とはずがたり

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COVID-19診断法のブレークスルーを目指すアメリカ版マネーの虎

2020-07-23 11:39:52 | 新型コロナウイルス(疫学他)
"Shark tank"というのは何かと思ったら、アメリカ版の『マネーの虎』(どちらが最初か知りませんが)なんですね。このマネーの虎に出資するのは一般投資家ではなく、NIHです。アメリカではCOVID-19の感染拡大に歯止めがかからず、経済活動や文化活動にも計り知れないダメージを与えています。感染拡大抑制が難しいのは、無症状感染者が周囲に感染を広めるためですが、無症状感染者を検出するには検査を行うしかありません。しかし現在行われているRT-PCR検査にはいろいろな問題点があります。責任あるデータを出すのであれば通常の研究室レベルのPCRでは不十分で、然るべき認可を受けた機器や設備、スペースが必要ですし、検査を行う人手や結果が出るまでの時間の問題もあります。ただ単に「PCR検査を1日**万件に増やそう!」という掛け声や気合いで解決できるものではありません。以前にも述べましたが頻度が少なく、いつ感染するかわからないという状況でPCR検査を大量のヒトにランダムに行うのではコストパーフォーマンスが悪すぎるのも大きな問題です。個人的には抗原検査に期待していますが、現在の感度ではまだまだという感じです。
アメリカでは12月までに1日に人口の2%(600万件)程度の検査ができる体制を目標にしているようですが、もちろんそのためには現在の検査法や検査体制では無理で、簡単に精度よくできて、結果が速やかに出て、コストが安いという吉野家の牛丼ののような検査が求められています。
そこでアメリカ政府は15億ドル(1,607億円くらい)の予算をNIHに配分し、COVID-19の検査に関する提案を中心に広くアイデアを募って出資するプロジェクトをスタートさせました。Rapid Acceleration of Diagnostics(RADx) programと名付けられたこのプロジェクトは下記の4つのInitiativeに分かれています(https://www.nih.gov/…/medical-research-i…/radx/radx-programs)。
①RADx-Tech:医療現場での簡易検査や在宅検査の開発、検証、商業化の加速検査法の改善をめざす(5億ドル)。
②RADx–Advanced Technology Platforms (RADx-ATP) :短期間で迅速なスケールアップや検査場所の拡大と性能アップをめざす(2億3000万ドル)。
②RADx-Radical (RADx-rad) :従来とは異なる新しい(radicalな)アプローチによる診断をめざす(2億ドル)。
③RADx–Underserved Populations (RADx-UP):罹患率と死亡率の格差に関連する要因の理解と感染率や死亡率の高い人々への対策をめざす(5億ドル)。
当然研究費をどのようなプロジェクトにどの程度配分するかという采配が重要になってきます。日本でこのようなプロジェクトを立ち上げると、有名な方々や偉い人のお友達にお金をばらまいて成果は?という結果になりそうですが、そのあたりはNIHですので、それこそマネーの虎に出てくるような鬼のように厳しい審査員の評価をくぐり抜ける必要があるのだと思います。是非良い成果が出てほしいものです。
Tromberg BJ et al., Rapid Scaling Up of Covid-19 Diagnostic Testing in the United States — The NIH RADx Initiative. N Eng J Med July 22, 2020 DOI: 10.1056/NEJMsr2022263