「富裕層」は多くの庶民にとって気になる存在だ。インターネットでの検索状況を確認すると、右肩上がりになっている
。一方で庶民自身の実態はどうか。富裕層や庶民の資産状況を把握できる「最新の富裕層ピラミッド」を見てみよう。
こんなあまりに典型的な富裕層がいるかどうかはさておき、庶民はその存在を気にしてしまう。インターネットでの検索状況を「Google Trends」で確認すると、この10年ほど、総じて右肩上がりだ(画像はイメージ kai/stock.adobe.com)
富裕層から庶民まで、すべての世帯の資産状況はいわゆる「富裕層ピラミッド」で確認できる。
野村総合研究所(以下、野村総研)が推計・発表しているデータで、「純金融資産*保有額の階層別にみた保有資産規模と世帯数」が正式名称だ。
*預貯金や株式・債券・投資信託、一時払い生命保険・年金保険などの金融資産から、不動産購入に伴う借り入れなどの負債を差し引いたもの
この富裕層ピラミッドは総世帯を5つの階層に分類。最上層を「超富裕層」、最下層を「マス層」とする三角形の図で示し、それぞれの保有資産規模と世帯数が一目瞭然だ。
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その最新版を、野村総研が2025年2月に公開した。
まず、富裕層ピラミッドの見方を解説する。総世帯を純金融資産保有額に応じて次のように分けている。
5億円以上 …………………………… 超富裕層
1億円以上、5億円未満 ……………… 富裕層
5000万円以上、1億円未満 ………… 準富裕層
3000万円以上、5000万円未満 …… アッパーマス層
3000万円未満 ……………………… マス層
気になるマス層の純金融資産保有額は、「3000万円未満」としている
出所)2025年2月13日に野村総合研究所が発表したニュースリリースから
さて、下がその富裕層ピラミッドだ。
世帯数は、マス層が断トツで多い 出所)2025年2月13日に野村総研が発表したニュースリリースから。「国税庁統計年報書」(国税庁)、「全国家計構造調査(旧全国消費実態調査)」(総務省)、「人口動態調査」(厚生労働省)、「日本の世帯数の将来推計」(国立社会保障・人口問題研究所)、「TOPIX」(東京証券取引所)および野村総研の「生活者1万人アンケート調査(金融編)」「富裕層アンケート調査」などから、同社が2023年の状況を推計
マス層は10世帯中何世帯いるか
金持ちの資産について分かりやすい金額イメージは、1億円だろう。その金額分の純金融資産を保有している「富裕層」と「超富裕層」の合計は165.3万世帯。
その約93%を富裕層が占め、残り約7%が超富裕層だ。
一方、1億円に満たない残り3つの階層はどうか。3000万円と5000万円で区切られる「マス層」「アッパーマス層」「準富裕層」は、順に4424.7万世帯、576.5万世帯、403.9万世帯だ。
これらのデータを円グラフで「見える化」し、5階層の割合を分かりやすくすると下のようになる。最下層である3000万円未満のマス層は全世帯の79%強、つまり10世帯中約8世帯だ。
先ほどの富裕層と超富裕層は、合わせて3.0%。それに「5000万円以上、1億円未満」の準富裕層を加えると10.2%になる(四捨五入の関係で、下の円グラフの数値の合計と一致しない)。
残るアッパーマス層が10.3%だ。

富裕層と超富裕層の合計は3.0%
注)2025年2月13日に野村総研が発表したニュースリリースから
ここまで、富裕層をはじめとする5つの階層の状況をデータで確認してきた。では、このデータの裏にある実態はどうなっているのか。
野村総合研究所の金融コンサルティング部に所属するシニアコンサルタントの竹中啓貴氏によると、そもそも富裕層の存在感が金融業界で浮上してきたのは16年。マイナス金利付き量的・質的金融緩和が導入された年だ。
「ディール(運用)ビジネスが厳しくなる金融機関は、成長戦略の一環として富裕層に的を絞った。そのため、関連分野をカバーする当社に問い合わせがくるようになった」
そして、株高基調が続くにつれて、百貨店や不動産業界でもともと富裕層向けのビジネスを展開していた関係者からの問い合わせも増えていったという。
アッパーマス層に大きな動き
今回、5つの階層の中で、竹中氏は「5000万円以上、1億円未満」を保有する準富裕層の世帯数403.9万に注目している。
1つ前の発表分(23年3月)で示された325.4万から24.1%も増えているからだ。これは同じく31.1%増の超富裕層に次ぐ伸び率だ。
一方で、「3000万円以上、5000万円未満」を保有するアッパーマス層の世帯数は20%以上もダウン。
1つ前の発表分では726.3万だったが、今回は576.5万と大きく落ち込んでいる。また、保有する純金融資産が「3000万円未満」のマス層は5.0%のプラスだ。
ここからどんなことが言えるか。
考えられるのは、アッパーマス層の大幅な減少分は1つ上の準富裕層と、逆に1つ下のマス層に流れたためという見方だ。
そして、株式相場が好調である点も踏まえれば、「株式や投資信託などのリスク性資産を持っていたため、準富裕層に仲間入りしたアッパーマス層が多かった。
ただ、一部はマス層に移った」とするのが自然だろう。
これは全世帯に占める割合でも似たようなことが確認できる。1つ前の発表分と比べると、アッパーマス層は3.1ポイントの減少。
一方、準富裕層は1.2ポイント、マス層は1.6ポイント増えている。
庶民ができること
ここで、近年の株式相場の上昇を受けて運用資産が急増し、富裕層になった世帯を深掘りしてみよう。
「準富裕層以下から富裕層へ繰り上がった層」を、野村総研は「いつの間にか富裕層」と命名。「年齢は40代後半から50代、職業は一般の会社員」、そんな平均像が浮かび上がるという。
竹中氏は「彼ら彼女らは給与収入の範囲内で、これまでと変わらない生活スタイルを維持しており、マス層の特徴に近い」と分析している。
5年、10年と長期間にわたって、堅実な株式投資、あるいは従業員持ち株会や確定拠出年金、NISA枠の活用を通じて資産をこつこつ増やしてきたいわばいわば元庶民だ。
また、同じ要因でアッパーマス層から準富裕層へ繰り上がった層も当然いる。それらを踏まえれば、庶民が富裕層になる可能性を高めるためにできることは明らかだろう。
資産をこつこつ増やしてきた「いつの間にか富裕層」の存在は、庶民の希望の星かもしれない(画像はイメージ N_studio/stock.adobe.com)
超富裕層、富裕層、準富裕層の世帯数は全体の約10%しかいない。しかし、保有資産は約45%もある。なお、これにアッパーマス層も加えると、世帯数は20.6%、保有資産は60.4%になる。
この富の偏在を見て、残るマス層は何を思うか。
マス層の世帯数は全体の79.4%も占めるが、保有資産は4割を切る
注)2025年2月13日に野村総研が発表したニュースリリースから
日経記事2025.3.27より引用