物価高が学生の住まいに響いてきた。
「歩けないほど狭い。ここには住めない」。早稲田大に今春入学した愛知県出身の18歳の男性は家探しで案内された部屋を見て心の中でつぶやいた。
希望だった月7万〜8万円の賃料の部屋だったが、すぐに諦めた。
代わりに選んだのが大学から徒歩20分の月10万円のマンション。築20年ほどで広さは8畳ほど。
「実家の家賃と同じくらい高い」。親は嘆いたが、大学に歩いて通うにはほかに選択肢はなかった。
都心の家賃上昇、1年で6%・10年で4割
家賃の高騰が学生の暮らしを直撃している。特に目立つのが引き上げやすい新規入居の際の賃料だ。大学近くに住みたくても諦める学生もいる。
不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME'S（ライフルホームズ）」によると、早稲田駅（東京・新宿）近くの平均家賃は月9万9208円（1K）と1年で4.6%上がった。東京カンテイ（東京・品川）によれば、3月の東京都区部の分譲マンションの賃料も前年同月比6%上昇した。10年前より4割ほど高い。
建設費や人件費の上昇が家賃にのし掛かる。ここにきて金利上昇の影響もじわりと出始めた。
日銀は政策金利を2024年8月に0.25%に、25年1月に0.5%にそれぞれ引き上げた。金融機関も貸出金利を上げ、ローンを抱える家主の一部が賃料を上げつつある。
金利上昇もじわり
都内で不動産投資をする20代男性は「メンテナンス費の高まりと金利上昇の影響を織り込んで投資物件を貸し出す際の価格を決めている。
利回りを維持するには賃料を上げるしかない」と語る。不動産アナリストによると家賃の上昇分に占める金利上昇の割合は「1割ほど」とみられる。
三井住友トラスト基礎研究所の前田聡紀氏は「人件費などの高まりで住宅の維持費がかさんでいる。
利上げによるローン返済額の上昇もあり、借り手にコストを転嫁する動きが起きている」と指摘する。
大学近くに住めない学生も出てきた（不動産仲介会社Dream Home、東京・新宿）
最も影響を受けるのは地方から都心部の大学に入る学生だ。
早稲田大学学生住宅センターの担当者は「地方の国公立大と早大の両方に合格した場合、学費と家賃高のダブルパンチで国公立大に行かせたい人が多くなっている気がする」と話す。
生活防衛の工夫も目立つ。
実家からなんとか通える学生の中には3〜4月の入居を避けて「実家から通いながら繁忙期が過ぎたころに住まい探しを始める人もいる」（アットホームラボの磐前淳子氏）。家賃の下落を見込んでのことだ。
アルバイト代や初任給の上昇――。デフレ脱却に向けた動きは学生にもプラス面がある。一方で家賃高騰のほか、奨学金の利払いなども増している。問題は保護者も学生も物価の上昇に収入増が追いついていないことだ。実質賃金の目減りが続くと、大学近くから学生離れが進み、学生街の活気が失われる恐れもある。
（王楽君）
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