とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

RECOVERY trialのどこがすごいか?

2020-07-18 10:43:41 | 新型コロナウイルス(治療)
 少し前に世界中で大きな話題になったRandomized Evaluation of Covid-19 Therapy (RECOVERY) trialにおけるデキサメサゾンの有効性についての結果がようやくfull articleとしてpublishされました。結果についてはすでにpublishされる前から散々解説されているように、6 mg/dayのデキサメサゾン(経口あるいは静脈内)を10日間(あるいは退院まで)投与した患者では、標準治療のみの患者と比較してランダム化28日後までの死亡率が低く(22.9% vs 25.7%, rate ratio 0.83; 95% CI 0.75 to 0.93; P<0.001)、補助換気を受けている患者ではrate ratio 0.64、酸素投与を受けている患者では0.82と有意に低かったのに対して呼吸補助を受けていない患者では1.19と有意な効果はなかったというものです。他にもいろいろなsecondary outcomeを検討しているのですが省略します。ここではRECOVERY trialのどこがすごいかという点について、私見を述べさせていただきます。
①とにかく大規模:英国のNational Health Service organizationsに所属する176病院を巻き込んで行われた非常に大規模なtrialです。デキサメサゾン群だけで約2000人、標準治療群には約4300人の患者が登録されました(これ以外にもいくつかの群あり)。これは主導したMartin Landrayらのリーダーシップもさることながら、全面的な国のバックアップ、そして臨床研究に対する現場医師の理解に負うところが大きいと思います。日本だとランダム化というだけで「人道的に云々」ということで抵抗を示す医療者が多いので、中々オールジャパンの研究にはなりません。
②研究デザインが優れている:選択基準を読むと、「SARS-CoV-2感染確定あるいは臨床的に疑われる入院患者」という感じで比較的緩やかです。はじめは18歳以上に限定していますが、途中でその限定もはずしていますし、妊娠・授乳患者も入ってよいことになっています。また登録の際の調査、結果の報告についても、webで入力できるのはもちろん、項目数についても現場の臨床医にとって負担が少ないものになっており、それがランダム化後のprimary outcomeが99.9%から得られるというadherenceの良さにつながっていると思われます。また標準治療に加えてlopinavir-ritonavir群、low-dose corticosteroid群、hydroxychloroquine群という群分けについても実地医師にとってあまり抵抗がないものになっています。Remdesivir群がないことを問題視する人もいるようですが、一般の病院で十分な数が確保できないremdesivirを治療群に入れることには無理があります。デキサメサゾンについても経口投与、静脈投与を共に認めていますし、患者登録時に使用できない病院については今回の調査から除外されています。
③それでもきちんとRCTをしている:今回のstudyについては標準治療群とデキサメサゾン群に1:2にランダムに割り付けています。Trial開始時にはサンプルサイズの計算ができなかったのですが、いろいろな臨床データが出てきた後に、28日死亡率を20%とするとデキサメサゾン群で2000人の患者が必要というsteering committeeの意見に従ってデキサメサゾン群は2000人を超えたところで登録を中止しています。また非層別ランダム化であったために両群で平均年齢に1.1歳の差(デキサメサゾン群で高齢)が出たとのことで、70歳未満、70-79歳、80歳以上という層別化を行うという対応をしています。とにかく色々な意味できちんとしています。
 短期間のうちにこのような臨床研究を立ち上げて、しかもしっかりとした結果を出すというのは本当にすごいと思います。残念ながら日本では中々このような研究ができないのですが、今後是非目指すべき目標であると思います。






最新の画像もっと見る

コメントを投稿