、発声器官の大きな違いにより適切な発音をすることが困難でした。解決策として、手話に加えて両者が共に発声や聞き取りが可能な音を組み合わせたデルフィン語(Delphinese)が生み出されました。人類社会と隔絶した極一部のドルフィン以外は、今ではこのデルフィン語を理解することができます。また、コンピュータによる同時通訳も利用されています(TL10から利用可能です)。
(※ドルフィンの誕生時期については、恒星間戦争時代という設定と、第二帝国時代のジェナシスト社(GenAssist)によるものという設定が混在しています。ただしジェナシスト社自体は恒星間戦争時代に設立されています)
他には、ウガルップ星系(0502)のグルンガン(Gurungan)が(有名ではないですが)知られています。グルンガンは蛸のような6本の手足を持つ水棲知的種族ですが、知性を持つのは女性だけです。グルンガンの男性は女性に寄生する小生物に過ぎず、グルンガンは「性が2つある」という概念を理解することができません。彼女たちには、人類の男女が全く別の種族に見えるのです。
余談ですが、グルンガンとドルフィンは非常に仲が悪いです。ドルフィンの発する音波が、聴覚しか持たないグルンガンの癇に障るからです。
人口が多く、経済が活発なソロマニ・リム宙域には、500年頃から750年にかけて多くのメガコーポレーションが進出してきました。しかしソロマニ自治区や、その後のソロマニ連合の「独立」政権下では、非ソロマニ人を雇用する帝国企業は活動に大きな制約を受け、やがてソロマニ圏から撤退していきました(その資産は接収されて国有化されました)。
1002年にソロマニ・リム戦争が帝国の実質的な勝利に終わると、荒廃した占領地の復興と再統合のために帝国政府は大規模な開発援助計画を組み、帝国のメガコーポレーションは再びこの地に戻って来ました。彼らは星系政府と連携し、活発な雇用と多額の寄付によって、人々の心を再び帝国に惹きつけています(それに対しソロマニ連合は(特にヴィラニ系企業を)「帝国の覇権の手先」として非難しています)。例えば、ゼネラルプロダクツやスターンメタル・ホライズンが建設した運動競技場や歌劇館に市民が集い、何億人もの学生がナアシルカやシャルーシッドの提供する奨学金で学んでいます。
デルガド貿易 Delgado Trading, LIC
997年に設立されたデルガドは、ソロマニ・リム戦争によって今日のメガコーポレーションの地位を築きました。この数十年内でも、ヴェガ自治区へ対核ダンパーや中間子スクリーン技術を供与する数兆クレジット規模の契約をまとめ、大きな利益を得ていました。しかし品質管理の問題で、ライバル社であるLSPやインステラアームズの追い上げを許しており、ヴェガでの取引の維持がデルガド重役の最大の関心事となっています。
またデルガド社内には、リム戦争中にテラからソロマニ連合領に持ち出された古代の遺物を正当な所有者の依頼によって「返還する」部門があり、連合内で密かに特派員による情報網を張り巡らせています。
なお軍需から鉱業、燃料精製、出版、古物商、さらには玩具製造まで幅広く手がけるデルガドは、従業員に対するきつい待遇で知られています。もちろん(一部とはいえ)優秀な従業員には好待遇で応えていますし、利益の追求という面では優れているのも否定できません。
(※旧来は「Delgado Trading」が会社名でしたが、GURPS版以降では「Delgado」になっています(ややこしいことに、マングース版の『The Spinward Marches』だけTradingまで表記)。今回は正式社名を「デルガド貿易」、通称を「デルガド」と解釈しました)
ゼネラルプロダクツ General Products, LIC
同社は安くてそれなりの品質の宇宙船の建造で知られています。リムにおいてはエレクトロニクス産業の巨人であるナアシルカとの戦略的提携で、宇宙船や産業用ロボットのためにコンピュータや航空電子工学(avionics)技術の提供を受けています。
ゼネラルプロダクツは他の宙域では苦戦していますがリム宙域では順調であり、それゆえに不祥事の芽は根こそぎ絶とうと常に心掛けています。
GSbAG Geschichtkreis Sternschiffbau AG
「当社の源流となる会社は-2438年にテラの衛星ルナで創設され、ソロマニ人によるジャンプドライブの開発も当社によるものです」…という広報はあまり世間では信じられていません(※ちなみに、公的文書に最初にGSbAGの名前が出てくるのは、-334年のシレア連邦海軍との造船契約によるものです)。
テラ起源を主張する割に本社はリム宙域外にあるGSbAGですが、それでもリム宙域内の多くのAクラス宇宙港に造船所を構え、豪華ヨットや急使船(couriers)の主な建造業者です。現在GSbAGは、かつて高品質で知られた「メイド・イン・テラ」ブランドの宇宙船を帝国の上流階層に向けて売り出そうと計画しており、造船所をテラの3つの宇宙港のどこに建設するか検討しています。
オルタレ・エ・シェ Hortelez et Cie, LIC
銀行や保険や金融投資のメガコーポレーションであるオルタレ社は、星系政府への融資や大規模開発の受注を行っています。同社はソロマニ・リム宙域の戦後復興において最前線で活躍し、宙域を財政的に支配しています。同社の支社はリム宙域内のヴェガ自治区を含む帝国領内全ての高人口世界に置かれ、営業所はほぼ全星系にあります。
帝国領内でも存在するヴィラニ系企業への偏見は、オルタレ社に同業者のジルンカリイシュに対するわずかな優位性を与えています。
オルタレ社は他宙域では傭兵斡旋も手がけていますが、ソロマニ・リム宙域ではイチバン・インタステラー社との競合を避けるために手控えています。
ちなみに同社は、「情報収集活動」にフリーランスの人材を雇う傾向があります。
インステラアームズ Instellarms, LIC
インステラアームズはリム宙域のAクラス宇宙港の多くの星系に支社を持ち、企業や星系政府の保安業務に傭兵の派遣を行ったり、兵器の販売をしています。
同社は、ソロマニ・リム戦争時に鹵獲されたTL10~13のソロマニ軍の小銃、弾薬、補給物資、戦闘車両を帝国から買い上げる契約を結びました。これらの武器は再整備され、ソロマニ軍の識別コードを取り除かれた上で、帝国各地の地上軍や傭兵部隊や治安警察に売却されました。ところが皮肉なことに、これらのソロマニ軍兵装の高品質さが評判を呼んでしまい、需要に応えるために同社はその複製品を作るようになりました。
やがて帝国とソロマニ連合との関係が安定してくると、連合内の牛飼座近傍星団は、本物のソロマニ軍の兵器を購入するよりも、インステラアームズ製の複製品を輸入した方が安いことに気が付き、国境を越えた取引が始まりました。他の帝国系メガコーポレーションと異なり、インステラアームズは皇族が株式を持っておらず、反帝国国家への(複製品とはいえ)武器供与という行為に対する心理的ハードルが低いのです。
LSP Ling-Standard Products
多角経営を行っている鉱業会社であるLSPは、戦後のリム宙域で活発に活動を行いました。LSPは資源や市場への接近を確実にするため、賄賂や軍との契約を利用して地元の有力者や独裁者などと関係を持つことを好みます。時としてそうした方針が民間人の抗議やテロリストの攻撃を呼びますが、多くのLSP施設は要塞のような建物と、いかめしい傭兵部隊によって守られています。
さらにLSPは、数世紀前のソロマニ党政権によって接収された自社資産を取り戻すために、多くのリム世界で弁護士を立てて法的措置を取っています。
マキドカルン Makhidkarun
メディアや娯楽産業を本業とするこのヴィラニ系企業の食品部門は、テラやガイア産の珍しい高級食品やワインなどの輸出におけるシャルーシッドの独占に穴を開けようとしています。一方で、反ヴィラニ感情や、電子製品部門がリム宙域の市場に不正な手法で進出しようとしたこともあり、他宙域での名声に反して同社はリムではあまり人気がありません。
