いつも寝不足 (blog版)

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題名に偽りあり ― 『エド・ウッド』

2006年01月23日 | 映画・ドラマ
タイトルは『エド・ウッド』だが、実質は「晩年のベラ・ルゴシとエド・ウッド」だろう。

エド・ウッド

ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント

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や、まぁ、『エド・ウッド ―史上最低の映画監督』を読むと分かる通り、晩年のベラ・ルゴシにとってエド・ウッドがなくてはならない存在であったのと同時に、エド・ウッドにとってベラ・ルゴシは欠かせない存在だったのだから、こういった構成になるのも宜なるかな、という気はする。

エド・ウッドの作品は『プラン9・フロム・アウタースペース』しか見てないし、唯一印象に残ったのがヴァンパイラのウェストの細さといった体たらくなのだが、この作品で描かれている『プラン9~』撮影の経緯はグッと来る。特に『プラン9~』冒頭に配されているベラ・ルゴシのシーンが撮影されるくだりなんて映画館で見ていたら間違いなく泣いてたね。

各出演者や、作品の中で再現されているエド・ウッド作品の撮影風景なんかも、これでもか、これでも、ってくらい実物を踏襲していると思われて、笑えると同時に監督ティム・バートンのエド・ウッド作品に対する愛情の深さが感じられる。

また、最初エド・ウッドに洟も引っかけなかったヴァンパイラがエド・ウッド作品に出演することになった経緯や、ラスト間際に偶然酒場で出会うオーソン・ウェルズ(エド・ウッドが憧れ目標としていた)が必ずしも恵まれない晩年を過ごす理由となったのがともにアカ狩りであったこともさり気なく描かれていて、なかなかに芸が細かい。

本作は、先行知識なくしてもなかなか面白い作品だが、できれば、前掲の『エド・ウッド ―史上最低の映画監督』を読んでおいた方が良いし、ベラ・ルゴシの最後の撮影シーンを理解するためには『プラン9・フロム・アウタースペース』も見ておいた方が良いだろう。まぁ、それを言い出したら『グレンとグレンダ』や『怪物の花嫁』も、って話になってきりがないが。

最初にも書いた通り、実質は「晩年のベラ・ルゴシとエド・ウッド」で、映画に魅せられて破滅(した|していく)2人の男(ベラ・ルゴシとエド・ウッド)の邂逅が本当に奇跡的に美しく、そして、悲喜劇的なのが強く印象に残る。そして、史上最高の映画人と評されるオーソン・ウェルズもまた必ずしも恵まれた一生を送らなかったことが、ストーリーには描かれていないが、(知っている人には)遠景として効果的に生かされていて、非常に緻密な計算にも続いた構成であることに嘆息させられる。

個人的に最も印象に残ったシーンは、『グレンとグレンダ』への出演を依頼されたベラ・ルゴシが喜び勇んで、エド・ウッドの元を訪れるところ。ベラ・ルゴシは、まさか、それが史上最低の映画監督の手になるものだなんて思いもよらないし、そもそも『グレンとグレンダ』がどんな作品なのかも全く承知していない。でも、不遇の名優が久しぶりの仕事に心躍らせる様が、後世における『グレンとグレンダ』の評価や、エド・ウッドのベラ・ルゴシに対する尊敬と献身なんかと相まって名シーンとなっている。つまり、ストーリーが展開しきってみて初めて、「ああ、あのシーンは意義深かったのだな」と事後的に了解されるタイプのシーンなのだ。