月は東に

Get Out Of That Rut & Savor Life

『壽 初春大歌舞伎』@大阪松竹座・1/13昼の部“十六夜清心”

2006-02-03 03:13:48 | 歌舞伎Review
昨日の記事でひとまとめにするつもりだったんですが、ラブリン義賢書いただけで力尽きまして(汗)昼の部後半の『十六夜清心』はこちらで別記事にしました。
昼の部後半
『十六夜清心』(←あらすじを知りたい方はクリックして下さい)
仁左玉の組み合わせでは関西初上演。(歌舞伎座では何回かやってます)おまけに通し上演…それでも全部じゃなくって、ラスト2場はやらないのよねえ

写真左は『十六夜清心』、右は夜の部の『仮名手本忠臣蔵』……夜の部観たかったなあ

リンク先のあらすじ読むのがめんどいという方へ。
簡単にまとめるとこんな感じ。↓
川に身を投げて心中したはずの僧(清心)と遊女(十六夜)が別の場所で生き長らえて、清心はひょんなことから罪を重ねて悪党に、十六夜は剃髪して尼になり2人は再会。
そして………なーんと2人して強請りたかりの悪の道へ!
というお話



花街模様薊色縫(さともようあざみのいろぬい)
通し狂言 十六夜清心(いざよいせいしん)三幕五場←こっちは別名。
<主な配役>
清心:片岡仁左衛門/十六夜(後におさよ):坂東玉三郎/船頭三次:坂東薪車/俳諧師白蓮:坂東弥十郎/寺小姓恋塚求女:片岡孝太郎/白蓮女房お藤:市川笑三郎
佐五兵衛後に道心者西心:市川寿猿/下男杢助:市川猿弥


序幕
第一場 稲瀬川百本杭の場
最初に、十六夜登場。花道をぱたぱたと駆けてきて、ふわりと被った手ぬぐいから見えるお顔がお美しいったら
急いで走って鼻緒がぷっつり。懐紙を取り出してこよりを作って(マジで綺麗にこよりになるのよ、これが)鼻緒をすげるけど、またぷっつり。
これに腹を立てる仕草が、とーーーってもカワイイ十六夜玉さま
台詞にすると「ン、もうっっ」て感じ(笑)こりゃ坊さんでも間違い起こしたくなるわさ
続いて、その坊さん清心登場。
女犯の罪で寺から追放されてるから、中途半端な髪型です(写真参照)
こんな髪でも、なんとまあイイ男か 
顔良し声良し姿良し!(昨日も使ったなこれ)愁いがあって色気があって風情があって、360度どこから見ても完っぺきな二枚目

2人が出会って「これからどうしよう」てな話し合いを、清元をBGMに踊りや色々な仕草で見せてくれます。
観てるほうが照れるっていうかなんとも微笑ましく美しい場面で、見目良い2人が見つめ合ったり寄り添ったり、まるで一幅の日本画(玉さまなんか上村松園の美人画みたい)
十六夜が清心の指で何かを数えるところがあるんですが、もうエロエロで
ふ~たり~のため~~せ~かいはあるの~♪(若いお嬢さん方は知らないね)てな具合(笑)
ただただ、ぼーーーーーーーっと口開けて眺めてました

で、なんだかんだで、2人は結局入水心中


第二場 川中白魚船の場
十六夜は、近くで白魚釣りをしていた、十六夜(元遊女です)の馴染み客の俳諧師白蓮に助けられます。
船上に引き上げられたとき、十六夜はまだ気を失ってて目を閉じたまま。
これがまた儚げで綺麗でねえ 嘆息もんです。
弥十郎さんの白蓮が、恰幅のいい懐の大きい、いかにも旦那然としていて、実に安定感があります。
大人の余裕たっぷりの白蓮は、身重の十六夜に身請けを申し出、十六夜もお腹の子のためにも生きようと白蓮の妾に……。

第三場 百本杭川下の場
一方、清心も死にきれません。
……泳ぎが上手いのが仇となって、どーしても水に浮くらしい(笑)

河岸に上がった清心は、着物の色が入水前より濃くなってます。これは水に濡れている様子を表すために着替えるんだそうです。芸が細かいなあ。
息も絶え絶えで、着物も乱れて乱れ髪が額にかかって、水も滴るイイ男

袂に小石を詰めて再チャレンジするものの、だめ。助走をつけても、どーしてもダメ。寸前でビビっっちゃって、川に飛び込めません。
挙句の果てに、清元の奏でるBGMが楽しそうだからって(どこかの宴会から漏れ聞こえる音曲、という設定)イチャモンつけるっつー実に情けない男の清心。
「てめー死ぬ気あんのか」と、ひとりツッコミのわたくし(笑)
この様子が愛嬌たっぷりでもう最高 コントみたいで、会場も笑いの連続でした。

そこへ通りがかったのが、寺小姓の求女(男です)。
清心は、癪を起こした求女を介抱するうち、懐の50両に気づく。
一旦は思い留まるものの思い返して、金を貸せ貸さないのと求女とすったもんだの挙句、はずみで求女を殺してしちゃって、後悔して、求女の脇差で腹切って死のうとします。
どーしても寸前で刃先が止まって、だめ。
おまけに、ちょっと刃先を腹に当てて「痛ーい!」
って、そりゃ痛いに決まっとろーが ここもやっぱりコント

