『追い越し』
新潮文庫、番号29、『ボッコちゃん』収録。
星新一氏は、世が世ならホラー作家にもなれたかもしれない。
そんな空想さえ抱きそうになるのがこの話。
前半は、よくある痴情のもつれ。
男が女を弄び、女は男を恨んで自殺する。
が、女はその直前、必ず再会してやると予言する。
後半、罪の意識を持ち始めていた男の所に、女が予言通りに現れる。
恐怖にかられた男は、結果として死ぬ。
高速道路での、このくだりの表現力
ここで終われば、物語はホラーとして完結する。
実際、人生の終わってしまった男にとっては間違いない。
無論、それで終わらないのが星作品。
種明かしを読んで、こちら読者は納得する。思わず笑ってしまうかもしれない。
だが、そもそも男の前に女が現れる事が出来た事自体、大いなる偶然なのだ。
やはり、女の情念が、この交通事故を引き起こしたのではないかと考え直した時、改めて背筋が寒くなる。
一つの話で、二度三度と異なる趣を味わえる、興味深い作品だ。
それでは。また次回。