とはずがたり

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医療崩壊を防ぐために

2020-04-18 12:01:57 | 新型コロナウイルス(疫学他)
日本医師会の横倉会長も「医療危機的状況宣言」を発表されたり、COVID-19疑いの患者さんが100以上の病院に受け入れを断られたりなど、日本でも医療崩壊が間近なのではないか、という不安感が高まっています。しかし冷静に海外データなどと比較すれば、日本の①陽性患者数も、②COVID-19患者の死亡数も、③case-fatality rate(死亡数/陽性患者数)も欧米などと比べると驚くほど低いことが分かります。米国は話にならないくらいダメなので、Oxford大学が運営しているCoronavirus Disease (COVID-19) – Statistics and Researchというサイトの公開データを用いてドイツ(独)、イギリス(英)、イタリア(伊)と比較してみます(https://ourworldindata.org/coronavirus )。例えば2020年4月17日時点における
①患者数:独133830人、英103093人、伊168941人、日9167人
②死亡者数:独3868人、英13729人、伊22172人、日148人
③Case-fatality rate(CFR):独2.89%、英13.32%、伊13.12%、日1.61%
ちなみに米国の数字はそれぞれ671331人、33284人、4.96%です。
実は中国を除く、日本を含めたアジア各国(韓国、台湾、タイ、シンガポールなど)では日本と同様、良好な数字が得られています(例えばCFRはそれぞれ2.16%, 1.52%, 1.74%, 0.23%)。CFRは検査数が多くなって軽症例を多く拾い上げるほど低くなります。日本では検査を絞っていた3月ころはCFRが3.76%(3月23日)と高かったのですが、検査数が増えてから一気に低下し、今では韓国より低く、台湾なみとなっています。シンガポールの低さが目立ちますが、これらのアジア各国の数字はおおむね良好と言ってよいと思います。累積死亡数とCFRの各国比較は図を添付しておきます。アジアで死亡者が少ない真の理由はわかりませんが、ひょっとするとウイルスに対する感受性が異なるのかもしれません。今後SNPsなどのデータが出てくればはっきりするのではないかと思います。
さてそれでは「日本は医療崩壊寸前だ」という意見は危機をあおりすぎているのでしょうか。まぁ欧米の状況を見ると「その状態で医療崩壊なんて100年早い」と言われそうですが、理由がないわけではありません。欧米の例を見ると、医療崩壊が生じる理由にはいくつかあると考えられます。
1) 急激な患者増により多数の患者が一度に病院に押し寄せる
2) これによって病床が軽症者で埋まってしまい重症者が入院できなくなる
3) 医療資源(PPE, 人工呼吸器など)が枯渇する
4) 適切な感染防御ができず医療従事者が感染して離脱する
5) 患者の治療に支障が生じる(医療崩壊)
これに加えて、例えばイタリアでは高齢化率が高いことが知られていますし(2018年の段階で65歳以上が23.3%。ちなみに日本は28.1%)、アメリカでは無保険者が1/6いるとされており、普通にCOVID-19の診断、治療を受けると数百万円がかかってしまうため、かなり重症になるまで受診しません。このうち日本では当てはまらない点もありますし(無保険者など)、高齢者が多いのはどうしようもないので、日本における問題と解決策を考えると、
1) 今後患者数が急増すると死亡者が急増するかもしれない(とはいえ米国は671331人ですから格が違いますが)
→可能性としてはありますが、現在のペースでの患者増には十分耐えうると思います。またある程度軽症の段階で見つけて、個々のレベルにあわせた適切な治療をすることで対応可能であると思いますので、自粛レベルを引き上げることには反対です。早期診断には、できればインフルエンザくらい簡便にできるような検査キットの開発が急務です。ワクチンの開発はまだまだ先だと思いますし、たとえできたとしても全員に投与できるわけでも、また100%感染が予防できるわけではないので、私はそれほど期待していません。一方で治療薬については現在世界のサイエンスを結集して開発に取り組んでいるので、いずれは完全に感染を抑制する薬剤が出てくると思います。今のところ最も期待がもてるのはremdesivirです。
2) PPEなどの医療資源はすでに不足気味、補助呼吸もどうなるか。
→これについては政府に頑張ってもらうしかありません。PPEは重症患者を診ている病院に優先的にまわしていただきたいです。
3) 医療従事者の感染が増加する
→2)とも関連しますが、感染防御をしっかりするということにつきます。とはいえすべての医療従事者にN95マスクが必要なわけではなく、通常診療であれば感染者であっても双方のマスク着用でほとんどの感染は防げると思います。また汚染されたと考えられる場所は、適切な清拭(消毒)が重要です(次亜塩素酸ナトリウムが有用とされています)。
4) COVID-19「疑い」例のフローがはっきりしていない
→これが患者受け入れを難しくしている大きな原因と考えます。東京都医師会が発表したPCRセンター設立などによって、かかりつけ医がCOVID-19を疑う→PCRセンターに紹介→陰性なら通常の治療、陽性なら症状に応じてしかるべき医療機関に紹介、軽症であれば自宅待機・経過観察も可、というようなフローが確立されれば大きく改善する可能性があります。
上記のような対策によって日本における崩壊は十分に防ぐことが可能です。何よりも今にも医療が崩壊するかのごとくに喧伝するマスコミ、きちんとデータを見ていないとしか思えない専門家と称する方々には猛省を促したいと思います。
今回の新型コロナウイルス禍によって、日本の医療体制の問題点(ICU病床不足、医療資源の不足など)が浮き彫りになってきたことはケガの功名だったのではないかと思います。このような問題点を克服することによって、ポストコロナの日本医療はさらに力強くなっていくと思います。 
累積死亡数
Case-fatality rate



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