黒沢永紀オフィシャルブログ(旧・廃墟徒然草)

産業遺産と建築、廃墟、時空旅行、都市のほころびや不思議な景観、ノスタルジックな街角など、歴史的“感考”地を読み解く

廃墟のすゝめ 02

2008-12-19 04:35:08 | コラム:廃墟のすゝめ
この記事は2008年12月14日に、
東京カルチャーカルチャー@お台場で行ったイベント
軍艦島ナイト』で話したことを中心に、
廃墟ってなんだろ?を改めて考えてみようと思い、
アップしています。

◆廃墟と写真 2◆

昨日アップした記事の最後に取り上げたベッヒャー夫妻はドイツの写真家ですが、
ドイツの廃墟写真で思い出すのは、
Dead Tech: A Guide to the Archeology of Tomorrow』(Manfred Hamm)です。


『Dead Tech: A Guide to the Archeology of Tomorrow』Manfred Hamm

崩壊する桟橋、廃炉にされた航空母艦、廃棄された石炭および製鉄所など、
やはり冷徹なドイツを感じる眼差しで切り取られた廃墟ですが、
これらは産業中心主義だったヨーロッパの没落を暗示しているようでもあります。
出版されたのは1981年ですが、ちょうどアメリカで
ニューエイジの活動が盛んに行われるようになる時代と呼応しているのも、
また面白い事だと思います。

80年代のアメリカと言えば、この写真集も忘れられません。
Violent Legacies: Three Cantos』(Richard Misrach)。


『Violent Legacies: Three Cantos』Richard Misrach

アメリカ南部カントスの砂漠で行われた水爆実験の跡や、
キャトルミュ-テーションなどをテーマに撮影された写真は、
上記デッドテック同様資本主義の没落を表しているようにも見えますが、
この人は本来ジョエル・マイロウィッツの系譜を継ぐ、
アメリカン・ニュー・カラー系の写真家なので、
結局は色遊びの一環としての廃墟写真だったのかとも思ったりします。
それでもその質感は素晴らしいですね。

80年代と言えば、80年代の終わり頃に出版された、
建築の黙示録』(宮本隆司)


『建築の黙示録』宮本隆司

は、当時衝撃を受けたのを思い出します。
90年代の静かな廃墟ブームの火付け役にもなったこの写真集に写る廃墟は
全て解体途上の廃墟でした。
中野刑務所、筑波博、ドイツの劇場跡などの解体現場を、
そこに舞う埃の粒まで写し込んだ写真は、
ちょうどバブルが崩壊し、
建設の途中で頓挫した建物や解体が途中でストップした建物が散見した、
そういった時代背景を表した写真集だったと思います。
宮本隆司はこの他に九龍城やアンコール・トム、
そしてホームレスの段ボールハウスだけを撮影した写真集なども出していて、
写真家としては一貫して廃墟にこだわった珍しい人かもしれません。

そもそも写真がこの世に生まれた150年位前、
被写体としてローマの廃墟が盛んに撮影されたと聞いた事があります。
もともと廃墟と写真は極めて相性がいいのかもしれませんが、
それは、廃墟の情報量の多さによるんじゃないかと思います。
同じ壁でも、新品の壁と廃墟の壁とでは、
圧倒的にその情報量が異なります。
写真は時間を止め、その細部に到るまで克明に記録する事で、
廃墟の特性をより強調できるんではないかと思います。

また写真は死のメディアともよく言われます。
そういったあたりも、死を象徴する廃墟には
相性が抜群なのかもしれませんね。



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