ナアシルカ Naasirka
このヴィラニ系のエレクトロニクス企業は、ソロマニ・リムで着実にシェアを拡大しました。また同時に、リム宙域におけるゼネラルプロダクツの下請けも行っており、仕事を容易にするために、多くのナアシルカの工場はゼネラルプロダクツの造船所の近くに置かれています。なおナアシルカの電子機器は、反ヴィラニ感情が残っている星系ではゼネラルプロダクツの名義で販売されています。
ナアシルカはシュルルシシュ(0214)にロボット研究所を持つなどしていますが、加えて、大学のコンピュータや数学や人工知能といった研究に直接資金を提供しています。同社は優秀な卒業生の取り込みを強めるために、高等教育に多額の寄付を行っているのです。中でもテラ大学に新設されたナアシルカ・エンジニアリングセンターは、同社の気前の良さの代表格です。
最近では若いヴェガン科学者の獲得を目指し、科学的な専門知識を持つトゥフールとの合弁事業をムアン・イスラー(1816)で開始しました。
SuSAG Schunamann und Sohn AG, LIC
SuSAGのリム宙域への進出は、小国家イースター協定(Easter Concord)が帝国に加盟する直前の425年に、工場用地としてイニドゥ(2406)を取得したことから始まりました(現在でもイニドゥは同社の宙域本部です)。
SuSAGの全ての部門はリム宙域で活発に活動していて、同社の営業所は帝国領内の全てのAないしBクラス宇宙港で見ることができます。また、SuSAGはリム内のいくつかの企業を買収しています(その中で最も大きなものがシーハーベスター社です)。
同社の帝国外事業部は、ヴェガ自治区内だけでなく、ソロマニ連合内の何十ものの世界で事業を行うために、ペーパーカンパニーや秘密の子会社を運営しています。ただしソロマニ連合内でも超能力ドラッグの製造は違法ですので、それが目的ではありません。ソロマニ連合のバイオテクノロジー(特に遺伝子操作)技術はある地域では帝国よりも優れており、この技術への接近を図るためなのです。これらの子会社とSuSAGの関係は、「ソロマニ企業を所有している帝国企業」という悪評と法律問題を避けるために秘密にされています。
他にもSuSAGには、ソロマニ連合への化学兵器供与やソロマニ主義政治犯への人体実験などの悪い噂がつきまとっています。
シャルーシッド Sharurshid
数千年前はこの地を統治していたシャルーシッドですが、現在のリム宙域におけるシェアは大した規模ではありません。しかし、テラ産の贅沢品の貿易に関しては別です。テラで作られた飲料(コーヒー等)、酒類(ワイン、ウイスキー、ビール等)、タバコなどは、ほぼ全てがシャルーシッドの宇宙船によって輸出されています。一方で帝国の支配階層向けの極少数のとても高価なビンテージ品に関しては、帝国偵察局の船に委託して運ばれています。
なお、シャルーシッドのブローカーは、手強いが誠実な交渉人として名高いです。
スターンメタル・ホライズン Sternmetal Horizons, LIC
LSPのライバル企業であるスターンメタル・ホライズンは、惑星上でも小惑星帯でも、ソロマニ・リム宙域最大の鉱業会社です。同時に、一般車両のパワープラントから核融合発電所、合成食品製造機械、生命維持装置といった分野の主要な製造元でもあります。よって、リム宙域の高人口世界やアーコロジーの多くは、スターンメタル製品に生命を預けていると言っても過言ではありません。リム宙域の広告で親しまれている『スターンメタルおじさん(Uncle Sternmetal)』のキャラクターは、同社の信頼性と優秀なサービスの象徴でもあります。真面目で不正を働かない企業、という世間一般の評価は、本業の鉱業分野においてもLSPより有利な契約を得る助けとなっているのです。
ソロマニ・リム宙域のインフラへの高いテロ攻撃の危険性により、同社は重要な発電所や生命維持システムを守る緊急対応チームを組織し、訓練しています。
テュケラ運輸 Tukera Lines, LIC
旅客・貨物輸送で帝国最大手企業であるテュケラ運輸は、他の宙域と同様に主要通商路の独占を目指しています。しかしリム戦争以降、同社はソロマニ・リム宙域内におけるシェアを確保することに苦戦しています。シャルーシッドや宙域企業(ソラー輸送やエウム・シャオ・グウィなど)の牙城を崩すためにテュケラは手段を選ばず、貴族社会に張り巡らせた人脈や、冷酷な社内諜報部門であるヴィミーン(Vemene)を活用しています。
(※1105年設定のマングース版原文では、手段として「皇族との近さ」が挙げられていたのですが、先々代皇帝ガヴィンの曾孫であるデルファイ・アナクシアス両公マーガレット・イェティリナ・アルカリコイが、テュケラ一族のアレクヴァディン伯爵ブライン・トゥルーラ・テュケラ(Count Blaine Trulla Tukera of Alekvadin)との結婚後にテュケラ姓を名乗るのは1110年のことです。1120年設定のGURPS版に影響された勘違いと思われますので、独断で「貴族社会の人脈」と変更しました)
ジルンカリイシュ Zirunkariish
ヴィラニ系投資銀行である同社は、ソロマニ連合の歴史書で頻繁に非難されています。これは、ジルンカリイシュの創業者一族の末裔であるアンティアマ妃とザキロフ皇帝との結婚に端を発します。ソロマニ主義の陰謀論者は、このヴィラニ系企業が帝国を影からいまだに操っていると主張し、帝国の公人や政策にジルンカリイシュの不透明な資金が流れているという「創作物」を出版し続けています。
一方でジルンカリイシュはその遵法精神の高さだけでなく、密接に帝国政府と協力する安定した金融機関としての高い評判を得ていて、同社はウルティマ星域やアルバダウィ星域の発展途上惑星の開発においても大きな役割を果たしています。
ジルンカリイシュはヴィラニ系企業の類に漏れず、ソロマニ主義活動家の標的になりがちであり、リム宙域で活動する同社の幹部社員には必ず1人以上の護衛が付けられています(仕事先の危険度に応じて護衛の人数は増やされます)。
また帝国の宙域内企業としては以下のような会社が活動しています。
エウム・シャオ・グウィ Ewm Shao Gwi
ヴェガ自治区内の貿易を一手に担うこの会社は、数千年前にヴェガンが宇宙に進出する以前から商業のトゥフールとして活動していた伝統を持ちます。エウム・シャオ・グウィの目的はビジネスの成功ではなく、言わば哲学的に利益の分配と資源の再分配を追求しています。
同社は母星ムアン・グウィで旗揚げしましたが、現在ではムアン・イスラーに会社の基盤を置いています。エウム・シャオ・グウィは、ヴェガ自治区内全域と境界から6パーセク以内の一部の帝国領星系を商圏としています。
イチバン・インタステラー Ichiban Interstellar, LIC
イチバン社はソロマニ・リム宙域で最古と言われる(その歴史は第二帝国時代から…と同社は主張しています)傭兵斡旋企業です。イチバン社は、傭兵の募集から給与の支払い事務、兵装の販売から補修、その他あらゆる傭兵に関するサービスを、傭兵部隊の指揮官や依頼人に提供しています。また宙域最高の軍事・政治両面の情報部門の専門家を取り揃えています。
イチバン社は兵器や装備の製造部門を極わずかしか持っておらず、それらは他社(主にインステラアームズ)から購入して、契約した傭兵部隊(または傭兵個人)に転売しています。
ちなみに昔からイチバン社には、機械もしくはバイオ技術で人体を強化した「サイバーニンジャ部隊」があるという未確認の噂があります。
(※イチバン社の大株主であるタンクレディ家は、アンタレス・ホールディングスなどを所有する帝国の名門貴族です)
シーハーベスター Seaharvester, LIC
シーハーベスター社は、海洋の天然資源開発を専門とする企業です。同社は934年に創業され、養殖漁業、深海採掘、海中金属抽出の分野でTL13~15の技術を持っています。生化学部門では、海洋生物から薬品や栄養食品や化粧品に役立つ生成物の抽出も行っています。さらにシーハーベスター社は、狩猟用から養殖用まで、様々な水棲生物のクローンを星系政府の依頼で提供する事業も手がけています。
