午前5時30分のひと

    
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

まだ辺りが薄暗い朝、ぼうーっと白い影がゆっくりゆっくりと移動して行きます。
足をそっと滑らせるように、
地面を確かめるように、一歩一歩。
とても歩みはのろい。
白いコートを着た、少し大柄なその年配の女性は、
片手に杖をついて、
ザアザア降りの雨の日も、風の強い日も休みなく現れるーー、
ある朝、その光景を目にしてから、
台所仕事の手をとめて、そっと窓から眺めては、
「がんばれ！　がんばれ」
ひそかに応援している。

たぶんこの時間に明かりのついている
道に面した集合住宅の窓のいくつかからも、
エールを送っている人がいるに違いない。

「まだ来ない？」
いつの間にか夫も待つようになった。
その姿を確かめ、安心したように、自分の机に向かう。

「応援していますよ」
お名前もお顔も知らない方だけど。

ーーーー励まされているのは、私たちかもしれない。

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