11人の侍

「生きている間に日本がワールドカップを掲げる瞬間をみたい」ひとたちの為のブログ

残酷なほど美しいブルースの悲劇

2009年05月07日 06時20分01秒 | サッカー
88分、終了のホイッスルを前にしてバルセロナのペップ・グラルディオラ監督がチェルシーのフース・ヒディング監督の肩に手をかけて苦笑いを浮かべた。

気持ちはわからなくもない。
チェルシーの守備陣はまるで難攻不落の要塞で、ここまでバルセロナの攻撃はまったくのお手上げだった。バルサのシュートは一本としてゴールの枠を捉えていない。90分近くバルセロナのチャンスはわずか0.5回しかなかった。世界最強の攻撃力を誇るバルセロナが、だ。

チェルシーの守備はそれくらい完璧だった。67分、ニコラス・アネルカを背後から追走したエリック・アビダルに一発退場の判定が下されると、もともと大柄なチェルシーの選手たちの身長がさらに10センチくらい伸びたようにさえ感じられた。

怪我のティエリー・アンリがベンチからも外れたバルセロナはアンドレアス・イニエスタを左ウイングに起用している。彼らはいつものように細かくパスを繋ぎ、パスの回数と成功度でチェルシーを大きく上回ったけれども、まったく青い壁を崩せなかった。とくにリオネル・メッシとサミュエル・エトー、イニエスタの3人は、ボールが入ってもつねに複数で監視された。

チェルシーはアネルカまで献身的に守備に加わることで、ジョゼ・モウリーニョのチームを再現することに成功した。ヒディングは偉大な指揮官だ。フィジカルに長けた選手たちが10人で守備を固めると攻略するのは難しい。勝者はどう考えてもチェルシーで間違いないように思えた。

しかしサッカーは驚くべき美しさをもったスポーツであることをいまいちど証明した。

マイケル・エシアンの鮮烈な左足ボレーは、ジネディーヌ・ジダンがレアル・マドリーにチャンピオンズリーグのトロフィーをもたらしたあの伝説的な一撃にうりふたつの名作だった。でも、エシアンのシュートがジダンのものと同じように長く語り継がれることはない。

代わりに記憶されるのはイニエスタの一撃だ。目の前で自陣のゴールが揺れる様をみたエシアンはその瞬間になにを思っただろうか。

サッカーはあまりにも残酷で、あまりにも意外性に満ちていて、だからこそあまりにも美しい。