とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

バイオフィルムにおける細菌の動態解析ーcollective fountain flowー

2020-07-03 22:57:36 | 感染症
「全体とは部分の総和以上のなにかである 」と初めて喝破したのはアリストテレスでした。今だとサバクトビバッタ の方が話題なのかもしれませんが、昔からイナゴは大群になると整然とした群れを形成して集団行動をするようになることが知られていました。同様の現象はV字飛行をして飛ぶ雁やイワシの群れなどにも見られます。バクテリアにおけるバイオフィルム形成もバクテリアの集団行動と考えることができるかもしれません。バイオフィルムは固体や液体の表面に付着した微生物が形成する生物膜であり、整形外科の分野だと、黄色ブドウ球菌がバイオフィルムを形成すると、人工関節感染などにおいて抗菌薬や生体の免疫に対して耐性となるため厄介な存在として知られています。
この論文で著者らはmNeonGreen-mNS (mNG-mNS) fluorescent proteinでラベルしたVibrio Choleraeをdual-view inverted selective plane illumination microscope (diSPIM) というphoto-bleachingを起こしくい顕微鏡を用いて観察し、バイオフィルムを形成する際の個々の細菌の詳細な運動を3次元的に明らかにすることに成功しました。その結果、バイオフィルム形成の際に最近は中央部にとどまって動きが少ない集団と、弾道を描くように外部に広がって行く集団が存在し、あたかも噴水のような流れ(collective fountain flow)が、前者をバイオフィルムの最前線へと輸送していることが示されました。このような動きとバイオフィルムの形状はバイオフィルムを形成する基質と細菌の摩擦力によって規定されます。また基質タンパクであるRbmAが無いと噴水のような動きもなくなることもわかりました。様々な分野に応用できそうな新たなイメージング手法を応用したという点でも興味深く、細菌であることを忘れるような美しい動画が印象的な論文です。

コロナ時代のリウマチ診療

2020-07-03 18:08:59 | 新型コロナウイルス(疫学他)
日本臨床リウマチ学会雑誌に「コロナ時代のリウマチ診療」という総説を書かせていただきました。自分の知識を整理する目的で書いたという面もあります。2カ月ほど前に提出したものなので内容が古くなってしまっている部分もありますが、ご興味のある方はご一読いただければ幸いです。 
こちらからもダウンロード可能です。
http://www.j-cra.com/pdf/32-86.pdf

マウスにおける変形性膝関節症の性差には疼痛が関与している

2020-07-03 06:27:47 | 変形性関節症・軟骨
変形性膝関節症(knee osteoarthritis, KOA)には性差があり、ヒトでは女性の方が頻度が高いことがコホート研究などから明らかになっています(Yoshimura N et al., J Bone Miner Metab. 2009;27(5):620-8)。このような性差は動物にも存在するのですが、興味深いことにマウスKOAモデルではメスのほうが軽症であることが報告されています(Ma H-L et al., Osteoarthritis Cartilage. 2007 Jun;15(6):695-700 )。このような性差がなぜ生じるのかについては明らかになっておらず、単に性ホルモンの違いだけでは説明できないようです。
この論文で著者らはマウスKOAモデルを用いて、メスでは軟骨損傷が軽度であるのに対して、骨棘形成には性差がないことを明らかにしました。彼らはその原因を検討し、
①活動性には差がない ②炎症性サイトカインの発現には差がないが、軟骨修復に関与するBmpr2, Fgf2, Pmepa1などTGF-β依存的に誘導される軟骨修復遺伝子がメスのほうで高い ③メスのほうがOAは軽度であるにもかかわらず疼痛には性差がない ④疼痛に関与する遺伝子glial cell derived neurotrophic factor, neurturin, neurotrophic factors 3, 5などの誘導はメスで高い、ことを明らかにしました。この結果から疼痛関連因子、あるいは疼痛回避行動(および疼痛関連因子による軟骨修復因子の誘導?)がメスのKOAの進行に抑制的に働いている可能性があると結論しています。

IS von Loga et al., Does Pain at an Earlier Stage of Chondropathy Protect Female Mice From Structural Progression After Surgically Induced Osteoarthritis? Arthritis Rheumatol. 2020 Jun 30. doi: 10.1002/art.41421.