ハラボジの履歴書

祖父が日本に渡って来なければならなかった物語を記憶に基づき
在日100年が過ぎようとしているいま書き留めておく。

ハラボジの履歴書   10

2013年07月01日 | Weblog
 その年の南原は雨が例年になく多く降った。
智異山から流れる川も例年なら溢れることがなかったのだが5日も
大地をたたきつけるように降り続いたので、川に近い田んぼは
一部水につかってしまった。

 朝早くめがさめたピョンオンは水路があふれていないか確かめるために
田んぼに向かった。
「無事でいてくれ」。と祈るようにして向かった。
相変わらず、雨はあぜ道を掘り返すような勢いで降っている。
途中、あぜ道が水に沈んで見えなくなってしまっている。
「ああ」。と思わず声がでてしまった。
すでに水かさが伸びた稲の半分の高さまでに達しており、池の中を歩いて
いるように思えた。
 
「今年は、もう米が取れなくなってしまうな」。と絶望的な気持ちになってしまった。
とその先を見たとき、数人の人の影が見えた。
なにやら、水路あたりで土砂をカマスに詰めて積み上げている。
大完の姿も見えた。
向こうも気が付いたのか。「ピョンオン、もう大丈夫だ、田んぼに入る水は
これでせきとめた、あとはもう一か所の水の流れを遮れば、稲は助かる」。
と、いつも酒と博打ばかりの男かと思ったが、いざとなると頼りがいのある男
だと思った。
「昨日5人と言ったが、みればたくさんの男がいるじゃないか」。
「こんなに、雨が降るのに、5人でこの水路は守れんよ」。
「まあそんなことはいいから、お前も、さっさと手伝え」。と
スコップが飛んできた。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