11人の侍

「生きている間に日本がワールドカップを掲げる瞬間をみたい」ひとたちの為のブログ

セレッソ西沢 ~5年越しのリベンジ~

2005年12月03日 22時31分01秒 | サッカー
大久保嘉人は夢をみた
かつて自分がJリーグに残留させたチームからメールが届く夢だ
メールにはこう書いてあった

「セレッソ大阪がJリーグを制した」

第34節、2005年Jリーグの最終節はセレッソ大阪の為の舞台だった
5チームに優勝の望みがあったけれど
セレッソが勝てば他の可能性は潰える
ここまでリーグ15試合負けなしのセレッソ大阪
気負わず普段どおりに戦えれば勝つ可能性は高い
5年前の悪夢を振り払う精神力が試される舞台だった


西澤明訓にとってはこの試合は自身の評価を覆す絶好の機会だった
1997年のフランスW杯予選
はるか格下を相手にする1次予選にも関わらず
西澤の緊張ははたからみて気の毒なほどだった
高木啄也を押しのけて招集された当時の西澤は20歳そこそこ
代表デビュー戦はもちろん、日本がW杯を経験する前のことだ
大きな舞台に弱い選手というネガティブな名札はこの試合からつけられた
「負け犬のまま終わりたくはない」
2002年のW杯に出場した金髪のセンターフォワードは大一番を前にして言った


守備の要ブルーノ・クアドロスを欠くディフェンスラインにロングボールが放り込まれた
急激に冷え込む12月の日本列島を仄かに熱くする闘いの幕が開いた


開始3分
復讐に燃える西澤がいきなり吼える
久藤のクロスを完璧に頭で合わせてみせた

でも棚からぼた餅が落ちてくるのを狙う他チームだって黙ってはいない
オレンジ色が目立つ新潟では
堀之内聖が身体ごとボールをゴールに押し込み
カシマでは13試合振りにスタメン出場を果たした野沢拓也が
アレックス・ミネイロのスルーパスを見事に流し込んだ

各会場で激しいコンタクトが繰り広げられる
この日は珍しく数多くのレッドカードが乱れ飛んだ

鈴木規郎の左足で同点に追いつかれたセレッソに
精神力を試される機会が訪れる
古橋達弥が獲得したPK
蹴る前にポルトガル語で喚き続けていたゼ・カルロスのキックは
日本代表GKに弾き返された

この日土肥洋一は文字通りセレッソの前に立ちはだかった
ゴール目の前からの森島のヘディングもがっちりとキャッチ
セレッソには一段とプレッシャーが圧しかかる

ビッグスワンでは赤いダイヤのナンバー10
ポンテの右足が眩いばかりの輝きを放っていた
赤い悪魔は安定した戦いぶりで2点差をつけ
前半にして勝利を半ば確実なものにしていた


「他会場の結果は選手に伝えましたか?」
同点に追いつかれて後半を迎える羽目になったG大阪の西野朗監督に質問が飛ぶ
西野は怒気混じりの震えた声でこう搾り出した
「関係ないですからっ!」
勝負強さを試されているのはこちらも同じだ
1ヶ月前に彼のチームは目前にした初タイトルを逃している

対照的に大分トリニータをJ1に引き上げた経験を持つセレッソの小林伸二監督は
ぎょっとさせられるほど堂々とインタヴューに応じていた
無名に近い監督だけど神経はすこぶる太い
この瞬間、僕はセレッソの勝利を確信した

後半3分、西澤が再びネットを揺らした
プレッシャーを撥ね退けるかのように振った右足
セレッソと西澤は重圧に打ち勝った

今シーズンのセレッソの全試合を追っていたわけではないけれど
セレッソ大阪は好感が持てるチームだ
今シーズン流行の堅守速攻型のチームだけど、この速攻が抜きん出ていい
この日カウンターのチャンスを得たセレッソはなんと5人が一斉に前線へと飛び出した
英国風のカウンターはJでは極めて稀だ
セレッソ快進撃の秘密はゼ・カルロスとファビーニョの活動量にある
シュミレーションをとられたゼ・カルロスのダイブがまかり間違って
PKを獲得していれば
狡猾なブラジル人は今ごろ満面の笑みを浮かべていただろう


等々力競技場のピッチに
今シーズン限りでの引退を宣言した松波正信が大黒将史に代わって投入されたとき
僕は願懸け以外のなにものでもないと率直に思った
松波は今シーズン中盤のガンバ快進撃とはまったくの無関係だ
引退宣言でチームの指揮をあげようとしたナビスコ杯決勝ですら出番を与えられなかった
僕は西野監督がその罪滅ぼしの意味を兼ね
ミスターガンバの最期の神通力に賭けてみたのだと受け留めた
それこそ困ったときの神頼みのような

それは知将と評される普段の西野の姿とは距離があった
でも西野監督はそれくらい切羽詰っていた
もちろんこれは僕の勝手な想像だ
でも神は西野監督を見捨てなかった

松波の投入に発奮したのは大阪が誇る気鋭の若手
家長昭博がPKを奪取する
ワールドユースで平山相太と並んでチームのベストプレイヤーだった家長は
ナビスコ決勝の舞台に立てなかった悔しさを晴らした

キャプテンのシジクレイ、得点王のアラウージョと並ぶシーズンMVP候補
遠藤保仁のキックはナビスコカップの決勝戦より少しだけ気持ちが入っていたのかもしれない


試合が終わっても西野監督の表情は後半開始前とさほど変わっていないようにみえた
ジェットコースターのようにあまりに急激な展開に
思考と表情が追いついていなかったのだと思う
無理もない
ただ観ているだけの僕だって
虚脱感でしばらく動けないほどぐったりしてしまったくらいだから
でも西野監督の表情にはほんの微かだけれど
安堵の色が混じっているようにもみえた

精神力が試されるシーズン終盤で3連敗したガンバ大阪が
優勝に相応しくないチームだなんて野暮なことは僕は言わない

西野監督は勝った

それはつまり
アーセン・ベンゲル、岡田武史、イビチャ・オシム(ギド・ブッフバルトも加えていいかもしれない)と並ぶ
日本代表監督候補のリストに自らの名を書き加えたことになる

そしてきっと、、、

セレッソ大阪は最期まで負けなかった
リーグ不敗記録を16試合にまで伸ばしてシーズンを終えた

シーズン10ゴールが日本代表入りに相応しいのかどうかは僕には解らない
でも稀に見るこの大舞台で彼は2ゴールという最高の結果を出してみせた

僕は西澤明訓もきっとこの試合に勝ったのだと思う