11人の侍

「生きている間に日本がワールドカップを掲げる瞬間をみたい」ひとたちの為のブログ

バロンドールを獲るはずだったキーウェル

2005年12月30日 11時10分15秒 | サッカー
「うわっ!?、な、なんだ、こいつ?」

「やべぇ、目があっちまった」

「うわあぁぁ、こっちに向かってくるぅぅ」

「うをぉおぉぉぉぉぉ!!」

オーストラリアの友人の牧場でのこと
野生のカンガルーに遭遇したときの僕の心の叫び

飼い犬に追い立てられたそいつは茂みから飛び出してくると
僕の頭を軽々と飛び越えて
たったの3歩ほどで再び茂みの向こうへと消えていった

その迫力ときたら、正直、恐竜でも飛び出してきたのかと思った
離れたところにいた友人は僕よりももっとびっくりしていた

野生のカンガルーは極めて獰猛だ

親しみを込めてサッカールーの愛称で呼ばれるオーストラリア代表
エースのハリー・キーウェルを初めて観たときのインパクトはこの体験に匹敵する

欧州で一世を風靡したリーズ・ユナイテッド黄金時代のキーウェルは
完璧なサッカー選手に思えた

とにかく速くてやたらと巧い

若き16歳という少年期にトライアルで合格し
ニューサウスウェルスから英国に越してきた彼は
英国系の選手らしい勇猛さとフィニッシュの強烈さをも兼ね備えていた

僕は近い将来のバロンドール受賞も可能だと思っていた

当然ながらオーストラリア代表にもすぐ目をつけられる
フランスW杯予選の締めくくり、
1997年のイランとの大陸間プレイオフで大きな期待と共に代表に選出されている
まだ19歳のときだった

キーウェルは期待に応えた

12万人のイラン人が声を荒げる異様な状況のなか
代表初ゴールを挙げたのだ
続くホームでも追加点を挙げW杯を手元にぐっと引き寄せてみせた

もっともチケットは狡猾なイラン人ストライカー
アジジに掻っ攫われることになるのだが、、

W杯に出場した経験のないキーウェルにとって
オーストラリア代表でのハイライトといえば
2003年に英国ウェストハムのホームグラウンドで行われた
イングランドとの親善試合になるだろう

エリザベス二世をともに女王として崇める姉妹国との対戦
キーウェルはリーズ時代のチームメイト
リオ・ファーディナンドを出し抜いてオーストラリアに勝利をもたらすゴールを決めた
(ファーディナンドはウェストハム出身だから地元で恥をかかされたことになる)
翌日は少なくない数のオーストラリア人が
誇らしげにキーウェルのユニフォームを着て仕事や学校に出かけた

バロンドールを獲るはずだったキーウェルの才能に疑いの余地はない

ただライアン・ギッグスやアリエン・ロッベンをみても解るとおり
どんなに偉大な才能であっても
左ウイングが英国でナンバーワンの座につくのはほとんど不可能に近い

世界一フィジカルコンタクトが激しいプレミアシップでは
ウイングは常に怪我の高いリスクが付き纏うからだ

キーウェルも例外でなく怪我に泣かされ続けてきた選手だ

でも今はリバプールのラファエル・ベニテスの寵愛を受け
少しづつトップフォームを取り戻しつつあるように見える

それは日本人にとってはあまりいいニュースじゃないのだろう
でも世界のサッカー界にとっては素晴らしいニュースだ

サッカールーのエースが再びピッチを自由自在に飛び跳ね始めた