とはずがたり

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神経線維腫症1型に対してMEK阻害薬selumetinibが有効

2020-03-21 17:35:18 | 癌・腫瘍
Neurofibromatosis type 1はvon Recklinghausen病の名前で有名ですが、autosomal dominantの遺伝様式をとり、神経線維種(neurofibroma)が多発する疾患です。時として悪性化することがあるので、大きくなったものは切除することも多いのですが、厄介なのは腕神経叢など主要な神経にできた腫瘍や脊椎近傍に出現した場合などは切除不能なこともあり、巨大になってくると高度な骨破壊をきたすなど、かなり厄介な疾患です。原因遺伝子であるneurofibromin(NF1)はsmall G proteinであるRAS遺伝子のGTPase-activating protein であり、RAS-MAP kinase系を抑制する分子であり、NF1患者ではNF1遺伝子の変異によってRAS-MAP kinaseの恒常活性化が生じることが疾患の原因と考えられています。アメリカNational Cancer InstituteのWidemannらは、以前のphase 1 trilaにおいて手術不能なNF1症例に対してMEK阻害薬selumetinibが有効である可能性を報告しています(Dombi et al., N Engl J Med. 2016 Dec 29;375(26):2550-2560)。本論文はこれに続くphase II trialであり、selumetinibの重篤な神経線維種である叢状神経線維種(plexiform neurofibroma)症例に対する臨床的な有用性を検証したものです。
臨床的にNF1の診断を受けている2歳から18歳までの症例で、切除不能な叢状神経線維種のある患者を対象にしました。本論文で対象にしたのは腫瘍による合併症が1つ以上ある症例です。Selumetinibは25 mg/体表面積で12時間ごとに内服し、28日間を1サイクルにしています。組み入れ時において進行症例については、腫瘍が進行しない限りは内服を継続することを許容し、進行していない症例については最長2年までの継続を認めています。効果判定はMRIを用いた腫瘍体積測定、そしてNumerical Rating Scale(NRS)-11などの臨床指標やPROを用いています。
トータル50例(年齢中央値10.2歳、3.5-17.4歳)が研究に組み入れられ、42%は進行例でした。70%でpartial response、56%は1年以上継続する効果が見られました。腫瘍体積変化の中央値は-27.9%(-55.1%~+2.2%)、3年間のprogression-free survivalは84%でした(age-matchした対象群では15%)。また様々な臨床指標にも改善が見られ、56%の症例で筋力の改善、38%で関節可動域の改善が見られました。5例はselumetinibに関連すると考えられる有害事象のため投与中止、6例では進行が見られました。
本研究は、これまで有効な治療法がなかった切除不能の叢状神経線維種に対する治療手段を提示したという点で画期的な成果だと思います。Selumetinibはアメリカで2019年11月14日に症候性・手術不能な叢状神経線維腫治療薬として申請されており(https://medical.jiji.com/prtimes/7617)、日本でも早期の承認が期待されます。
N Engl J Med. 2020 Mar 18. doi: 10.1056/NEJMoa1912735. [Epub ahead of print]
Selumetinib in Children with Inoperable Plexiform Neurofibromas.


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