壁の位置が遠すぎる、と僕は思った。
オーストラリアのフリーキックに対する日本の壁の位置だ。イタリア人ならあの壁の距離を半分にまで縮めてみせる。ルールに敬意を払うことは一般社会でなら好ましいことだろうけれど、ワールドカップのようなサッカーの真剣勝負の舞台では必ずしもそうではない。切羽詰まったあの状況で、果たしてあそこまできっちりとルールを守る必要があっただろうか。
もし仮に恋人が事故に遭 . . . 本文を読む
クロアチア戦で日本中に悲鳴をあげさせた柳沢敦のシュートミスは決して彼ひとりの責任ではない。あれは日本サッカー界全体の未熟さを象徴するシーンだったと考えている。それがゴール前でのシュートミスというもっとも分かりやすい形で浮かび上がったに過ぎない。
そもそも柳沢のシュートが枠に飛ばないことはあらかじめ誰もがわかっていたことだ。一度の好機くらいではゴールを奪うことはできない。ならば周囲の選手たちは . . . 本文を読む
ブラジル戦を終えてピッチに寝転ぶ中田英寿の姿をみて頭をよぎったのは、彼がこのまま引退してしまうのではないかという危惧だった。彼が日本代表を引退してしまうだろうことは知っていた。僕はその可能性が高いことはこれまで何度となく書いてきたし、サッカーファンのあいだではある意味で暗黙の了解のようなものだったのではないかと思う。
しかし僕はピッチに寝転ぶ中田の姿をみたときに、彼がサッカー選手という職業その . . . 本文を読む
ドイツワールドカップの1試合平均得点は2.30点。これは過去3大会でもっとも低い数字になる。
数字は嘘をつかないから、今大会は守備的な大会だったと総括することができそうだ。守備力が持ち味の2チームが決勝戦まで勝ち残ったのに対し、ブラジル、オランダ、アルゼンチン、スペインといったボールポゼッションに力を割くオフェンシヴなチームはひとつも勝ち進むことができなかった。
決勝を戦った2チームのうち勝 . . . 本文を読む
決勝の舞台に辿り着いたフランスとイタリアは1ヶ月の間に7試合をこなしてきたことになる。それもいずれも負けられることが許されない緊迫感のある試合だ。過酷な連戦による疲労は両チームの選手たちに積み重なり、決勝戦も延長に突入するころになると、それはピッチ上で如実に表れるようになっていた。
倦怠感、疲労感、そして苛立ち。
しかし勝利への執念だけは投げ捨てるわけにはいかない。極限状態に追い詰められた2 . . . 本文を読む
試合前の国歌斉唱でフェリペ監督がポルトガルの国歌を口ずさんでいた。
フェリペの出身国であるブラジルとポルトガルは言語が同じで、文化的にも共通点が少なくないのだろうけれど、それでも他国の国歌をテレビカメラの前で歌うとはよほどのことだ。ちなみに僕にはオーストラリアで2年ほどの留学経験があって、かの地を第2の故郷のように想っているけれど、国歌ときたら歌詞どころかそのリズムすら覚えていない。
ドイ . . . 本文を読む
フランスとの準決勝の舞台でクリスティアーノ・ロナウドはすっかり悪役になってしまっていた。
イングランドとの準々決勝でロナウドがみせた、マンチェスター・ユナイテッドの同僚ルーニーを退場に追いやるほどの勝利への執着心は、サッカーファンには受け入れられなかったようだ。
スタジアムにはポルトガルとフランスよりも中立のファンのほうが目立ったけれど、ヤングプレイヤー賞の有力候補でもあるウインガーがボー . . . 本文を読む
開幕前からイタリアを優勝候補の筆頭に推してきたけれど、現実にイタリアが優勝カップに手をかけつつある現状をみて、僕はいまこの予想が当たってほしくないとさえ思い始めている。
大会前に僕がイタリアに注目したのは、彼らが今までにない攻撃的なスタイルに転化することで、新たな可能性を探ろうとしているようにみえたからだ。ドイツを4-1と破った親善試合はその最たる例で、トーニ、ジラルディーノ、そしてデルピエロ . . . 本文を読む
「勝っているチームはいじるな」の格言はブラジルサッカーが生み出した格言だとばかり思っていたから、アドリアーノのスタメン落ちは意外だった。
テュラム、ギャラスらの骨太なセンターバックに、サニョルとアビダルを加えた鉄壁の砦の前で、マケレレとヴィエラがパトロールの任務をしっかりこなす。今大会のフランスの守備力はイタリアと双璧を張る。ロナウドといえども1トップでは明らかに分が悪い。
かつてのバッジオ . . . 本文を読む
怪我でオーウェンを欠いたことはイングランドにとって致命的なダメージだった。
彼の離脱によりイングランドは骨折から回復して間もないルーニーを含めて、たったの3人しかフォワードがいなくなった。いずれもワールドカップは初出場。しかも3人のうちひとりはプレミアリーグに出場した経験がないウォルコットだ。彼は今回のワールドカップでも1秒たりともプレイしていない。これは比較的出場しやすいポジションであるフォ . . . 本文を読む
今大会のイタリアが喫した失点はアメリカ戦のオウンゴールによるわずか1点。ネスタを欠いてなお、相変わらず守備は非常に堅い。イタリア相手に先制点を挙げるのはほとんど不可能にさえ思える。
ただし今大会のイタリアをさらに恐るべき存在としているのは、仮に先制点を挙られても対戦国を安閑とはさせないだけの攻撃陣を揃えていることだろう。ウクライナ戦でスタメン出場したフォワードはトーニひとりだったけれど、これ . . . 本文を読む
アルゼンチンのスターティングラインナップにコロッチーニとテヴェスというふたりの武闘派の名前があった。コロッチーニの起用は長身選手を揃えるドイツの空中戦に対抗するためでもあったのだろうけど、むしろ僕はこの印象のほうをより強く持った。
アルゼンチンはドイツに喧嘩の勝負を挑むつもりだ。
実際、試合は開始から揉める。両者ともに先手必勝の態勢で、出会い頭にがつんと一撃かましておこうという意図が . . . 本文を読む