とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

新型コロナウイルスは鼻腔から感染する

2020-05-31 12:28:51 | 新型コロナウイルス(疫学他)
新型コロナウイルス感染症の大きな謎の一つは多くの患者では無症状、あるいは軽い症状で治癒するにもかかわらず、一部患者では重症な肺炎を発症し、場合によっては致死的になることです。感染重症化のメカニズムおよびその対処法が明らかになれば、ウイルスの怖さも少し緩和されると思います。
Wölfelらは9名のCOVID-19入院患者から得られたウイルスゲノムを詳細に解析することによって、ウイルスが感染初期に咽頭で活発に複製することを明らかにしています(https://www.nature.com/articles/s41586-020-2196-x#citeas)。1例の肺炎症例では肺とは全く独立して咽頭で複製していました(2つに異なった変異が見られた)。またウイルスのsubgenomic mRNAsを調べることで、活性のあるウイルスを検出していますが、咽頭や喀痰とは異なり、便中にはウイルスRNAが検出されるものの、ほとんど活性がないことも示しています。この結果から彼らはウイルスは主として上気道で増殖すると結論しています。
下に示したHouらの論文では、SARS-CoV-2ウイルスにGFPやGFP-fused nanoluciferase (nLuc) geneを組み込んでウイルスの複製の検出を容易に可視化、定量化できるようにしたrecombinant virusを作成しました。このウイルスを用いて様々な細胞における感染性や複製能を示しています。結果としては上気道、特に鼻腔上皮細胞にSARS-CoV-2は感染・複製しやすいことが示されました。感染性はACE2の発現パターンと概ね一致していましたが、主たる分泌細胞であるMUC5B club細胞はACE2, TMPRSS2を発現しているにも関わらず感染が見られなかったため、ACE2の発現のみでは説明できない部分もありそうです。彼らはウイルスを感染させたVero細胞を用いて、患者血清のウイルス中和能を定量することにも成功しており、COVID-19患者血清にも中和活性にばらつきがあること、SARSウイルス患者の血清の一部は弱いながら中和活性を有していることも明らかにしました。これは抗体や低分子のスクリーニング系としても有用そうです。
以上の結果から著者らは、ウイルス感染は主として鼻腔への感染→口腔内→気道→肺という経路をたどり、直接エアロゾルから肺に感染する可能性は低いのではないかと結論しています。
ということでシンクロナイズドスイミングで使用するノーズクリップが感染予防グッズとして流行することは間違いありません(?)。 
Hou YJ et al., CELL https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.05.042 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