同社は1099年にメガコーポレーションのSuSAGに買収されましたが、独立した子会社として営業を続けています。この買収により、SuSAGはいくつかの重要な医薬用物質、特にPDPT-βという幅広く用いられている抗生物質を独占的に確保することができるようになりました。
ソラー輸送 Solar Shipping
テラに本社を置くソラー輸送は、ソロマニ・リム宙域の帝国領側で旅客と貨物の輸送事業を営んでいます。かつては宙域全体で運行を行っていましたが、ソロマニ・リム戦争後にソロマニ連合領側の通商路を放棄せざるを得なくなりました。その通商路はソロマニ輸送(Solomani Shipping)が引継ぎ、両社は相互乗り入れ契約を結んでいるため、国境で分断された2社はまるで一つの会社のように利用が可能です。
ソロマニ・リム戦争の後、ヴェガ自治区の設置の効果もあってか、リム宙域の情勢はかなり安定はしています。しかし宙域が内包する民族主義の問題がある以上、様々な活動家が跋扈しているのも事実です。反帝国テロ組織「テラの支配(Rule of Terra)」などだけではなく、反ソロマニを掲げる過激な団体もあります。戦争時にテラに隠匿した軍事物資を用いてソロマニ系ゲリラが蜂起を試みようとした「フェニックス計画」の発覚以後、帝国はこうした過激派の取り締まりに力を入れています。
こうした問題に対し、力ではなく寛容さで臨もうとする人々もいます。「オーセンティスト」と呼ばれる人々が推進するオーセンティック運動(Authentic movement)は、988年にソロマニ人の人類学者ヨハン・クラム(Johann Kramm)(946年生~1005年没)よって書かれた『信ずべき体験(The Authentic Experience)』を原典としています(この書籍の各言語翻訳版は現在マキドカルンから発行されています)。クラムは宇宙全ての文化に価値を見出し、多様性の素晴らしさを説きました。それに賛同した人々が、オーセンティック運動を始めたのです。
最初コア宙域で広がりを見せたオーセンティック運動は、既にクラム本人が見届けることができなくなった1010年頃には、戦争で荒廃したソロマニ・リム宙域にも広がっていました。当初はソロマニ主義運動の隠れ蓑となる恐れから帝国当局に警戒されたオーセンティック運動でしたが、1050年頃には(特に亡命派の帝国貴族の支援もあって)リム宙域で大きなうねりとなっていました。
今では、軍政下にも関わらずテラやディンジールといった歴史ある星を訪れる旅行者の多くがオーセンティストとなっています。一方で、運動が最近あまりにも商業化しているのではないかと、一部の支持者が苦言を呈しています。
【ライブラリ・データ】
ソル大公キーラン Archduke Kieran Langos Adair of Sol
1102年にソル大公位を継承したキーラン卿は、1064年にソル領域首都であるエクセター(ディアスポラ宙域 2729)で誕生しました。ソロマニ系貴族であるアデアー家は、元々マッシリア宙域の男爵家に過ぎませんでしたが、彼の曾祖母であるアリエル・アデアー女男爵(Baroness Arielle Adair)がソロマニ・リム戦争において海軍大提督として帝国軍を勝利に導き、その功績でソル大公となったのです。
彼はリベール(ディアスポラ宙域 1109)のオミクロン大学で政治学を学んだ後、帝国の外交使節団の一員としてリーヴァーズ・ディープ宙域やダーク・ネビュラ宙域を回り、ソロマニ連合やアスランの文化や政策、そして彼らとの付き合い方を学びました。その後、アスランの母星であるクズ(ダーク・ネビュラ宙域 1226)に帝国の代理公使(charge d'affaires)として赴任しましたが、父であるエティエンヌ大公が病に倒れたために帰国して父の名代を勤め、前大公の死去後にソル大公となりました。
新大公はまず就任後2年間はディアスポラ宙域とオールド・エクスパンス宙域の経済活性化に努め、現在は政策の焦点をソロマニ・リム宙域に当てています。その手始めとして、領域全体の安定と繁栄を考えて、領域首都のリムへの移転を計画しています。
穏健改革派と目されるアデアー新大公は、ストレフォン皇帝と親しい間柄です。しかし帝国貴族院(Moot)からはあまり好ましく思われていないようです。また、テュケラ運輸のやり口を嫌っており、両者は対立関係にあります。
ちなみに、大公は現在独身です。
(※ソル領域(もしくはソロマニ人)には貴族を苗字で呼ぶ風習があるため、「アデアー大公」という呼び方は間違ってはいません)
(※マングース版『The Solomani Rim』では、アデアー大公は1105年現在、ディアスポラ宙域の首都であるリベールに「座している」ことになっていますが、リベールが領域首都であるとは記載されていないので、エクセターを領域首都とするGURPS版設定との両立は可能と判断しています)
ディンジール公ロバート Duke Robert Stephanos Beaudoin of Dingir
ディンジール公の長子として誕生したロバート卿は、テラ大学で軍事学を学んだ後、帝国海軍中佐として勤めました。1095年に父の願いで退官し、2年後にその父の死去を受けてディンジール公爵となりました。
野心家であった新公爵は、就任後すぐに、宙域公爵となるべく政界工作を始めました。周囲への雄弁な説得と、そして少しの陰謀を駆使して、1098年に宙域公爵であったコンコード公を不信任投票で失脚させ、自らが取って代わることに成功しました。しかし翌年に「元宙域公爵」が失意のあまりに自殺したため、宙域の貴族社会に苦い記憶を残してしまいました。
それでもロバート公の手腕は確かで、社会不安を抑え、宙域海軍の組織改革などで成果を挙げています。彼は宙域公爵就任の際に多くの敵を作ってしまいましたが、その政敵ですら彼の実績は(渋々ですが)認めています。
これだけでもまだこの宙域のほんの一部でしかないほどに、このソロマニ・リム宙域は隅から隅まで奥深く設定がなされています。次回からは1星域規模に焦点を絞って紹介をしていきたいと思います。
【参考文献】
・Book 7: Merchant Prince (Game Designers' Workshop)
・Adventure 9: Nomads of the World-Ocean (Game Designers' Workshop)
・Double Adventure 3: The Argon Gambit (Game Designers' Workshop)
・Alien Module 6: Solomani (Game Designers' Workshop)
・MegaTraveller: Imperial Encyclopedia (Game Designers' Workshop)
・Aliens: Solomani & Aslan (Digest Group Publications)
・Travellers' Digest #13 (Digest Group Publications)
・GURPS Traveller: Rim of Fire (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Nobles (Steve Jackson Games)
・Traveller: The Solomani Rim (Mongoose Publishing)
・Alien Module 5: Solomani (Mongoose Publishing)
・Traveller Wiki
となると、資料なら膨大にあるあそこしかないか…。
前置きが長くなりましたが、今回からいよいよ「人類の故郷」ソロマニ・リム宙域の紹介を始めます。第三帝国の冒険の舞台で双璧を成すこの宙域は、もう一つの帝国最辺境であるスピンワード・マーチ宙域とは全く違う雰囲気と活気に満ち溢れています。
