goo blog サービス終了のお知らせ 

好事家の世迷言。(初代)

※はてなブログ『好事家の世迷言。(続)』へ移転計画中。

調べたがり屋の生存報告です。

星新一ショートショート再読。(その29)

2023-01-14 | 星新一ショートショート
『追い越し』
新潮文庫、番号29、『ボッコちゃん』収録。

星新一氏は、世が世ならホラー作家にもなれたかもしれない。
そんな空想さえ抱きそうになるのがこの話。

前半は、よくある痴情のもつれ。
男が女を弄び、女は男を恨んで自殺する。
が、女はその直前、必ず再会してやると予言する。

後半、罪の意識を持ち始めていた男の所に、女が予言通りに現れる。
恐怖にかられた男は、結果として死ぬ。
高速道路での、このくだりの表現力

ここで終われば、物語はホラーとして完結する。
実際、人生の終わってしまった男にとっては間違いない。

無論、それで終わらないのが星作品。
種明かしを読んで、こちら読者は納得する。思わず笑ってしまうかもしれない。

だが、そもそも男の前に女が現れる事が出来た事自体、大いなる偶然なのだ。
やはり、女の情念が、この交通事故を引き起こしたのではないかと考え直した時、改めて背筋が寒くなる。
一つの話で、二度三度と異なる趣を味わえる、興味深い作品だ。

それでは。また次回。