ふいに雲間から月が顔をのぞかせた瞬間、
「しかし、ま~て~よ~……一人殺すも千人殺すも、取られる首はただ一つ」
清心、悪に目覚めました。
っつーか、早いな!この変わりよう
ここ、すっごいいい場面なんですよー。さっきまでの愛嬌ある情けない男と、一気にワルへと転がる、凄みのある目つきとか目線とか表情とのギャップが堪りません


二幕目
初瀬小路白蓮妾宅の場 
白蓮の妾になって名もおさよと改めた十六夜は、清心の菩提を弔うために(死んだと思ってるので)出家して、父の西心と巡礼の旅に。
剃髪は別室でってことで、一旦襖の奥へ引っ込むおさよ。
再び出てきたときは、白羽二重で頭を被った尼姿。(『大奥』最終話で内山理名ちゃんが尼姿になってたでしょ、あれです)
この尼さんヤバイよ 綺麗なのは当たり前だけど、禁欲的というか清冽で、だからこそ、生唾ごっくん押し倒したいっっ(失礼)てな衝動にかられます(笑)
襖が開いて彼女の登場の瞬間、「わぁ~~~~~~~~」という、あまりの美しさに、溜息とも感嘆ともなんとも言えない声がが会場中で上がりました。どよめきに近かったかも

この後羽二重を取って、坊主頭(水色のハゲかつらですがな)姿を見せますが、それでも綺麗なんですよ。美人はトクだわ


大詰
雪の下白蓮本宅の場
ここから先が衝撃的なんですが。
全部説明すると長いので端折ります。もう箇条書き。

清心は盗賊になって、鬼薊の清吉と名乗ってます。
なぜかおさよも一緒にいて、コンビ組んでます。(箱根で再会したそうです)
2人で白蓮の家に強請りに来ます。
白蓮が2人に渡した100両のひと包みがきっかけで、白蓮の正体がバレます。
白蓮は、清吉(清心)がいた寺から3000両(!)も盗んだ大盗賊!
いろいろあって世間話の最中に、白蓮と清吉が生き別れの兄弟ということが判明
白蓮「まるで芝居みたいだな」(会場爆笑)
そこへ捕り物の太鼓の音。
白蓮の家の下男杢助が、実は捕り手でした(潜入捜査してたらしい/ここも会場爆笑)
清吉、おさよ、白蓮の3人で逃げるところで見得を切って 幕。

河竹黙阿弥らしく、後半は実は実は実はの連続で「なんじゃそりゃ?」「それでいいのか」とツッコミ処満載なんですが、諸先輩方からこれが歌舞伎ってもんだと言われれば、まあそうなんですけど(笑)
あの有名な『白浪五人男』もこんな感じだし(同じ作者だし)
『十六夜清心』も『白浪五人男』も、通常は見栄えのいい場しかやらないことが多く、通しではめったに上演されません。だから、そういう類の演目を通しで観ると「えっ?」「こんな話だったのぉ?」とビックリ仰天なことが多いです

今回、ひっくりかえりそうになったのは、おさよの変わりっぷり。
尼姿で消えて再び登場のときは、清心と再会してワルくなってるので、化粧も薄く粗末な着物にザンギリ頭(髪伸びかけてます) 声も、普段の玉三郎さんの地声に近い声で蓮っ葉な物言いで、二幕目までが幻だったんじゃないかと思いましたよ
それでもやっぱり“美しい”玉さま
ある意味、奇跡に近いかも。
一方清吉は、おさよにリードされてる感じで、卑屈なヒモみたいになってます(笑)
このコンビ最高
玉三郎さんは、日頃のストレスをこの役で発散してるんじゃないかと思うくらい(笑)そりゃもう生き生きと楽しそうで、仁左衛門さんを尻に敷いてるし、仁左衛門さんもそれが楽しいらしく、ノリノリでヒネた悪党を演じてました。


最後の場面は、笑いの連続で実に楽しいんですよ。
だから通しと言っても、最後までやらないのがわかる気がします。
この後まだ2場あって、最終的には清吉は切腹、おさよも殺されて死にますからね。
楽しかったなーで終わった方が、観てる側としても気分いいし

過去(昭和21年以降)主だった劇場での上演回数が38回。
その中で、今回と同じボリュームのものはたったの2回。(今回より多いフルに近いのが1回ありますが)
結構貴重な舞台だったかも
ほとんど“稲瀬川”の部分のみの上演で、この演目は後半も見ないと面白くないと思うんですけどねー


美々しい仁左玉、ワルい仁左玉、どちらも堪能できて、とっても贅沢な舞台でした。
御園座に来てくれないかなー ていうか来て!


★余話1
文中で奇跡って書いたけど、三島由紀夫がちゃんと言ってますね。
若かりし玉三郎さんを見て「現代の奇跡」って。


★余話2
仁左玉見てると、もっと早く生まれて孝玉時代も堪能したかったなーとしみじみ。
昭和56年の『天守物語』の2人の写真なんか、涎もんの若さゆえの危うい色気溢れまくりの美男美女
2人のコンビの始まりは、なんと名古屋御園座だそうです。昭和44年に男雛・女雛で舞台に登場。
さぞや綺麗なお雛様だったんだろうなあ
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