とはずがたり

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滑膜肉腫治療法開発に対する新たなアプローチ

2021-01-28 12:56:05 | 癌・腫瘍
骨軟部悪性腫瘍は癌と比べればきわめて頻度が少ないため、癌で行われているようなゲノム情報の蓄積を困難にしています。滑膜肉腫は悪性軟部肉腫の10~20%を占める腫瘍ですが、化学療法やチェックポイント阻害薬などの免疫療法に抵抗性を示すことが多く、予後が悪いことが知られています。またcancer-testis antigens (CTAs)の発現がみられ、これは患者のT細胞によって認識されるのですが、腫瘍自体にはT細胞の浸潤がきわめて低いことが知られています。このことが免疫療法が無効である原因と考えられていますが、そのメカニズムはよくわかっていません。ほとんどの症例で18 番染色体上の SS18 (synovial sarcoma translocation, chromosome 18)遺伝子と X 染色体上の SSX (synovial sarcoma X chromosome breakpoint)遺伝子の転座 t(X; 18)(p11.2; q11.2)が見られ、キメラタンパクSS18-SSXを有するのが特色です。この論文で著者らは12例の滑膜肉腫のsingle cell RNA-sequencing (scRNA-seq)や免疫染色、in situの遺伝子発現プロファイリングなどによって、SS18-SSXが直接的、間接的に細胞周期関連遺伝子を制御し、core oncogenic program遺伝子の発現誘導を介して(多分)T細胞浸潤を抑制していることが示されました。またマクロファージやT細胞が産生するサイトカイン(TNF-α, IFN-γ)が腫瘍に対して抑制的に作用し、HDAC, CDK4/CDK6阻害薬と併用することでT細胞に対する感受性を増加させ、殺腫瘍効果を有することが明らかになりました。
scRNA-seqやin situ遺伝子発現プロファイリングなど、稀少癌に対する研究アプローチを考える上で興味深い研究です。予後が大変悪い腫瘍ですので、このような研究が新たな治療薬開発に繋がれば良いなと思います。
Jerby-Arnon, L., Neftel, C., Shore, M.E. et al. Opposing immune and genetic mechanisms shape oncogenic programs in synovial sarcoma. Nat Med (2021). https://doi.org/10.1038/s41591-020-01212-6


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