ソロマニ・リム宙域は、広大な帝国の3%ほどに過ぎない星系群ですが、帝国の全人口の約1割強がこの宙域に住み、貿易額の実に40%がここで産み出されている、高度人口密集かつ経済先進地域です。ヴランド宙域やコア宙域ほどの歴史はありませんが、それでも数千年の(ある意味では30万年以上の)歴史があり、宇宙の歴史上で重要な役割を果たしてきました。
その積み重なった「過去」について語り始めると膨大な量となってしまうので、それについては別の機会にするとして、今回は「現在」について語りたいと思います。
現在のソロマニ・リム宙域を語る場合、絶対に欠かすことのできない要素は「ソロマニ主義」です。マギス・セルゲイ・オート=デヴロー(64年生~141年没)によって提唱された「ソロマニ仮説(Solomani hypothesis)」は、宇宙各地に存在する「人類」の起源がテラ(1827)であったとする学説で、588年にテラが帝国に編入されて研究が進んだことによって、その正しさが証明されました(ただし人類のテラ起源説は第二帝国時代から半ばプロパガンダ的に唱えられていたこともあって、特に驚かれることもありませんでした)。ソロマニ主義者たちは、このソロマニ仮説を自分たちの都合のいいように解釈し、ソロマニ人の優越性を掲げているのです(ソロマニ仮説自体には人種間の優越性に触れている部分はありません)。
このソロマニ主義は、ある意味でソロマニ・リム宙域の状況を簡略化しました。どこの宙域でも色々な勢力の思惑や信条が複雑に絡み合うものですが、この宙域では「ソロマニ主義を肯定するか、否定するか」の二択しかありません(ただし、肯定派同士否定派同士が味方同士であるとは限りません)。このソロマニ主義をめぐって様々な事件が、時として戦争が起きているのです。
現在のソロマニ・リム宙域は、大きく分けて3つの勢力が星々を領有しています。
ソロマニ連合 Solomani Confederation
ソロマニ連合は、ソロマニ主義を元に「宇宙は優越人種であるソロマニ人によって支配されるべきである」と(派閥によって程度の大小はありますが)主張している国家です。かつてソロマニ連合が帝国の一自治区であった時代にはソロマニ・リム宙域のほぼ全域を支配していましたが、ソロマニ・リム戦争後は宙域内の7割以上の星系を帝国に「奪われた」格好となっています。この失われた「ソロマニ圏」の領地を、そして何よりも自分たちの故郷であるテラを奪還することが連合の悲願です。
現在ではホーム(アルデバラン宙域 1009)を実質上の首都としているソロマニ連合は(正式な首都は今でもテラです)、かつての「地球連合」を模した行政組織を作ってはいますが、実際はソロマニ党による一党独裁国家です。ソロマニ全軍の指揮権も持つ行政の長である事務総長(Secretary-General)は、法的にはソロマニ党の最高評議会(High Council)と同格とされていますが(※事務総長は最高評議会の議長も兼ねます)、その権限は限られたものです。
ソロマニ軍は大きく海軍と陸軍に分けられ、それぞれの最上位将官は最高評議会のメンバーでもあります(※他に最高評議会には各省の長官も名を連ねています)。ソロマニ海軍は平時は星域単位で運用が行われ、戦時のみ連合海軍として結集します。帝国の偵察局や海兵隊の役割も、ソロマニ軍では海軍が担います。一方ソロマニ陸軍は色々な星系に駐屯しています。また、国境付近などの重要星系には祖国防衛隊(Home Guard)と呼ばれる軍組織が置かれていることもあります。
そして、ソロマニ連合にはもう一つ重要な組織である、ソロマニ治安警察こと「ソルセック(SolSec)」があります。ソルセックは「ソロマニ主義を外敵から守る」ための、言わば秘密警察的な組織で、国内の治安維持から国外の諜報活動まで行っています。ソルセックは一般市民の中から監視員(Monitor)を選び、文字通り周囲を監視させてソルセックに報告させています。同時に軍にはソルセックから政治士官(political officers)が送り込まれています。そして、一般市民の中に紛れ込んだ秘密工作員が、ソロマニ主義にとって危険と判断された対象の排除を行います。暗殺だけではなく、拉致や社会的地位の失墜など、排除の手段は様々です。これによって市民は(表面上は)党や国家への忠誠を誓うようになるのです。
しかしソルセックが守るのはあくまでソロマニ主義です。えてして市民を弾圧するように動きがちではありますが、どの組織の下にも置かれてないソルセックは、軍を含む行政機構のチェック役でもあるのです。
連合に加盟している各星系には帝国以上の自治権が与えられていて、それぞれの星は平等とされています(そのため、ソロマニ連合には星域首都という概念はありませんが、重要な行政組織などが集中する星が帝国の星図で「星域首都」として記載されています)。そして星系間を旅行する際には、ソルセックが発行したパスポートが必要となります。また帝国と異なり、国内で恒星間組織を結成することも可能なので、ある恒星間組織が別の組織と対立しあっていることもありえます。ソロマニ・リム宙域内だけでも、ジャルダン、ククルカン、牛飼座近傍星団(Near Bootes Cluster)、テティス・ラピュタ共同体(Thetis-Laputa Coalition)といった組織があります。国内だけでなく、ソロマニ党内すら様々な派閥が入り交じっていて、ソロマニ主義で統一されているとはいえ連合は一枚岩ではないのです。
ただ忘れてはならないのは、連合市民の多くも戦争よりは平和を望んでいることです。正式な国交こそありませんが、国境を越えた経済や文化交流は着実に行われています。帝国も国境侵犯がない限り、ソロマニ連合を黙認する姿勢を取っています。
帝国 The Imperium
リム宙域の12星域を統治下に置いている帝国は、その他の宙域と同様に貴族制による支配を行っています。ただしあくまでここは占領地なので、治安回復のためにいまだに軍政が布かれている星系も多くありますが(軍政の星系には貴族が置かれません)、帝国政府は徐々に自治権を回復させています。ちなみにテラ星系は、1110年に軍政が解かれることになっています。
宙域内の貴族は、主に3つの派閥に分けられます。スレイマン女公に代表される「抵抗派(Resistance Houses)」は、ソロマニ自治区成立後も領内に残って帝国への忠誠を保っていた一族です。彼らは現実主義で実利を重んじ、リムの諸問題の平和的解決を目指しています。アルクトゥルス公やアスカロン侯が主導する「亡命派(Exile Houses)」は、一度自治区から帝国中央に脱出して戦後に戻ってきたグループです。彼らは急進的かつ好戦的で、ソロマニ連合との再戦を主張しています。「新興派(New Houses)」は、自治区時代に絶えてしまった貴族の領地を引き継ぐべく戦後に任命された貴族たちで、彼らの主義主張は急進的から穏健的まで様々です。強いて言えば「野心的」であるのが共通点です。
ソロマニ党以外の政党が非合法である連合に対し、現在の帝国内でもソロマニ党の活動は合法です(ただし星系政府や軍政によっては非合法化されている場合もあります)。もちろん暴力や破壊活動が伴わない範囲内で、ですが。帝国内のソロマニ党員は当然大なり小なりソロマニ主義を掲げ、「征服者」である帝国に対して反発的な立場を取りがちですが、ソロマニ連合政府としては、これらの「同胞」に対して声援は送るが、経済的・軍事的援助は行わない、という態度を取っています。確かに彼らは有事には味方となってくれるでしょうが、煽って呼び込んだその有事が必ずしも連合やソロマニ主義にとって利益になるとは限らないからです(ただしそんな消極的に見える姿勢が過激なソロマニ主義者の不満を呼んでいるのも事実です)。
現在の宙域公爵はディンジール公爵ロバート・オート=ボードゥアン(Duke Robert haut-Beaudoin of Dingir, またはRobert Stephanos Beaudoin)が務めていて、彼は現ソル大公キーラン・ランゴス・アデアー(Archduke Kieran Langos Adair of Sol)がソロマニ・リム宙域にやって来るまで(※ソル大公は領域首都をエクセター(ディアスポラ宙域 2729)からリム宙域内に移転させる計画を進めています。この遷都は1112年に完了する予定です)、宙域最高位の貴族として統治を行います。
