とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

デノスマブのモデリング依存性骨形成促進作用

2020-07-19 11:19:00 | 骨代謝・骨粗鬆症
Denosumabは破骨細胞分化・活性化を抑制することで骨密度を上昇させ、脆弱性骨折を減少させますが、リモデリングに伴う骨形成(remodeling-based bone formation, RBBF)も強力に抑制することが知られています。しかしビスホスホネートとは異なり、大腿骨近位部の骨密度が持続して上昇することから、RBBF以外のメカニズムで骨密度増加を生じているのではないかと考えられています。以前Ominskyらはサルを用いた検討から、モデリングによる骨形成(modeling-based bone formation, MBBF)がその機序ではないかと報告しました(J Bone Miner Res. 2015 Jul;30(7):1280-9)。今回のDempster先生らの報告はこれをヒトサンプルで示したものです。予定人工股関節全置換術をうけた患者で、デノスマブを2回以上投与された患者(Dmab群)の大腿骨頚部におけるRBBF, MBBFを組織学的に検討しました。コントロール(CTL群)としては手術前3カ月以内にステロイドや骨粗鬆症治療薬投与を受けた患者、1年以内にビスホスホネート投与を受けた患者は除外しています。
MBBFが見られた患者の割合はCTL群およびDmab群でcancellous 81.8% vs 100%、Endocorical 81.8% vs 100%、Periosteal 100% vs 100%でした。骨形態計測ではMBBFはDmab群でcancellous 9.4倍、endocorticalで2.0倍に増加しており、RBBFが5.0倍、5.3倍減少していたのと対照的でした。MBBFはメカニカルストレスによる骨径の増加と関連していると考えられますが、これが持続的な骨密度増加の一端を担っている可能性が示されました。 

RECOVERY trialのどこがすごいか?

2020-07-18 10:43:41 | 新型コロナウイルス(治療)
 少し前に世界中で大きな話題になったRandomized Evaluation of Covid-19 Therapy (RECOVERY) trialにおけるデキサメサゾンの有効性についての結果がようやくfull articleとしてpublishされました。結果についてはすでにpublishされる前から散々解説されているように、6 mg/dayのデキサメサゾン(経口あるいは静脈内)を10日間(あるいは退院まで)投与した患者では、標準治療のみの患者と比較してランダム化28日後までの死亡率が低く(22.9% vs 25.7%, rate ratio 0.83; 95% CI 0.75 to 0.93; P<0.001)、補助換気を受けている患者ではrate ratio 0.64、酸素投与を受けている患者では0.82と有意に低かったのに対して呼吸補助を受けていない患者では1.19と有意な効果はなかったというものです。他にもいろいろなsecondary outcomeを検討しているのですが省略します。ここではRECOVERY trialのどこがすごいかという点について、私見を述べさせていただきます。
①とにかく大規模:英国のNational Health Service organizationsに所属する176病院を巻き込んで行われた非常に大規模なtrialです。デキサメサゾン群だけで約2000人、標準治療群には約4300人の患者が登録されました(これ以外にもいくつかの群あり)。これは主導したMartin Landrayらのリーダーシップもさることながら、全面的な国のバックアップ、そして臨床研究に対する現場医師の理解に負うところが大きいと思います。日本だとランダム化というだけで「人道的に云々」ということで抵抗を示す医療者が多いので、中々オールジャパンの研究にはなりません。
②研究デザインが優れている:選択基準を読むと、「SARS-CoV-2感染確定あるいは臨床的に疑われる入院患者」という感じで比較的緩やかです。はじめは18歳以上に限定していますが、途中でその限定もはずしていますし、妊娠・授乳患者も入ってよいことになっています。また登録の際の調査、結果の報告についても、webで入力できるのはもちろん、項目数についても現場の臨床医にとって負担が少ないものになっており、それがランダム化後のprimary outcomeが99.9%から得られるというadherenceの良さにつながっていると思われます。また標準治療に加えてlopinavir-ritonavir群、low-dose corticosteroid群、hydroxychloroquine群という群分けについても実地医師にとってあまり抵抗がないものになっています。Remdesivir群がないことを問題視する人もいるようですが、一般の病院で十分な数が確保できないremdesivirを治療群に入れることには無理があります。デキサメサゾンについても経口投与、静脈投与を共に認めていますし、患者登録時に使用できない病院については今回の調査から除外されています。
③それでもきちんとRCTをしている:今回のstudyについては標準治療群とデキサメサゾン群に1:2にランダムに割り付けています。Trial開始時にはサンプルサイズの計算ができなかったのですが、いろいろな臨床データが出てきた後に、28日死亡率を20%とするとデキサメサゾン群で2000人の患者が必要というsteering committeeの意見に従ってデキサメサゾン群は2000人を超えたところで登録を中止しています。また非層別ランダム化であったために両群で平均年齢に1.1歳の差(デキサメサゾン群で高齢)が出たとのことで、70歳未満、70-79歳、80歳以上という層別化を行うという対応をしています。とにかく色々な意味できちんとしています。
 短期間のうちにこのような臨床研究を立ち上げて、しかもしっかりとした結果を出すというのは本当にすごいと思います。残念ながら日本では中々このような研究ができないのですが、今後是非目指すべき目標であると思います。





大腿骨近位部骨折患者の予後に対するCOVID-19の影響(スコットランドの場合)

