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セイピースプロジェクトのブログ

北朝鮮問題から考える北東アジア非核兵器地帯構想

2009年08月04日 | ニュース紹介
 4月から立て続けに北朝鮮の「ミサイル」発射、地下核実験が行われ、日本では特に大きく報道がなされてきた。この間で高まっている世界的な核軍縮の流れと逆行するような事態である。ただし日本での報道は北朝鮮に対する敵対的姿勢をあらわにするものが多いが、必ずしも事実に即して冷静に議論しているとは言えない。そこで今回はこの問題を整理してみたい。

1.北朝鮮「ミサイル」発射・核実験の経過

 それではまず、北朝鮮「ミサイル」・核実験の経過を振り返ってみることにする。

▼「ミサイル」発射まで
1月末 韓米情報当局、長距離弾道ミサイル発射へ向けた準備をキャッチ
2/24  北朝鮮、衛星運搬ロケット「銀河2号」による試験通信衛星「光明星2号」の打ち上げ準備を発表
3/9   米韓軍事演習「キー・リゾルブ」開始
3/12  北朝鮮、国際民間航空機関、国際海事機関に4/4~8のロケット打ち上げを通告。日本海と太平洋上の「危険区域」も通告。
3/27  日本政府、MDで迎撃する方針を決定し、自衛隊に基づく破壊措置命令を発令。PAC3を秋田・岩手両県と防衛省など3ヶ所に移動開始
4/5   北朝鮮、11時30分頃に飛翔体を発射。秋田・岩手上空を太平洋上へ通過。日本政府、ミサイル迎撃システムは作動せず。15時30分頃、人工衛星「光明星2号」を打ち上げ、軌道に乗せることに成功したと発表

▼「ミサイル」発射の影響・地下核実験にいたる経緯
4/13  国連安保理、議長声明を採択
4/14  北朝鮮、外相声明で議長声明を非難。6カ国協議からの離脱を宣言
同日  IAEAへの退去命令→翌日退去
4/24  安保理制裁委員会、日米が挙げた北朝鮮企業三社の資産凍結を決定
4/29  北朝鮮、安保理へ謝罪と制裁撤回を要求

▼地下核実験とその影響
5/25  北朝鮮、午前9時54分頃に地下核実験を実施。規模は長崎原爆並み
5/26  韓国、大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)への全面参加を決定
6/12  国連安保理制裁決議1874採択
6/13   北朝鮮、安保理決議に対する非難声明
7/2   北朝鮮、短距離ミサイルを計4発発射
7/4   北朝鮮、弾道ミサイルを計7発発射
7/6   安保理緊急会合
7/7   日本政府、制裁決議の実施のための貨物検査法案を国会に提出

 ここからまず、かつてはアメリカの動きを見ながら時間をかけて駆け引きを行ってきた北朝鮮の、矢継ぎ早の動きが見えてくるだろう。次に「ミサイル」発射・地下核実験の実態を見てみよう。


2.北朝鮮「ミサイル」・核実験の実態

▼4/5の「ミサイル」発射
 最初の「ミサイル」発射に関しては1で見たように、事前に2月の時点で発射が通告され、しかも衛星の打ち上げであることが述べられている(衛星を軌道に乗せることには失敗との見方が強い)。それは北朝鮮だけでなく、アメリカのブレア国家情報局長でさえ人工衛星であることを認めている。だとすれば、2006年に挙げられた安保理決議1965が非難した「無通告発射」には違反していないし、更には「ミサイル」発射後の議長声明で述べられた安保理決議1718違反でもない。北朝鮮を擁護するわけではないが、むしろ国際社会の対応は本当に正当だったのかが問われるだろう。実際、「ミサイル」発射前の3/9~20には米韓軍事演習「キー・リゾルブ」が行われており、これは安保理決議1718にある「緊張を激化させる可能性があるいかなる行動も慎む」という点で決議に違反しているといえよう。

▼地下核実験
 地下核実験とは、地面や山の斜面に穴を掘り、その中で核爆弾を爆発させ、威力を確かめる実験である。今回の爆発は前回の核実験(2006年10月)よりも大きな規模だとされる。全米科学者連盟のハンス・クリステンセン氏は約4キロトン、ロシア国防当局は長崎原爆に匹敵する10~20キロトンと見ている。実験に伴い地震が発生するが、このときはマグニチュード約4.5であった。また失敗すれば放射能物質が漏れることがありうるが、このときはなかったとのことである。
 今回は明白に安保理決議1718に違反している。これは非難されて仕方ない。国際社会が北朝鮮の核実験を未然に防ぐことはできなかったのかということは同時に考えなければならない。

