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中国迷爺爺の日記

中国好き独居老人の折々の思い

あぶ玉

2008-05-17 21:33:16 | 身辺雑記
 私はいわゆるグルメ(食通)とは程遠いが、食べ物や料理のことを見たり聞いたりするのは好きだ。テレビで各地の味覚に関する番組を見ると引き込まれるし、新聞や雑誌の料理の記事も好きだ。料理の記事を読んだりすると作ってみたくなることもある。妻がいた頃には何かと手の込んだものを手掛けたこともあったが、独りになるとそのような意欲は減退して、ただ機械的に食事の用意をするだけになった。それでも時折、簡単でうまそうな料理の記事を見ると、急に火がついたように作ることもあるが、手の込んだものは敬遠する。

 篠田鉱造(1871~1965)という人が書いた『明治百話』(岩波文庫)という本がある。幕末から明治時代を生きたさまざまな人の話を聞き書きしてまとめたもので、読んでいるとなかなか面白い。その中のひとつに吉原や新橋などの色街で芸妓をしてきた老女から聴いた話があり、そこに次のような一節がある。

 ・・・あぶ玉も思い出しますね。震災後すっぽんやを出した時、お客様が来て下さっても、その内ですっぽんの嫌いな人があるんで、じゃア油玉(あぶらたま)をこしらえてあげましょうかてんで、ア、こしらえておくれと被仰(おっしゃ)いますから、油揚をゆがいて油をぬき、薄く短冊に切って、みりんとおしたじで煮た上へ、玉子をかけてブクブクいっているのを喰べるんです・・・

 これを読むと、この「あぶ玉」なるものが急に食べたくなり、簡単なので作ってみた。食べてみると非常に美味というほどのこともないが結構いけるので、これは時々作ってみようと思う。



 もっともこの「あぶ玉」は、同じ著者の『幕末百話』では、「アブタマ」という項に「(吉原の)大門口に播磨屋というアブタマがあって、豆腐が拍子木に揚げてあるんで・・・」とある。話し手の記憶が曖昧なのか、別のものを同じように呼んでいたのかは分からないが、作った本人の記憶のほうが正確だろうと思っている。