11:ときどき悩まされる企画たち
ぶっちゃけ,これはほとんど愚痴ですが,こういう企画を考えているという方には,企画を持ち込む前に是非,読んでおいてほしいものであります。……なんてエラそうですが。
1)講演会,シンポジウムを本にしたい
こういう希望,けっこうあるんですね。
何社かの友人・知人に聞いてみますと,やはりどこの学会,業界でも同様のようです。
しかし,よっぽどのことがないと,講演会やシンポはそのままでは本になりません。
たとえば,サイパブの勤める会社では,シンポのテープをとったものを出版したい,なんて企画がきても,ほとんど通ることがありません。周りを見渡してみても,シンポ本というのは,あまりないですから(ま,ときどきあるんですけどね),他の会社でも状況は同じなのでしょう。
それでも何冊かある,そのよっぽどの理由を考えてみると,
「超ビックネームの存在」
「編集者が面白がってしまった」
という2点ではないかと思うものでありますね。
たとえば,神田橋先生だとかね,河合先生だとか,それがあるだけで華やぐような存在が講演やシンポにあると,「おお!」と思います。
しかし,反対に言ってしまえば,それ以外にウリはない…と言えますね。
何度も何度も言うように,本を作るにはコストがかかります。「賭け」です。ま,商売っていうのはすべからくそうですが,負けたら(売れなかったら)オシマイです。
だものですから,編集者としては執筆者の皆々様に気合を入れて書いていただきたい! と切に願うのでありますね。
ところが,シンポや講演会つうのは,当たり前ですが音声です。「書く」という作業と「話す」という作業の結果は違っていて,書いたものの方がやっぱ本にするのに適しているんですね。当たり前のことですが。適しているから,売れる。
ま,落語のCDと落語の本,同じ値段だったらどっちがいいかって話ですよ,これは。(言文一致の手本になったのが落語の速記本だったという話は気にしないノダ。)
要するに,シンポや講演会っていうのは,そんな面白いのかねぇ,という思いが,編集者にはあるんですな,たぶん。
もちろん,音声をテープに起こす。そのコストは正味のところ大したことはないのですが(テープ起こしの人いますしね),それを「読めるもの」に構成するのは,たいてい編集者の仕事であって,これが手間取る。
それをやりたくない! っていうのもあるかもしれません。
作業に手間がかかるわりに,あまり売れないんですね。けっこう人が話していることって意味ないことが多いんですよ。学生時代,テープ起こしのバイトをしたことがありますが,いや~ほんと,人間って文法どおりに話さないもんですよ。
なので,シンポをもとにして「編集もの」を作るっていうのが,一番であります。
たぶんほとんどの「シンポ本」は,そうして作ったものでしょうし,編集本のイキのいいものはシンポなどから盛り上がってできたということが多いのかもしれません。
ともあれ,シンポは盛り上げれば盛り上がるほど,経費もいろいろとかかっていますし,元を取ろうと本にしたいと思ってしまうもの。ですが,なかなかそうはうまくいかないよ,というお話でした。
2)座談会などを本にしたい
これも1)と同様,ちょっと難しいと思うのです。
多くの座談・対談本は,出版社指導型の(つまり,言いだしっぺが出版社)ものでしょう。
あるいは,
「書き下ろしをお願い」
↓
「断られる」
↓
「なら,テープ起こす」
↓
「じゃ,座談で」
というような流れがあった可能性もありそうです。
雑誌なんかに座談があるのは,筆者の「書く」時間がなくて済むから,という実際的な理由があるように思います。
とはいえ,あんまり頻繁に座談会やると,けっこう読むのに飽きてくるんですね,これが。
3)学会誌を出版社で発行したい
これも,ときどきお話を頂戴します。とはいえ,会社に,という話であって,ワタシが直接手がけたものはありませんが…。なので伝聞。
ある程度の規模になる前の出版社ですと,経営の根幹を支えていたりしますので,なかなかバカにできないんですね,学会誌発行は。
といっても,その学会誌の部数=会員数によるでしょう。
たとえば,文系最大の学会にまで成長した心理臨○学会。発行部数は,会員数より幾分か多いでしょうから,15,000部は刷っている勘定になりますね…。もっと多い? ま,すごい数ですよ,とにかく,これは。
はっきし言って,この数,大手出版社でも喜んでやる数字です。ま,もっとも,どういう条件で引き受けているのだか,わかりませんし,条件によるでしょうが…。
