とはずがたり

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英国でTocilizumab, SarilumabがCOVID-19に承認された

2021-01-09 23:35:47 | 新型コロナウイルス(治療)
最近のニュースで少し意外だったのはtocilizumab, sarilumabという抗IL-6受容体抗体がCOVID-19患者の死亡率を低下させ、英国で治療薬として承認されそうだ(された?)というものです (1)。これまで、いくつかの観察研究ではCOVID-19に対するIL-6阻害療法の有効性を示す結果が報告されていましたが、Bostonの7病院で行われたRCT(BACC Bay Tocilizumab trial)では挿管または死亡率に差はなく(入院28日後までのhazard ratioは0.83, 95% CI 0.38 to 1.81; P=0.64) (2)、それ以外にもCOVACTA trial (3), RCT-TCZ-COVID-19 trial (4), CORIMUNO-TOCI-1 trial (5)などのRCTで、やはり死亡率や重症化率に有意差がないことが報告されており、がっかりしていました。最近NEJMに掲載されたEMPACTA trial (5)では、primary outcomeである「28日後の死亡あるいは人工呼吸器装着率」はtocilizumab投与患者で有意な改善が見られましたが(tocilizumab vs placebo; 12.0% vs 19.3%, P=0.04)、死亡率だけを見ると有意差がないとの結果でした(10.4% vs 8.6%, weighted difference 2.0%, 95% CI -5.2 to 7.8)。
今回の英国における承認の報道はpreprintとしてmedRxivに報告されたREMAP-CAP trial (7)の結果を受けてのことのようです。この試験では、353名をtocilizumab, 48名をsarilumab, 402名をプラセボ群に割り付けて人工呼吸器やECMOが必要になるまでの日数、死亡率などを検討し、介入群で有意に良好であるという結果でした(21日目までの死亡率はtocilizumab, sarilumab, placebo群それぞれで28.0%, 22.2%, 35.8%)。これらのtrialの結果の違いがどのような理由なのかはわかりませんが、組み入れ患者の重症度に違いはあるようです。BACC Bay Tocilizumab trialとEMPACTAではbaselineの重症度が異なっており(後者の方が重症患者を多く含む)、今回のREMAP-CAPでは組み入れ患者の3割程度が人工呼吸器装着患者ということで、重症例を多くふくんでいるようです。治療の選択肢が増えることは結構なことですが、REMAP-CAPはpreprintの段階ですし、タイトルに"Preliminary report"とあるように、まだ内容については精査が必要な気がします。ワクチンの超早期承認の時もそう思ったのですが、COVID-19流行早期の失敗に懲りてのことか、英国はやや前のめり過ぎる(焦りすぎている?)ように見えるのは気のせいでしょうか。
1) Arthritis drug tocilizumab cuts Covid death risk by a quarter | News | The Times
2) Stone et al., N Engl J Med 2020;383:2333-2344.
3) Rosas et al., https://www.medrxiv.org/con.../10.1101/2020.08.27.20183442v2.  preprint
4) Salvarani et al., JAMA Intern Med. 2021 Jan 1;181(1):24-31.
5) Hermine et al., JAMA Intern Med. 2021 Jan 1;181(1):32-40.
6) Salama et al., N Engl J Med. 2021 Jan 7;384(1):20-30
7) The REMAP-CAP Investigators. https://doi.org/10.1101/2021.01.07.21249390. preprint


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