ヴェガ自治区 Vegan Autonomous District
帝国領内のヴェガ星域とエスペランス星域に存在するヴェガ自治区は、群小種族ヴェガン(Vegan)が高度な自治権を持って統治しています。帝国は通常、国内に恒星間行政組織の結成を認めていませんが、ヴェガ自治区はソロマニ・リム戦争後の国境の監視と宙域の安定化を目的として、例外措置で1004年に設置されました。
自治区の中央政府は、試験によって選抜された官僚によって統治されています。彼らは「聖約の守護者(Guardians of the Sacred Covenant)」と呼ばれるトゥフール(後述)で、他のトゥフールを監督し、仲裁することを人生の道と考えています。
なお自治区内は帝国の市民や貨物が自由に通ることができますし、人類も多く居住しています。
ソロマニ・リム宙域に主に住んでいるのは人類、それもソロマニ人です。ソロマニ人の故郷であるテラが近いので当然と言えますが、ヴィラニ人の故郷であるヴランド宙域ですら人種間の混血が進んで「純血のヴィラニ人」に滅多に出会えないのに対し、ソロマニ・リム宙域では今でも「純血のソロマニ人」が多く存在します(ただし自分が純血のソロマニ人だと主張している人が本当にそうなのかは別の問題です)。次に多いのが俗に「帝国人(Imperials)」と呼ばれる混血の人類です。また数は少ないですが、第一帝国時代から住むヴィラニ人に加え、ジェオニー人(Geonee)やスーラット人(Suerrat)といった群小人類も居住しています。
ジェオニー人はシウォニー(マッシリア宙域 1430)を母星とし、ヴィラニ人が初めて遭遇したジャンプドライブを「用いた」小柄な人類です。彼らは太古種族の宇宙船のジャンプドライブを複製して宇宙に乗り出したため、現在では「主要種族」に数えられていません。スーラット人はイレリシュ(イレリシュ宙域 2907)出身の人類で、猿人に似た外見をしています。こちらは世代間宇宙船で恒星間航行を実現していましたが、やがて両者ともにヴィラニ人に征服され、彼らの一部はリム宙域で恒星間戦争に関わりました。
人類以外では、距離的な近さからアスランやハイヴの姿を見かけることがあります(宙域内に昔から移住しているアスランもいます)。逆にヴァルグルやククリーはあまりいません。ヴァルグルも遺伝子的にはテラが故郷なのですが、彼らはあまりテラに郷愁を抱かないようです。宙域の帝国領内のヴァルグルは、主に帝国の官僚として赴任してきた者です。
宙域内の群小種族は、何といってもヴェガンの存在が大きいです。帝国と友好関係にあるヴェガンは、ムアン・グウィ(ソロマニ・リム宙域 1717)を母星とする知的種族です。「ヴェガ人」という名前はテラから見てムアン・グウィの方角にある明るい恒星の名前から付けられたもので、彼らは自身を「テュイ(Tyui)」と称しますが、他種族と交流する際は主にヴェガンを使います。
ヴェガンは平均身長2.2メートルほどの、酸素を呼吸する恒温生物で、2本の腕と2本の足を持ちます。彼らの平均寿命は200年以上です。母星の低重力の影響で、体の大きさの割に人類より頑強ではなく、0.5G以上の環境では何らかの対策なしに生きることができません。彼らは砂漠気候で進化したので、熱の発散のためにひょろっとした体型となり、足は砂地に沈み込まないように幅広く広がり、目は砂塵から守るために透明な目蓋の膜で覆われるようになっています。また主星の赤さに適応したため、赤外線を見通すこともできます。手は3本の触手になっています。
ヴェガンは人類と比べて、あまり感情を持ちません。怒りや恐れといった強い感情はめったに出さず、富や権力というものにもそれほど興味を示しませんが、好奇心は旺盛です。
ヴェガン社会はトゥフール(tuhuir)という役割に分けられます。それぞれのトゥフールは特定の仕事(政治や軍事、商売や芸術など)に従事し、それ自体が言わば哲学的な「道」でもあります。それぞれのトゥフールは世襲制ではなく、ヴェガンは50歳頃に成人の時期を迎えると、自分の道を求めて放浪の旅(イッリシュテョシュン(irrishtyoshun))に出ます。そして時間をかけて自分のトゥフールを選択し、大人として社会に迎えられます。一旦選んだトゥフールは生涯変えることはありません。しかし実際には、半数のヴェガンが親と同じトゥフールを選択する傾向はあります。また、0.5%のヴェガンはそのまま一生「放浪者(pilgrims)」となります。彼らは他者から軽蔑されますが、時として偉大な革新者となり、新たなトゥフールを築くこともあります。
トゥフール同士が対立するということはあまりありません。「ヴェガンの誓約(Vegan Covenant)」で抑制されているからです。これは全てのヴェガンの最低限の権利や道理を定めた言わば憲法のようなもので、1万年前からあると伝えられています。原本こそ残っていませんが、ヴェガンの言葉の変化に応じて何十回と翻訳され、改定されてきました。ヴェガンには人類における宗教のような概念はありませんが、この「誓約」が彼らにとっての聖典のような役割となっています。
またこの地域の特色として、「知性化種(uplifted species)」の存在があります。恒星間戦争の頃から、ソロマニ人は軍事利用のためにテラの動物に遺伝子改良を施し、知性を与えました。有名なものではドルフィン、エイプ、ウルサ、ミニファントが挙げられます。彼らは帝国では知的種族として平等な市民権を得た反面、ソロマニ連合では二級市民扱いです。それでも連合内のドルフィンは、自分たちに知性を与えてくれたソロマニ人に感謝し、ソロマニ主義を奉じて、ソロマニ以外の人類や異星人よりも自分たちが優秀だと考え、宇宙の全ての海に植民地を作るべく、星系政府や祖国防衛隊に勤めています。さすがにソロマニ党に入ることはできませんが、ソロマニ主義者の多くはドルフィンに対してはあまり差別的な待遇をしませんし(優秀な部下程度には見ています)、ソロマニ党の中にも少数派ですがソロマニ人とドルフィンの平等を求める「ドルフィニスト派」が存在するほどです。
そんなドルフィンは学名をTursiops galactisといい、ソロマニ・リム宙域だけでなく宇宙各地の海洋世界の様々な分野で活躍しています。元々のイルカの寿命は20年程度でしたが、遺伝子改良の結果50~60年程度生きることができるようになりました(さらに抗老化薬による延命も可能です)。彼らは水中を平均時速40キロ程度で泳げて、無呼吸で30分間は耐えることができ、水深200メートルまで潜ることができます。また彼らは肉食で、1日に15キログラムの魚を食べます。
ドルフィンは完全なる平等の文化を持ち、私有財産の概念すらありません。個人の持ち物は全て「公共物を借りた」と考えるのです(そのため、他種族の所有物を勝手に「借りて」しまうトラブルがよく起きます)。彼らは15~20人程度の大家族の単位で生活し、大家族同士の交流は行われますが、お互いがあまり近くに住むことはありません。また人類のような大きな社会構造を作ることもないため、ドルフィン移民のみの星系は政治形態コードで0(無政府)と分類されます。
ドルフィンは海中のみで生きるように体ができているため、海の上での活動を支援するために様々な装備が開発されました。代表的なのはトラベルスーツ(通称Tスーツ)で、ドルフィン版の宇宙服といった感じです。Tスーツの内部はとても湿っていて、さらに反重力ベルトと内蔵通信システムが動きと会話をサポートします。また「手」を持たない彼らは、元々は人間用に開発されたウォルドー(Waldos)という義手を愛用しています。TL9のウォルドーはTスーツに装着して舌と頭の動きでぎこちなく操作していましたが、TL12以降のウォルドーは手術によって神経と直接接続され、脳による直感的な制御が可能となっています。