2020-07-17 19:07:35 | 新型コロナウイルス(治療)
同じような論文ばかりで恐縮ですが、スコットランドからの大腿骨近位部骨折の術後転帰に対するCOVID-19の影響についての論文です。International Multicentre Project Auditing COVID-19 in Trauma & Orthopaedics(IMPACT)の一環として行われたものです。スコットランドの外傷センターを含む6病院で2020年3月1日から4月15日までに入院した大腿骨転子下骨折も含む大腿骨近位部骨折患者317人が対象です。うち27人にSARS-CoV-2感染が認められましたが、入院時に有症状だったのは7人だけで、うち1名は1回目のswabでは陰性で2回目検査で陽性になりました。残りの20人は入院時には無症状で、11人は入院後14日以内、9人は14日目以降(!)に陽性になりました。
入院後30日以内に33人が亡くなりましたが、COVID-19と関連する死亡は9人でした。陽性患者では30日生存率が有意に低値でした(陽性患者64.5% vs 陰性患者91.5%; p < 0.001, Log-rank test)。単変量解析で30日以内の死亡に関与するリスク因子は、老齢、男性(OR 2.67)、介護施設在住(OR 2.4)、Nottingham Hip Fracture Score高値、ASA grade増加、保存的治療(OR 9.75)、そしてCOVID-19陽性(difference 5.54; 95% CI 2.25 to 13.67; p < 0.001)で、COVID-19陽性は独立したリスク因子でした。
ロックダウン前に入院したのが160人、ロックダウン後が157人で、患者背景に差はありませんでしたが、ロックダウン後は有意に全身麻酔の症例が減少し、在院日数が短く、また保存的治療を行う患者が多くなる傾向がありました(OR 2.74, 95% CI 0.83 to 9.09; p=0.102)。
このようにCOVID-19の症状以外にも様々な点で影響を受けており、予後を悪くしている可能性がありそうです。

関節リウマチの再燃は事前に検出できるか?

2020-07-17 10:01:00 | 免疫・リウマチ
 関節リウマチ(RA)の治療戦略はMTXを始めとした抗RA薬(DMARDs)や生物学的製剤、そしてJAK阻害薬の登場とともに劇的に変化しており、現在では早期に診断されれば寛解導入が現実的な目標になっています。しかし寛解はゴールではなく、それ以降も治療は続くわけで、特にいかにして治療のde-escalation、つまり薬物の減量や中止を行っていくかがlife-longの治療戦略において重要になってきます。このような中で、疾患のflare up(再燃)を早期に検出できれば治療の組み立てに大いに役立ちます。このRockefeller大学からの論文は血球細胞のRNA-seqデータから、flare upに関与する遺伝子群を明らかにしたものです。
 RA患者自身に依頼して、毎週Routine Assessment of Patient Index Data 3 (RAPID3) という質問票を記入してもらうのに加えて、3滴ほどの血液を採取してもらい(血糖値測定みたいな感じでしょうか)、これを決められたチューブに入れて大学に送ってもらい、血球細胞の発現遺伝子をRNA-seqで調べました。経時的にデータを収集して、flare upを起こした患者について、臨床的にはflare upが明らかではない8週間前、そしてflare upを起こした4週後の血液サンプルのRNA-seqデータ(65検体)を解析しました。
 解析の結果、flare upに先立って上昇する遺伝子群antecedent cluster 2, 3(AC2, 3)が同定されました。AC2はnaive B細胞や白血球の分化に関係するpathway、AC3はあまり血液サンプルでは見られない、軟骨形成、軟骨内骨化、細胞外マトリックス構築などに関係する遺伝子でした。AC3はflare up前に上昇し、flareが持続すると減少しました。著者らはこれらのデータと滑膜炎との関連を調べるために、これまでに発表されていた滑膜組織のsingle cell RNA-seqデータを参照にし、AC3の発現遺伝子が炎症滑膜のsublinig frobroblastsと共通することを見出しました。RA患者血中で滑膜線維芽細胞の特徴を有する細胞としてはCD45−CD31−PDPN+細胞が最もよく見出されますが、この細胞の発現遺伝子はAC3と共通するものが多く、flare upの前に血中に増加し、flareが起こると徐々に血中から消失します。これはこの細胞が炎症局所に動員されているためと考えられます。著者らはこのような細胞をpreinflammatory mesenchymal(PRIME) cellsと呼んで、RAのflare up予測に有用であるとしています。内容も大変面白いのですが、患者さん自身に検体採取をお願いして送ってもらうというアプローチもコロナ時代に合っているように思います。今後AC2など他の群についても検討を進めるとのことで、期待したいと思います。

どうして縦断データを調べないのでしょうか?

2020-07-17 08:42:28 | 新型コロナウイルス(疫学他)
昨日は東京都の新規感染者(ウイルス陽性者)が286人ということで1日の記録更新だそうです。でもこのような1日1日の横断的な数字(検査数によって変わるので日ごとの比較は困難)よりも、本当に知りたいのは、
①2週間前の新規患者の年齢分布と診断時の重症度
②その人々がその後どのような経過をたどったか
というような縦断データなのですが。。 
この調査が一種のコホート調査であると考えれば、ある1時点における横断的なデータでは、調査した人が全体を代表するpopulationであることが担保されないと、結局全体については何も言えません。調査した集団が、例えば東京都全体の人口と年齢分布や性別、生活習慣、職業、併存症などが一致しているのであれば代表集団とみなせますが、極端に言えばすべて20代だったりすると全体の傾向を代表するデータとは言えないからです。
一方で縦断でデータを取れば、少なくとも調べたpopulation(例えば20代の人)で陽性になった後にどのような経過をたどるか(発症する人はどのくらい、入院する人はどのくらい等)ということはわかるわけです。このような事は疫学調査の「基本のキ」なのですが、どうして専門家の方々が誰もそのような指摘をしないのかが不思議です。