(フォトは月刊文芸春秋より)
もう23年も前の事となってしまった。
その日、仕事から自宅に帰った私はテレビの前でフリーズした。
逸見政孝さんが緊張の面持ちで話していた。「私はがんです。」私の脳裏ではそうなっていたのだが、
正確には
「本当の事を申し上げます……私が今、侵されている病気の名前、病名は、がんです」だったらしい。
なぜ鮮明に覚えているかと言えば、執刀医が当時、神の手と言われた羽生教授だったからである。
将棋の羽生善治さんがA級8段に昇った年だったのだ。まさに日の出の勢いだった。
同姓の羽生教授ならば、あわよくば治ってしまう……との希望と期待が、逸見さん本人にも、
その時、テレビを見た聴衆にもあったに違いなかった。
私はこの瞬間は日本のその後に大きな影響を与えているし、
NHKのアナザーストーリーズで大きく取り上げられても、おかしくないと思っているのだ。