とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

カテプシンK阻害薬Odanacatibは骨形成を阻害することなく骨吸収を抑制する

2020-07-19 18:45:58 | 骨代謝・骨粗鬆症
カテプシンKは破骨細胞に高発現するシステインプロテアーゼとして当時明海大学におられた久米川正好先生、手塚健一先生らによってはじめて同定されました(Tezuka et al., J Biol Chem. 1994 Jan 14;269(2):1106-9)。Odanacatib(ODN)はカテプシンK特異的な阻害作用を有する骨粗鬆症治療薬として開発が進み、大規模なphase III studyであるLong‐term Odanacatib Fracture Trial(LOFT; NCT00529373)において脆弱性骨折予防効果が示されましたが、脳梗塞の有害事象が有意に増加した(1·7% [136/8043] vs 1·3% [104/8028], HR 1·32, 1·02-1·70; p=0·034)ということで開発が断念されたという悲しい経緯があります(McClung et al., Lancet Diabetes Endocrinol. 2019 Dec;7(12):899-911)。これは本当に残念なことで、ODNが市場に出ていれば、少なくとも日本ではNo.1骨粗鬆症治療薬になっていたのは疑いないと思います。最新号のJBMRにLOFT試験に参加した患者の骨生検標本の詳細な解析についての論文が掲載されました。 全部で386例(baseline: ODN n = 17, placebo n = 23, month 24: ODN n = 112, placebo n = 104, month 36: ODN n = 42, placebo n = 41, month 60: ODN n = 27, placebo n = 20)という膨大な数の生検標本を解析した結果、ODNは骨吸収抑制薬でありながら、骨形成を抑制せず、中でも外骨膜における骨モデリングは年とともに増加していくという極めて興味深い結果が確認されました。これは破骨細胞の分化には影響せず、活性化のみを抑制し、破骨細胞数はむしろ増加するというODNの特徴的な作用によるものと考えられます。
Fig. 2の活性を失った破骨細胞が骨表面にならぶ組織写真とか、Fig. 4のきれいなdouble labelの蛍光写真とか、本当にゾクゾクものですよ。このような結果を見るにつけ、どこかの会社が頑張って日本だけででも販売してくれないものか・・と切に望んでるのですが(検討してくれた会社は何社かあったのですが、いずれも断念という結論でした(´·ω·`)ショボーン)。。


デノスマブのモデリング依存性骨形成促進作用

2020-07-19 11:19:00 | 骨代謝・骨粗鬆症
Denosumabは破骨細胞分化・活性化を抑制することで骨密度を上昇させ、脆弱性骨折を減少させますが、リモデリングに伴う骨形成(remodeling-based bone formation, RBBF)も強力に抑制することが知られています。しかしビスホスホネートとは異なり、大腿骨近位部の骨密度が持続して上昇することから、RBBF以外のメカニズムで骨密度増加を生じているのではないかと考えられています。以前Ominskyらはサルを用いた検討から、モデリングによる骨形成(modeling-based bone formation, MBBF)がその機序ではないかと報告しました(J Bone Miner Res. 2015 Jul;30(7):1280-9)。今回のDempster先生らの報告はこれをヒトサンプルで示したものです。予定人工股関節全置換術をうけた患者で、デノスマブを2回以上投与された患者(Dmab群)の大腿骨頚部におけるRBBF, MBBFを組織学的に検討しました。コントロール(CTL群)としては手術前3カ月以内にステロイドや骨粗鬆症治療薬投与を受けた患者、1年以内にビスホスホネート投与を受けた患者は除外しています。
MBBFが見られた患者の割合はCTL群およびDmab群でcancellous 81.8% vs 100%、Endocorical 81.8% vs 100%、Periosteal 100% vs 100%でした。骨形態計測ではMBBFはDmab群でcancellous 9.4倍、endocorticalで2.0倍に増加しており、RBBFが5.0倍、5.3倍減少していたのと対照的でした。MBBFはメカニカルストレスによる骨径の増加と関連していると考えられますが、これが持続的な骨密度増加の一端を担っている可能性が示されました。