ガラス張りのエレベーターは
屋上へ向かって昇っていく
他のボタンは押されていない
僅かな作動音が、瞼を重くする
顔面の片側が熱い
周囲に林立するガラスの塔たちが
西陽を互いに刺し合って
悲鳴が
乾いたシャワーとなって落ちてくる
泣き続ける赤ん坊をあやす父親
飴玉を嘗めるように自分の舌を動かし続ける老人
長い髪をゆすって バッグの中身をかき回している女
天井を見つめ瞬きを繰り返す小学生
私と
偶然 乗り合わせた 見知らぬ あなたたち
背後のガラスにもたれ 猫背ぎみに立つ私 と
違う地層に立つ あなたたち
透けていく心象
思い出か、夢なのか
キューブに閉じ込められた残光に
人の影が浮いている
誰にも属することができないまま
70億枚
ペラペラと
境目の無い記憶が
その影に絡みつき
水草のように 漂っている
私
あなたたち
1マイクロの断崖
あのとき、
いや、あのとき・・・
多重にも重なる いくつもの後悔
落ちて
落ちていく
「そうか、こういうことだったのか・・・」
あたかも、答えは出現するが
侵食された心意に到達することはない
そして
躊躇なく
まっさかさまに
私は
あなたたちは
落ちて
落ちて
落ちていく
落ちて
落ちて
落ちながら
昇っていく
行先ボタンが
他にない