ドルフィンと人類は友好関係を築いていますが、問題となるのは会話です。人類はドルフィンの言語を肉声では理解できず、一部のドルフィンは銀河公用語を学んだものの、発声器官の大きな違いにより適切な発音をすることが困難でした。解決策として、手話に加えて両者が共に発声や聞き取りが可能な音を組み合わせたデルフィン語(Delphinese)が生み出されました。人類社会と隔絶した極一部のドルフィン以外は、今ではこのデルフィン語を理解することができます。また、コンピュータによる同時通訳も利用されています(TL10から利用可能です)。
(※ドルフィンの誕生時期については、恒星間戦争時代という設定と、第二帝国時代のジェナシスト社(GenAssist)によるものという設定が混在しています。ただしジェナシスト社自体は恒星間戦争時代に設立されています)
他には、ウガルップ星系(0502)のグルンガン(Gurungan)が(有名ではないですが)知られています。グルンガンは蛸のような6本の手足を持つ水棲知的種族ですが、知性を持つのは女性だけです。グルンガンの男性は女性に寄生する小生物に過ぎず、グルンガンは「性が2つある」という概念を理解することができません。彼女たちには、人類の男女が全く別の種族に見えるのです。
余談ですが、グルンガンとドルフィンは非常に仲が悪いです。ドルフィンの発する音波が、聴覚しか持たないグルンガンの癇に障るからです。
人口が多く、経済が活発なソロマニ・リム宙域には、500年頃から750年にかけて多くのメガコーポレーションが進出してきました。しかしソロマニ自治区や、その後のソロマニ連合の「独立」政権下では、非ソロマニ人を雇用する帝国企業は活動に大きな制約を受け、やがてソロマニ圏から撤退していきました(その資産は接収されて国有化されました)。
1002年にソロマニ・リム戦争が帝国の実質的な勝利に終わると、荒廃した占領地の復興と再統合のために帝国政府は大規模な開発援助計画を組み、帝国のメガコーポレーションは再びこの地に戻って来ました。彼らは星系政府と連携し、活発な雇用と多額の寄付によって、人々の心を再び帝国に惹きつけています(それに対しソロマニ連合は(特にヴィラニ系企業を)「帝国の覇権の手先」として非難しています)。例えば、ゼネラルプロダクツやスターンメタル・ホライズンが建設した運動競技場や歌劇館に市民が集い、何億人もの学生がナアシルカやシャルーシッドの提供する奨学金で学んでいます。
デルガド貿易 Delgado Trading, LIC
997年に設立されたデルガドは、ソロマニ・リム戦争によって今日のメガコーポレーションの地位を築きました。この数十年内でも、ヴェガ自治区へ対核ダンパーや中間子スクリーン技術を供与する数兆クレジット規模の契約をまとめ、大きな利益を得ていました。しかし品質管理の問題で、ライバル社であるLSPやインステラアームズの追い上げを許しており、ヴェガでの取引の維持がデルガド重役の最大の関心事となっています。
またデルガド社内には、リム戦争中にテラからソロマニ連合領に持ち出された古代の遺物を正当な所有者の依頼によって「返還する」部門があり、連合内で密かに特派員による情報網を張り巡らせています。
なお軍需から鉱業、燃料精製、出版、古物商、さらには玩具製造まで幅広く手がけるデルガドは、従業員に対するきつい待遇で知られています。もちろん(一部とはいえ)優秀な従業員には好待遇で応えていますし、利益の追求という面では優れているのも否定できません。
(※旧来は「Delgado Trading」が会社名でしたが、GURPS版以降では「Delgado」になっています(ややこしいことに、マングース版の『The Spinward Marches』だけTradingまで表記)。今回は正式社名を「デルガド貿易」、通称を「デルガド」と解釈しました)
ゼネラルプロダクツ General Products, LIC
同社は安くてそれなりの品質の宇宙船の建造で知られています。リムにおいてはエレクトロニクス産業の巨人であるナアシルカとの戦略的提携で、宇宙船や産業用ロボットのためにコンピュータや航空電子工学(avionics)技術の提供を受けています。
ゼネラルプロダクツは他の宙域では苦戦していますがリム宙域では順調であり、それゆえに不祥事の芽は根こそぎ絶とうと常に心掛けています。
GSbAG Geschichtkreis Sternschiffbau AG
「当社の源流となる会社は-2438年にテラの衛星ルナで創設され、ソロマニ人によるジャンプドライブの開発も当社によるものです」…という広報はあまり世間では信じられていません(※ちなみに、公的文書に最初にGSbAGの名前が出てくるのは、-334年のシレア連邦海軍との造船契約によるものです)。
テラ起源を主張する割に本社はリム宙域外にあるGSbAGですが、それでもリム宙域内の多くのAクラス宇宙港に造船所を構え、豪華ヨットや急使船(couriers)の主な建造業者です。現在GSbAGは、かつて高品質で知られた「メイド・イン・テラ」ブランドの宇宙船を帝国の上流階層に向けて売り出そうと計画しており、造船所をテラの3つの宇宙港のどこに建設するか検討しています。
オルタレ・エ・シェ Hortelez et Cie, LIC
銀行や保険や金融投資のメガコーポレーションであるオルタレ社は、星系政府への融資や大規模開発の受注を行っています。同社はソロマニ・リム宙域の戦後復興において最前線で活躍し、宙域を財政的に支配しています。同社の支社はリム宙域内のヴェガ自治区を含む帝国領内全ての高人口世界に置かれ、営業所はほぼ全星系にあります。
帝国領内でも存在するヴィラニ系企業への偏見は、オルタレ社に同業者のジルンカリイシュに対するわずかな優位性を与えています。
オルタレ社は他宙域では傭兵斡旋も手がけていますが、ソロマニ・リム宙域ではイチバン・インタステラー社との競合を避けるために手控えています。
ちなみに同社は、「情報収集活動」にフリーランスの人材を雇う傾向があります。
インステラアームズ Instellarms, LIC
インステラアームズはリム宙域のAクラス宇宙港の多くの星系に支社を持ち、企業や星系政府の保安業務に傭兵の派遣を行ったり、兵器の販売をしています。
同社は、ソロマニ・リム戦争時に鹵獲されたTL10~13のソロマニ軍の小銃、弾薬、補給物資、戦闘車両を帝国から買い上げる契約を結びました。これらの武器は再整備され、ソロマニ軍の識別コードを取り除かれた上で、帝国各地の地上軍や傭兵部隊や治安警察に売却されました。ところが皮肉なことに、これらのソロマニ軍兵装の高品質さが評判を呼んでしまい、需要に応えるために同社はその複製品を作るようになりました。
やがて帝国とソロマニ連合との関係が安定してくると、連合内の牛飼座近傍星団は、本物のソロマニ軍の兵器を購入するよりも、インステラアームズ製の複製品を輸入した方が安いことに気が付き、国境を越えた取引が始まりました。他の帝国系メガコーポレーションと異なり、インステラアームズは皇族が株式を持っておらず、反帝国国家への(複製品とはいえ)武器供与という行為に対する心理的ハードルが低いのです。
LSP Ling-Standard Products
多角経営を行っている鉱業会社であるLSPは、戦後のリム宙域で活発に活動を行いました。LSPは資源や市場への接近を確実にするため、賄賂や軍との契約を利用して地元の有力者や独裁者などと関係を持つことを好みます。時としてそうした方針が民間人の抗議やテロリストの攻撃を呼びますが、多くのLSP施設は要塞のような建物と、いかめしい傭兵部隊によって守られています。
さらにLSPは、数世紀前のソロマニ党政権によって接収された自社資産を取り戻すために、多くのリム世界で弁護士を立てて法的措置を取っています。
マキドカルン Makhidkarun
