9日、欧州議会選の候補者に投票するルーマニア市民=AP
【ブリュッセル=辻隆史、パリ=北松円香】
6〜9日に実施された欧州議会選(定数720)で、極右や右派など欧州連合(EU)に懐疑的な勢力が伸長する見通しとなった。フランスやオーストリアなどで国内第1党になったもようだ。
マクロン仏大統領は選挙結果を受け、仏国民議会(下院)の解散を表明した。
欧州議会が各国のデータを踏まえて9日夜に公表した議席獲得予測によると、極右を含めてEU統合の理念に懐疑的で、EU主導の野心的な環境政策やリベラルな政策に反発する勢力が伸びる。
議会には第1会派の欧州人民党(EPP、中道右派)や欧州社会・進歩同盟(S&D、中道左派)など主に7つの党がある。
フランスの極右・国民連合(RN)などが所属する会派「アイデンティティーと民主主義(ID)」の議席は現状の49から57に拡大する。イタリアのメローニ首相らが率いる右派の欧州保守改革(ECR)も議席を増やす。
欧州の物価高や治安、移民政策などが主要な争点となり、ポピュリズム(大衆迎合主義)的な手法をとる極右などが支持を集めた可能性がある。IDはより厳しい移民の制限を主張したほか、EUの環境政策への批判を強めていた。
マクロン氏は9日、欧州議会選で極右RNの躍進と与党の劣勢を受けて国民議会を解散すると発表した。初回投票は6月30日、決選投票は7月7日に実施する。
一方、欧州議会では中道路線の二大会派など、欧州統合を推進する親EU派は全体では過半数の勢力を確保しそうだ。
フォンデアライエン欧州委員長が率いるEPPは15増の191議席となる。第2会派のS&D、マクロン氏が所属する中道の「欧州刷新(RE)」はそれぞれ議席を減らす。親EU3会派の合計では議席減となるが、議会の過半数を維持する。
これまで欧州議会は親EUの会派が協調して安定勢力を維持してきた。懐疑派勢力が勢いを増せば、EUの環境政策や緊縮的な財政政策などへの修正圧力が強まる。議会選の結果は、今秋に任期が切れる欧州委員会の執行部人事にも影響する。
EUは月内に首脳会議を開く。首脳は選挙結果を踏まえ、加盟国の人口規模などを加味した特定多数決で新委員長候補を指名する。議会は多数決で承認するため、就任には議会の過半数の信任がいる。フォンデアライエン氏は続投をめざす意向を示すが、親EU会派からの造反も予想される。
欧州議会はEUの立法機関で、執行機関の欧州委員会などと並ぶ主要機関の一つ。EU市民が直接、選挙で代表を送り込める唯一の機関でもある。欧州委が提案した法案の成立には多くの場合、議会の承認が必要となる。
5年に1度の欧州議会選は比例代表制で、EU加盟国は国ごとに選挙を実施する。加盟国の人口規模に応じて議席が国ごとに配分される。候補者は当選後、欧州議会の会派に入って活動する。
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ドイツの哲学者マルクスガブリエルは、「世界史の針が巻き戻る時」という著書で、ヨーロッパは国民国家としての最盛期19世紀に戻ろうとしていると予言していました。
ヨーロッパ、特にEUは「世界大戦への応答として生じ」、その戦争の記憶が遠ざかる今、古き良き19世紀に戻りたい感情から右派ポピュリズムが各国で活発になっていくという指摘です。
環境規制や人権といった遠い課題よりも、インフレ対策、治安、移民政策等身近な問題に訴える右派は存在感を増していくでしょう。
バイデン大統領と同様、欧州のリベラルな政治家も、右派の台頭を押さえ込むためにも自らも保護主義的移民規制的な動きを示さざると得なくなっていくと思われます。
欧州の極右の政治家は、アメリカのトランプ前大統領とそれを支持するMAGA(アメリカを再び偉大に)運動に共鳴して連帯感を持っています。
2016年の大統領選挙の直前、トランプ氏は、ヒラリー・クリントン氏に世論調査で負けていても、その年の6月にイギリスで欧州連合離脱(ブレグジット)を国民投票で決定したように、世論調査では不利でも本番で逆転すると訴え、実際にその通りになりました。
米国のトランプ支持のMAGA勢力にとっては、欧州議会選における移民排斥と脱欧州連合を強める極右の伸長は良い知らせでしょうし、反トランプ勢力にとっては気になる動きでしょう。
歴史に残る欧州議会選挙でした。
直近では新EU委員長人事に影響しますが、それ以上に各国現政権に及ぼす影響が大きくなります。
仏ではマクロン大統領が下院解散を宣言。
今秋議会選挙のあるオーストリアでも極右が1位抜け。
ドイツでも秋に重要な州議会選挙がありますが、ここで政権与党が惨敗したため、おそらく難民問題で軌道修正を迫られてきます。
緑の党が、特に若者世代でここまで凋落したことで、
EUレベルでも各国レベルでも、環境政策の優先順位に関する見直しが進むでしょう。
多くの国でポピュリスト右派政党を除くと、政権が組めない、あるいは寄せ集めで不安定な政権しかできないという、まさに戦間期的状況が到来しそうです。
事前の予想通り、右派勢力が伸張した。
主流派は過半数を維持したものの、右派勢力の伸張はEUの政策に一定の影響を及ぼしていく可能性がある。
国民負担を伴う政策、例えば気候変動政策などについても、右派勢力は批判的な目を向けている。
また、より重要なのは、エネルギーや気候変動政策は、基本的には加盟国のレベルで実施されていく点だ。
各国の政治・経済・社会的な実情を踏まえ、どのようなエネルギー・気候変動政策が行われていくのか、これまでの政策とどのように変わり得るのか、に注目していく必要がある。
日本時間8時13分時点の暫定結果によれば、中道右派のEPPが176から189、右派のECRが69から72、極右のIDが49から58に議席を増やす一方、中道左派のS&Dは139から135に微減、中道のRenewが102から83、菅協会派が71から53に大きく議席を減らしました。
ドイツで第2位の14議席を獲得したAfD、ハンガリーで第1位の10議席を獲得したフィデスは無会派の右派。
全体で見ると、極右の伸長というより、右傾化の印象が強い結果です。
前議会でグリーン関連の法制化を推進した左派の連携が弱まるもの、法制化は一通り完了しており、次の立法サイクルでは安全保障と競争力強化に重点が移ります。
最近の世界動向を見れば驚きはないですが、実際にEUのどの部分の政策に影響を及ぼすか、ですね。
辞書的には、極右とは権威主義、自国中心、排外主義、ジェンダーなど価値観での保守、で特徴づけられる政治傾向です。
その点でいえば、この10年以上世界のルールメーカーたらんという野心を隠さなかったEUは、むしろ「ヨーロッパ中心主義の牙城」だったとも言える。
それが弱体化すると、自国以前にヨーロッパの地盤沈下が進んでしまいそうですね。
すると対ビッグテックのデータ政策や対中国などの強硬的な姿勢が減るということは当面予想しにくく、挙げられている環境政策や移民政策でのブレーキ、がまず懸念されるところなのでしょうか。