とはずがたり

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重症COVID-19においては血中I型インターフェロン濃度が低値である

2020-07-13 23:57:24 | 新型コロナウイルス(疫学他)
COVID-19の際立った特徴として、ほとんど症状を示さない患者がいる一方で、一定の割合で超重症化する人がいることが挙げられます。例えば中国からのICU患者についてのデータでは補助換気要あるいは死亡が6.1%、フランスからの報告では死亡率が0.7%とされています。これまでの臨床報告から、高齢者に重症者が多く、糖尿病や高血圧などの併存症を有する患者では重症化しやすいことが知られていますが、50歳以下の若年層や小児でも重症化する患者がいるのも確かです。したがって今後の治療戦略を考える上で重症化のリスク因子の解明が重要ですし、それによって日本人を含むアジア各国で重症者が少ない理由もわかるかもしれません。
この論文で著者らは様々な重症度の患者について、臨床および生物学的データ、免疫細胞の詳細な表現型解析、全血トランスクリプトーム解析および血中サイトカインなどの統合的な解析を行い、I型インターフェロン(IFN)の低値が重症化マーカーになる可能性を明らかにしました。
対象としたのはCOVID-19患者50人(mild to moderate 15人, severe 17人, critical 18人)および対照群18人です。これまでの報告どおり、リンパ球減少は重症度と相関しており、これは主としてNK細胞を含むすべてのT細胞集団(特にCD8+ T細胞)の減少によるものでした。重症患者ではアポトーシスを起こしているT細胞が多いこともリンパ球減少につながっている可能性があります。
I型IFNはIFN-α, βなどウイルス感染で誘導されるIFNの総称で、
(1)ウイルス複製を抑制することで、細胞のウイルス抵抗性を上昇させる
(2)非感染細胞のMHCクラスI分子の発現を増加させ、NK細胞の攻撃から保護する
(3)NK細胞を活性化させてウイルス感染細胞を除去する
などの抗ウイルス作用を有しています(Wikipediaより)。
著者らは教師無しの主成分分析(principal component analysis, PCA)から、重症患者(principal component 1, PC1)では末梢血において炎症および自然免疫反応に関連した遺伝子発現が上昇しており、軽症から中等症患者(PC2)ではI型、II型IFN反応に関係した遺伝子発現が増加していることを見出しました。通常ウイルス感染によって誘導されるIFN-β mRNA発現は全ての患者で認められず、血清においてもIFN-βは検出されませんでした。また血清INF-α2レベルは重症患者で低値で、重症度と反比例していました。一方血球細胞のIFN-α反応性は重症患者でも低下していませんでした。
血球におけるIL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインのmRNA発現は上昇していませんでしたが、これらの血中濃度は上昇していました。すなわちこれらのサイトカインは、損傷を受けた肺や血管内皮細胞によって産生されると考えられました。
重症患者では血球細胞においてNF-κB経路に関連する遺伝子が上昇しており、これはウイルスRNAなどのpathogen-associated molecular patterns(PAMPs)、そして壊死組織などから放出されるdamage-associated molecular patterns(DAMPs)に対する自然免疫反応によるものと考えられました。
ケモカインなどの挙動から、炎症反応の亢進は好中球や単球などの自然免疫細胞の局所への遊走に関連しており、これがさらに局所のダメージを増悪させると考えられました。
以上のことから、ウイルス感染に伴って通常生じるINF-β誘導の欠如、そして重症患者におけるIFN-α低値、そしてTNF-αやIL-6増加→NF-κB活性化によって生じる炎症反応増悪がCOVID-19患者の特徴であると考えられ、これはインフルエンザウイルス感染などと大きく異なる点です。同様の結果はBenjamin tenOeveらのグループも最近報告していおり(Cell. 2020 May 28;181(5):1036-1045)、SARS-CoV-2は何らかのメカニズムでI型IFN上昇反応を低下させていると考えられます。また併存症の存在や遺伝的要因によってI型IFN反応が低下している可能性もあります。INF-αに対する反応自体は正常な場合が多く、INF-αの血中濃度低下が臨床的重症化に先立つという知見も得られていることから、ウイルス感染に伴うI型IFN上昇反応が弱い患者(重症化が予測される患者)においては、早期のIFN補充が重症化抑制に有用であろうと期待されます。Meredith Wadmanは「感染前に投与するのが最も有効」なんてことを書いてますが(Science 10 Jul 2020:Vol. 369, Issue 6500, pp. 125-126)、副作用や価格を考えればさすがに無理ですよね。。