▼7月の弾道ミサイル発射
 制裁決議など国際社会の圧力に屈しない姿勢を見せる意味で発射され、今回は明白に弾道ミサイルのようである。発射されたのは短距離の「スカッドC」(射程約500km)、中距離の「ノドン」(同約1300km)である。韓国政府関係者によると、スカッドCの精度の向上、またノドンはあえて短い飛行距離に落とす調整をしている。外貨獲得を急いでいる中でミサイル輸出国へのアピールとの見方もある。


3.国際社会の対応

 以上北朝鮮の動きを追っていったが、これだけだと北朝鮮が一人歩きしているようにしか見えないが、実際には国際社会における関係性の中で上記のような矢継ぎ早のミサイル発射、核実験を行っていると考えるべきである。
 4月の飛翔体発射の時には、北朝鮮が衛星打ち上げであり、平和利用であるという主張に対し、各国の対応は北朝鮮を刺激するようなものであった。発射の前には先に述べたように米韓が合同軍事演習で北朝鮮を牽制し、発射後は中国やロシアが慎重な姿勢を示したのもあり議長声明にとどまったが(議長声明に法的拘束力はない)、安保理決議1718違反とした。その声明に対し北朝鮮が言っていることだが、安保理が衛星発射をこれまで問題にしたことはなく、国際法に則っての打ち上げを論難するのは確かに不公平であろう。
 しかし、5月の核実験の後には北朝鮮に対する非難は法的拘束力を持つ安保理決議という形で更に厳しいものとなった。もちろん核実験は明らかにこれまでの決議違反なので北朝鮮の行為に正当性はないと思われるが、これまで北朝鮮が国際社会の非難に反発してきたように、圧力をかけるということは問題の解決にはならないというのが実際である。今回も決議の後にミサイル発射を立て続けに行っており、根本的な解決には程遠い。
 一番解決を妨げていると思われるのが日本の対応である。緊張緩和に向かう姿勢が見られないのである。4月には発射前にPAC3、また日本近海にイージス艦を配備したが、北朝鮮に対する圧力であるし、そもそも市民の安全を守るという意味でもMDは役に立たない。政府高官や外相すらこの点は認めている。彼らが言うように、ピストルの弾をピストルの弾で撃ち落とすのは難しい。それだけでなく、日本は発射後も安保理決議に執着して中国になだめられていたし、しまいには敵基地攻撃論、核武装論すら飛び出す有様だった。6月に決議があがった後は貨物検査法案で自衛隊を出せるように仕向けている。


4.「北朝鮮問題」の解決のために

 以上この間の動きを追ってきたが、ここから見えてくるのは、根強い相互不信とそれに基づく軍拡の契機である。疑心暗鬼が北朝鮮に核抑止力を求めさせ、逆に日本が核武装や自衛隊の強化を言い出す根拠となっている。その対立とは、この地域に特殊な植民地支配をめぐる歴史対立であり、また残存する冷戦構造である。その中で北朝鮮は圧倒的なプレゼンスを誇る米軍の圧力にさらされてきたのであり、また冷戦後は孤立を深め、経済的にも体制維持が困難な状況にあるのだ。だからこそ北朝鮮は核開発をちらつかせながら米軍の脅威の除去、アメリカのエネルギー・経済支援を引き出そうとしてきた。今回もその延長線上にあると考えてよい。
 私たちが考えなければならないのは、北東アジアの安全保障を規定するこの対立を解消し、新しい安全保障のあり方である。まさにそれが北東アジア非核兵器地帯構想である。すでにNGOの働きかけが精力的に行われ、民主党には議連ができているこの構想は、日本と朝鮮半島を非核化し、アメリカ、中国、ロシアの核保有国が核による攻撃・威嚇を行わないことを保証する。そしてそれは単なる空理空論ではなく、検証制度を設けることで実際に非核化を実現する。お互いが核兵器を持っていないことが確認されるため、核兵器に依存する安全保障はもはや成り立たない。北朝鮮は核を持つことはできないし、持つ必要性もなくなる。いわゆる「北朝鮮の脅威」が成り立たないので日本の核武装や憲法改正で自衛隊を軍隊化することの根拠も薄弱となるだろう。このように核兵器を糸口に軍事的な緊張緩和を実現し、更なる軍縮に進んでいく。それこそが根本的な解決に近づくことではないだろうか。

(コネホ)

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