とはずがたり

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COVID-19 Global Rheumatology Allianceに登録された600名のデータ

2020-06-02 23:48:51 | 免疫・リウマチ
COVID-19に感染したリウマチ性疾患患者のレジストリーであるCOVID-19 Global Rheumatology Alliance (C19-GRA)から600名の患者に関するデータが発表されました。C19-GRAは2名の患者も入って構築されたregistryであり、ヨーロッパとアメリカの2カ所のportalから患者を登録します。COVID-19の診断はPCRに加えて抗体検査、ゲノム検査、CT、血液検査、臨床症状のみ、などによって行われました。背景因子としては年齢、性別、喫煙状態、リウマチ性疾患の診断、疾患活動性、併存症などが登録されました。COVID-19感染前に使用していた薬剤はconventional synthetic disease-modifying antirheumatic drugs (csDMARD), biological DMARDs (bDMARDs), targeted synthetic DMARDs (tsDMARDs)に分類されました。Primary outcomeはCOVID-19による入院、入院に関与する因子は多変量解析で明らかにしました。
(結果)600名の登録患者のうち57%は北アメリカから、36%がヨーロッパからで、アジアの症例は5名未満でした。女性が71%で年齢は65歳より上が28%、50-65歳が38%、30-49歳が28%、18-29歳が5%でした。リウマチ性疾患としては関節リウマチ38%、SLE14%、PsA12%、SpA8%、血管炎7%、シェーグレン5%、他の炎症性関節炎4%、その他としては炎症性筋炎、痛風、全身性強皮症、PMR、サルコイドーシスなどです。併存症としては高血圧33%、肺疾患21%、糖尿病12%、心血管疾患11%、慢性腎疾不全や末期腎不全が7%で肺疾患が多いのが特徴です。非喫煙者(never smoker)が75%でした。妊娠患者も5名(1%)登録されました。
277人(46%)が入院、55名(9%)が死亡しました。COVID-19の診断はPCRによるものが73%で、推定感染患者も52名(9%)いました。非入院患者と比較して入院患者で多かったのは、65歳超(adjusted OR; 2.56, p<0.01)、併存症としての高血圧あるいは心血管疾患(adjusted OR; 1.86, p<0.01)、肺疾患(adjusted OR; 2.48, p<0.01)、糖尿病(adjusted OR; 2.61, p<0.01)、慢性腎疾患/末期腎不全(adjusted OR; 3.02, p=0.02)、喫煙歴は調整すると有意差はなく、リウマチ性疾患による有意差はありませんでした。感染前の使用薬物としては①DMARD非使用と比較してcsDMARDのみ使用(adjusted OR; 1.23, p=0.48)、b/tsDMARDsのみ(adjusted OR; 0.46 p=0.03)、csDMARD+b/tsDMARD(adjusted OR; 0.74 p=0.38)②NSAIDs(adjusted OR; 0.64 p=0.08)と有意差なし、④ステロイドについては非使用と比較してPSL換算で1-9 mg/day(adjusted OR; 1.03, p=0.91)、10 mg/day以上(adjusted OR; 2.05, p=0.03)でした。
抗TNF製剤で治療を受けている患者は性別、年齢、リウマチ性疾患、喫煙、併存症、抗TNF薬以外の使用薬剤、併用療法、NSAID使用, ステロイド使用量などを調整しても有意に入院患者が少ないことがわかりました(OR=0.40, 95% CI 0.19 to 0.81, p=0.01)。抗IL-6製剤など他のbDMARD, tsDMARDについては数が少なく、明らかな差は示されませんでした。この結果から先行して、「抗TNF製剤で治療を受けている患者では入院が少ない」という情報がネットに流れました。しかし注意すべきは、少なかったのは「抗TNF製剤単独使用」患者であり、csDMARD+b/tsDMARD併用群では有意差がなかったという点です。このような患者は56例(b/tsDMARD単独使用患者は全体107例のうち52%) ですが、どのような理由で単独使用になったのかは記載がありません。
国際レジストリーデータをまとまった形で報告したという点で大いに評価すべきかとは思いますが、このデータをもって「抗TNF製剤で治療を受けている患者ではCOVID-19入院が少ない」という情報を流すのはミスリーディングだと思います。また46%が入院で9%が死亡というのは一般患者に比べるとやや多い気もしますが、これも年齢や併存症を調整して比較する必要がありそうです。いずれにしても今後レジストリー患者数が増え、背景因子などの調整も十分できるようになればもう少し詳細な情報がわかると思いますし、レジストリーから予想されたことを前向きに検証する必要があると思います。
Characteristics Associated With Hospitalisation for COVID-19 in People With Rheumatic Disease: Data From the COVID-19 Global Rheumatology Alliance Physician-Reported Registry
Milena Gianfrancesco et al., Ann Rheum Dis. 2020 May 29;annrheumdis-2020-217871. 


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