メディアや娯楽産業を本業とするこのヴィラニ系企業の食品部門は、テラやガイア産の珍しい高級食品やワインなどの輸出におけるシャルーシッドの独占に穴を開けようとしています。一方で、反ヴィラニ感情や、電子製品部門がリム宙域の市場に不正な手法で進出しようとしたこともあり、他宙域での名声に反して同社はリムではあまり人気がありません。
ナアシルカ Naasirka
このヴィラニ系のエレクトロニクス企業は、ソロマニ・リムで着実にシェアを拡大しました。また同時に、リム宙域におけるゼネラルプロダクツの下請けも行っており、仕事を容易にするために、多くのナアシルカの工場はゼネラルプロダクツの造船所の近くに置かれています。なおナアシルカの電子機器は、反ヴィラニ感情が残っている星系ではゼネラルプロダクツの名義で販売されています。
ナアシルカはシュルルシシュ(0214)にロボット研究所を持つなどしていますが、加えて、大学のコンピュータや数学や人工知能といった研究に直接資金を提供しています。同社は優秀な卒業生の取り込みを強めるために、高等教育に多額の寄付を行っているのです。中でもテラ大学に新設されたナアシルカ・エンジニアリングセンターは、同社の気前の良さの代表格です。
最近では若いヴェガン科学者の獲得を目指し、科学的な専門知識を持つトゥフールとの合弁事業をムアン・イスラー(1816)で開始しました。
SuSAG Schunamann und Sohn AG, LIC
SuSAGのリム宙域への進出は、小国家イースター協定(Easter Concord)が帝国に加盟する直前の425年に、工場用地としてイニドゥ(2406)を取得したことから始まりました(現在でもイニドゥは同社の宙域本部です)。
SuSAGの全ての部門はリム宙域で活発に活動していて、同社の営業所は帝国領内の全てのAないしBクラス宇宙港で見ることができます。また、SuSAGはリム内のいくつかの企業を買収しています(その中で最も大きなものがシーハーベスター社です)。
同社の帝国外事業部は、ヴェガ自治区内だけでなく、ソロマニ連合内の何十ものの世界で事業を行うために、ペーパーカンパニーや秘密の子会社を運営しています。ただしソロマニ連合内でも超能力ドラッグの製造は違法ですので、それが目的ではありません。ソロマニ連合のバイオテクノロジー(特に遺伝子操作)技術はある地域では帝国よりも優れており、この技術への接近を図るためなのです。これらの子会社とSuSAGの関係は、「ソロマニ企業を所有している帝国企業」という悪評と法律問題を避けるために秘密にされています。
他にもSuSAGには、ソロマニ連合への化学兵器供与やソロマニ主義政治犯への人体実験などの悪い噂がつきまとっています。
シャルーシッド Sharurshid
数千年前はこの地を統治していたシャルーシッドですが、現在のリム宙域におけるシェアは大した規模ではありません。しかし、テラ産の贅沢品の貿易に関しては別です。テラで作られた飲料(コーヒー等)、酒類(ワイン、ウイスキー、ビール等)、タバコなどは、ほぼ全てがシャルーシッドの宇宙船によって輸出されています。一方で帝国の支配階層向けの極少数のとても高価なビンテージ品に関しては、帝国偵察局の船に委託して運ばれています。
なお、シャルーシッドのブローカーは、手強いが誠実な交渉人として名高いです。
スターンメタル・ホライズン Sternmetal Horizons, LIC
LSPのライバル企業であるスターンメタル・ホライズンは、惑星上でも小惑星帯でも、ソロマニ・リム宙域最大の鉱業会社です。同時に、一般車両のパワープラントから核融合発電所、合成食品製造機械、生命維持装置といった分野の主要な製造元でもあります。よって、リム宙域の高人口世界やアーコロジーの多くは、スターンメタル製品に生命を預けていると言っても過言ではありません。リム宙域の広告で親しまれている『スターンメタルおじさん(Uncle Sternmetal)』のキャラクターは、同社の信頼性と優秀なサービスの象徴でもあります。真面目で不正を働かない企業、という世間一般の評価は、本業の鉱業分野においてもLSPより有利な契約を得る助けとなっているのです。
ソロマニ・リム宙域のインフラへの高いテロ攻撃の危険性により、同社は重要な発電所や生命維持システムを守る緊急対応チームを組織し、訓練しています。
テュケラ運輸 Tukera Lines, LIC
旅客・貨物輸送で帝国最大手企業であるテュケラ運輸は、他の宙域と同様に主要通商路の独占を目指しています。しかしリム戦争以降、同社はソロマニ・リム宙域内におけるシェアを確保することに苦戦しています。シャルーシッドや宙域企業(ソラー輸送やエウム・シャオ・グウィなど)の牙城を崩すためにテュケラは手段を選ばず、貴族社会に張り巡らせた人脈や、冷酷な社内諜報部門であるヴィミーン(Vemene)を活用しています。
(※1105年設定のマングース版原文では、手段として「皇族との近さ」が挙げられていたのですが、先々代皇帝ガヴィンの曾孫であるデルファイ・アナクシアス両公マーガレット・イェティリナ・アルカリコイが、テュケラ一族のアレクヴァディン伯爵ブライン・トゥルーラ・テュケラ(Count Blaine Trulla Tukera of Alekvadin)との結婚後にテュケラ姓を名乗るのは1110年のことです。1120年設定のGURPS版に影響された勘違いと思われますので、独断で「貴族社会の人脈」と変更しました)
ジルンカリイシュ Zirunkariish
ヴィラニ系投資銀行である同社は、ソロマニ連合の歴史書で頻繁に非難されています。これは、ジルンカリイシュの創業者一族の末裔であるアンティアマ妃とザキロフ皇帝との結婚に端を発します。ソロマニ主義の陰謀論者は、このヴィラニ系企業が帝国を影からいまだに操っていると主張し、帝国の公人や政策にジルンカリイシュの不透明な資金が流れているという「創作物」を出版し続けています。
一方でジルンカリイシュはその遵法精神の高さだけでなく、密接に帝国政府と協力する安定した金融機関としての高い評判を得ていて、同社はウルティマ星域やアルバダウィ星域の発展途上惑星の開発においても大きな役割を果たしています。
ジルンカリイシュはヴィラニ系企業の類に漏れず、ソロマニ主義活動家の標的になりがちであり、リム宙域で活動する同社の幹部社員には必ず1人以上の護衛が付けられています(仕事先の危険度に応じて護衛の人数は増やされます)。
また帝国の宙域内企業としては以下のような会社が活動しています。
エウム・シャオ・グウィ Ewm Shao Gwi
ヴェガ自治区内の貿易を一手に担うこの会社は、数千年前にヴェガンが宇宙に進出する以前から商業のトゥフールとして活動していた伝統を持ちます。エウム・シャオ・グウィの目的はビジネスの成功ではなく、言わば哲学的に利益の分配と資源の再分配を追求しています。
同社は母星ムアン・グウィで旗揚げしましたが、現在ではムアン・イスラーに会社の基盤を置いています。エウム・シャオ・グウィは、ヴェガ自治区内全域と境界から6パーセク以内の一部の帝国領星系を商圏としています。
イチバン・インタステラー Ichiban Interstellar, LIC
イチバン社はソロマニ・リム宙域で最古と言われる(その歴史は第二帝国時代から…と同社は主張しています)傭兵斡旋企業です。イチバン社は、傭兵の募集から給与の支払い事務、兵装の販売から補修、その他あらゆる傭兵に関するサービスを、傭兵部隊の指揮官や依頼人に提供しています。また宙域最高の軍事・政治両面の情報部門の専門家を取り揃えています。
イチバン社は兵器や装備の製造部門を極わずかしか持っておらず、それらは他社(主にインステラアームズ)から購入して、契約した傭兵部隊(または傭兵個人)に転売しています。
ちなみに昔からイチバン社には、機械もしくはバイオ技術で人体を強化した「サイバーニンジャ部隊」があるという未確認の噂があります。
(※イチバン社の大株主であるタンクレディ家は、アンタレス・ホールディングスなどを所有する帝国の名門貴族です)
シーハーベスター Seaharvester, LIC
