黒沢永紀オフィシャルブログ(旧・廃墟徒然草)

産業遺産と建築、廃墟、時空旅行、都市のほころびや不思議な景観、ノスタルジックな街角など、歴史的“感考”地を読み解く

足尾銅山 #08 本山地区

2012-11-09 17:28:12 | 産業遺産
8月の頭にブログでご案内した、
足尾銅山の写真家、橋本康夫氏の追悼写真展に、
会期の最後となる9月末に訪た時の足尾銅山のリポート。

足尾銅山・本山鉱山神社
足尾銅山・本山鉱山神社

前回アップした本山坑(有木坑)の道向かいには、
本山鉱山神社へ通じる道があるが、
道も路傍も、鬱蒼と茂る草に覆われ、
あまり人が訪れていないことがわかる。
鳥居はあるが、扁額がなく、
すでに神社の役割を終えていることを物語っている。





足尾銅山・本山鉱山神社近辺
足尾銅山・本山鉱山神社近辺

神社へ通じる道の途中には、
かつて職員の社宅があったようだが、
今はその痕跡が残るばかりで、
往年の賑わいを感じることはできない。





足尾銅山・職員家族浴場
足尾銅山・職員家族浴場

唯一、草むらの中に残る職員家族浴場の浴槽の跡が、
かつてここに人が住んでいたことを今に伝えている。
楕円形の大小の浴槽が2つ並んでいた。
恐らく大きい方が女性用で小さい方が男性用だろう。
以前アップした、小滝の浴槽よりはゆっくり入れそうだが、
それでも池島の記事で触れた浴槽よりは遥かに狭く、
ゆっくり入る感じでなかったと想像出来る。





足尾銅山・本山鉱山神社近辺
足尾銅山・本山鉱山神社近辺

奥へ進むと、
規模の大きめな建物の廃墟が一軒だけあったが、
往年の姿を想像するには、崩れすぎている。
この建物を越えて先に進み、
沢の小橋を渡った先の丘の上に神社はあるようだが、
既に橋はなく、また次の撮影の予定もあるので、
社殿の見学は次回へ見送ることにした。





足尾銅山・本山動力所
足尾銅山・本山動力所

神社へ通じる道を戻り、本山坑に隣接する道を東へ進むと、
道沿いに動力所や変電所が建ち並んでいる。
この傾いた建物は、本山動力所と呼ばれる、
削岩機の動力源である圧縮空気を作り出す施設。
ここまで傾きながらもよく持ちこたえていると思うも、
木造なため、その崩壊は時間の問題かもしれない。





足尾銅山・コンプレッサー
足尾銅山・コンプレッサー

動力所の中には今も大正3年(1914)に設置された、
ドイツ製のコンプレッサー「インガーソルランドPE-2」が、
静かに眠っている。
重油の香りを伴った黒光りする鉄の塊は、
堂々とした産業遺産の風格を漂わせていた。





足尾銅山・製錬所
足尾銅山・製錬所

更に東へ進むと、足尾銅山最大の施設の一つ、
本山製錬所がある。
製錬所は既にその多くの施設が解体され、
その全貌はもはやかつての写真などでしか知ることができない。
やはり時間がなく、製錬所の見学も次回の楽しみとなったが、
入口ゲート付近に建つ精鉱庫の壁面には、
以前の通洞の記事でも触れた、
戦中に塗られた迷彩塗装の跡がはっきりと残っていた。
この建物は細長い形をしているが、
昭和30年(1955)の写真を見ると、
建物の中央部分約1/3は完全に塗りつぶされ、
いわばのり巻きせんべいの様な状態が写っている。





足尾銅山・古河橋
足尾銅山・古河橋

精鉱庫の横には、
明治23年(1890)に架けられた古河橋が今も残っている。
竣工してほどなく、
国内初の実用電気鉄道を敷設したそうだが、
現在は木製床の歩道橋として使われている。
バランスのいいトラスと雰囲気のある木製の床面は、
感動すら覚える美しさだ。





足尾銅山・砂防ダム
足尾銅山・砂防ダム

製錬所から北へ行くと、
やがて足尾砂防ダムへと通じる。
仁田元沢、松木沢、久蔵沢の3河川が交わり、
(記事最下部の地図参照)
ひとたび大雨が降ると、濁流が集中し、
渡良瀬川は大氾濫をおこしたので、
その対策として明治時代に作られたダム。





足尾銅山・松木地域
足尾銅山・松木地域

この日は秋の初めの渇水期だったせいか、
ダムの上流には殆ど水が溜まることは無く、
3河川の川の流れだけだった。
中央に写る土が露出した嶺は、
手前を流れる久蔵沢と奥を流れる松木沢をわかつ嶺。
画像のほぼ中央奥の、山肌が剥げているあたりが松木村。
かつて製錬所が操業していた頃、
その排煙はおもに上流の川の谷にそって遡上し、
特に松木沢の谷間沿いには甚大な被害をもたらしたという。

かつては付近一帯のすべての山が、
排煙によって禿げ山と化していた足尾だが、
閉山後の緑化が功を奏して、
現在では殆どの山々に緑が戻って来ている。

しかしその中で、松木地域だけは、
今も禿げ山の痕跡が残り、
かつての排煙被害を今に伝えている。

googlemap有木坑

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