シーハーベスター社は、海洋の天然資源開発を専門とする企業です。同社は934年に創業され、養殖漁業、深海採掘、海中金属抽出の分野でTL13~15の技術を持っています。生化学部門では、海洋生物から薬品や栄養食品や化粧品に役立つ生成物の抽出も行っています。さらにシーハーベスター社は、狩猟用から養殖用まで、様々な水棲生物のクローンを星系政府の依頼で提供する事業も手がけています。
同社は1099年にメガコーポレーションのSuSAGに買収されましたが、独立した子会社として営業を続けています。この買収により、SuSAGはいくつかの重要な医薬用物質、特にPDPT-βという幅広く用いられている抗生物質を独占的に確保することができるようになりました。
ソラー輸送 Solar Shipping
テラに本社を置くソラー輸送は、ソロマニ・リム宙域の帝国領側で旅客と貨物の輸送事業を営んでいます。かつては宙域全体で運行を行っていましたが、ソロマニ・リム戦争後にソロマニ連合領側の通商路を放棄せざるを得なくなりました。その通商路はソロマニ輸送(Solomani Shipping)が引継ぎ、両社は相互乗り入れ契約を結んでいるため、国境で分断された2社はまるで一つの会社のように利用が可能です。
ソロマニ・リム戦争の後、ヴェガ自治区の設置の効果もあってか、リム宙域の情勢はかなり安定はしています。しかし宙域が内包する民族主義の問題がある以上、様々な活動家が跋扈しているのも事実です。反帝国テロ組織「テラの支配(Rule of Terra)」などだけではなく、反ソロマニを掲げる過激な団体もあります。戦争時にテラに隠匿した軍事物資を用いてソロマニ系ゲリラが蜂起を試みようとした「フェニックス計画」の発覚以後、帝国はこうした過激派の取り締まりに力を入れています。
こうした問題に対し、力ではなく寛容さで臨もうとする人々もいます。「オーセンティスト」と呼ばれる人々が推進するオーセンティック運動(Authentic movement)は、988年にソロマニ人の人類学者ヨハン・クラム(Johann Kramm)(946年生~1005年没)よって書かれた『信ずべき体験(The Authentic Experience)』を原典としています(この書籍の各言語翻訳版は現在マキドカルンから発行されています)。クラムは宇宙全ての文化に価値を見出し、多様性の素晴らしさを説きました。それに賛同した人々が、オーセンティック運動を始めたのです。
最初コア宙域で広がりを見せたオーセンティック運動は、既にクラム本人が見届けることができなくなった1010年頃には、戦争で荒廃したソロマニ・リム宙域にも広がっていました。当初はソロマニ主義運動の隠れ蓑となる恐れから帝国当局に警戒されたオーセンティック運動でしたが、1050年頃には(特に亡命派の帝国貴族の支援もあって)リム宙域で大きなうねりとなっていました。
今では、軍政下にも関わらずテラやディンジールといった歴史ある星を訪れる旅行者の多くがオーセンティストとなっています。一方で、運動が最近あまりにも商業化しているのではないかと、一部の支持者が苦言を呈しています。
【ライブラリ・データ】
ソル大公キーラン Archduke Kieran Langos Adair of Sol
1102年にソル大公位を継承したキーラン卿は、1064年にソル領域首都であるエクセター(ディアスポラ宙域 2729)で誕生しました。ソロマニ系貴族であるアデアー家は、元々マッシリア宙域の男爵家に過ぎませんでしたが、彼の曾祖母であるアリエル・アデアー女男爵(Baroness Arielle Adair)がソロマニ・リム戦争において海軍大提督として帝国軍を勝利に導き、その功績でソル大公となったのです。
彼はリベール(ディアスポラ宙域 1109)のオミクロン大学で政治学を学んだ後、帝国の外交使節団の一員としてリーヴァーズ・ディープ宙域やダーク・ネビュラ宙域を回り、ソロマニ連合やアスランの文化や政策、そして彼らとの付き合い方を学びました。その後、アスランの母星であるクズ(ダーク・ネビュラ宙域 1226)に帝国の代理公使(charge d'affaires)として赴任しましたが、父であるエティエンヌ大公が病に倒れたために帰国して父の名代を勤め、前大公の死去後にソル大公となりました。
新大公はまず就任後2年間はディアスポラ宙域とオールド・エクスパンス宙域の経済活性化に努め、現在は政策の焦点をソロマニ・リム宙域に当てています。その手始めとして、領域全体の安定と繁栄を考えて、領域首都のリムへの移転を計画しています。
穏健改革派と目されるアデアー新大公は、ストレフォン皇帝と親しい間柄です。しかし帝国貴族院(Moot)からはあまり好ましく思われていないようです。また、テュケラ運輸のやり口を嫌っており、両者は対立関係にあります。
ちなみに、大公は現在独身です。
(※ソル領域(もしくはソロマニ人)には貴族を苗字で呼ぶ風習があるため、「アデアー大公」という呼び方は間違ってはいません)
(※マングース版『The Solomani Rim』では、アデアー大公は1105年現在、ディアスポラ宙域の首都であるリベールに「座している」ことになっていますが、リベールが領域首都であるとは記載されていないので、エクセターを領域首都とするGURPS版設定との両立は可能と判断しています)
ディンジール公ロバート Duke Robert Stephanos Beaudoin of Dingir
ディンジール公の長子として誕生したロバート卿は、テラ大学で軍事学を学んだ後、帝国海軍中佐として勤めました。1095年に父の願いで退官し、2年後にその父の死去を受けてディンジール公爵となりました。
野心家であった新公爵は、就任後すぐに、宙域公爵となるべく政界工作を始めました。周囲への雄弁な説得と、そして少しの陰謀を駆使して、1098年に宙域公爵であったコンコード公を不信任投票で失脚させ、自らが取って代わることに成功しました。しかし翌年に「元宙域公爵」が失意のあまりに自殺したため、宙域の貴族社会に苦い記憶を残してしまいました。
それでもロバート公の手腕は確かで、社会不安を抑え、宙域海軍の組織改革などで成果を挙げています。彼は宙域公爵就任の際に多くの敵を作ってしまいましたが、その政敵ですら彼の実績は(渋々ですが)認めています。
これだけでもまだこの宙域のほんの一部でしかないほどに、このソロマニ・リム宙域は隅から隅まで奥深く設定がなされています。次回からは1星域規模に焦点を絞って紹介をしていきたいと思います。
【参考文献】
・Book 7: Merchant Prince (Game Designers' Workshop)
・Adventure 9: Nomads of the World-Ocean (Game Designers' Workshop)
・Double Adventure 3: The Argon Gambit (Game Designers' Workshop)
・Alien Module 6: Solomani (Game Designers' Workshop)
・MegaTraveller: Imperial Encyclopedia (Game Designers' Workshop)
・Aliens: Solomani & Aslan (Digest Group Publications)
・Travellers' Digest #13 (Digest Group Publications)
・GURPS Traveller: Rim of Fire (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Nobles (Steve Jackson Games)
・Traveller: The Solomani Rim (Mongoose Publishing)
・Alien Module 5: Solomani (Mongoose Publishing)
・Traveller Wiki
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