ま,漠然とした数字ですし,会社の状況によっても変わりますが,学会会員1,000人というのが,(小)出版社で発行する一つの目安になるような気がします。
もちろん,会ができたばっかりだったり,発刊頻度や将来性などによって,500からでも出版社で発行することもありえなくはないですが,ま,人件費を考えると,そういう感じです。
出版社で学会雑誌をやれるメリットは,
1)レイアウトが(そこそこ)きれい
2)書店経由の市販ができる
3)在庫管理などが楽
4)編集の手間がかなり減る
5)雑用を引く受けてくれることも
といったことでしょう。ま,「有能な秘書」を雇うようなものです。ワタシみたいなのに当たったら最悪ですけどね。雑務・雑用ができない人間として相方に日夜蹴りつけられている人間でありますから。
いっぽう,デメリットは,
・高い
の一言に尽きます。
ものすごくアバウトな試算ですが,1,000人会員のいる年に1回の雑誌で,150ページのB5版の雑誌を作ったとすると,150~300万円くらいの経 費が必要になるでしょう。もちろん,この金額は「どこまで仕事をしてもらうか」によって大きく異なります。メイドのような美人秘書的編集者を求めているな らば,300万は覚悟しておいてね♪ バキュ~ン
ま,要するに,出版社の編集者を使うのは,けっこう給金が必要だってことです。それが合うか合わないかは,学会や研究会の考え次第。ブランド好きなアナタには合っているかもしれません。
印刷屋さんでやってもらった場合,たぶん,金額は半分以下,もっと安ければ三分の一で済むでしょう。レイアウトも要望次第,打ち合わせ次第ですので1)は 同じです。しかし,3)は交渉が必要かと。ノウハウがない場合は,レイアウト・印刷・製本以外はやりたがらないはずです。
学会に事務能力が高い事務局長がいたり,事務局のバイトが長く続けてやってくれそうってな条件の場合,印刷屋でという方が吉かもしれません。
学会誌の送付にしても,喜んでやってくれるダイレクトメール業者がいることでしょう。
また,あまり知られていない手ですが,フリーの編集者を雇う,という手もなくはありません。フリーの編集者? 見つからない? ま,そうかも。
知り合いの編集者(男)に「ヨメ」がいたら,その「ヨメ」も(元)同業者である確率は,7割以上です(psy-pub調査, 2002)。ですので,その知り合いの編集者に,
「××さんの奥さんって何やってんの? へえ,いま,育児休業中? 前は? 同業者? だったらさ,学会誌やらん?」
と持ちかける,という手もアリ。これなら,小部数の学会でもいけます。年1冊,編集費(諸費用別)で20万なら,喜んでやりますよ,ワタシも。
DTPソフトが安くなっていますんで,そういうのもアリの世の中かもしれません。メールなどで連絡も楽ですしね。
といっても,在庫の管理や書店流通は難しいでしょうけれども,ふつうはそこまで考えは行きませんものね。
とはいえ,経費より長続きできるシステムか,というのが第一条件です。
その点を鑑みつつ,「業者」を選ぶというのがいいと思われまする。
メモ:
学会誌の判型
B5判→いわゆるジャーナルっぽい。
A5判→本の体裁。最近増えた。年1発行ならこれもアリか。
PDF→これからはこうなるんですかね。
鶏口牛後……などとイジワルは言わないこと。
ぶっちゃけ,これはほとんど愚痴ですが,こういう企画を考えているという方には,企画を持ち込む前に是非,読んでおいてほしいものであります。……なんてエラそうですが。
1)講演会,シンポジウムを本にしたい
こういう希望,けっこうあるんですね。
何社かの友人・知人に聞いてみますと,やはりどこの学会,業界でも同様のようです。
しかし,よっぽどのことがないと,講演会やシンポはそのままでは本になりません。
たとえば,サイパブの勤める会社では,シンポのテープをとったものを出版したい,なんて企画がきても,ほとんど通ることがありません。周りを見渡してみても,シンポ本というのは,あまりないですから(ま,ときどきあるんですけどね),他の会社でも状況は同じなのでしょう。
それでも何冊かある,そのよっぽどの理由を考えてみると,
「超ビックネームの存在」
「編集者が面白がってしまった」
という2点ではないかと思うものでありますね。
たとえば,神田橋先生だとかね,河合先生だとか,それがあるだけで華やぐような存在が講演やシンポにあると,「おお!」と思います。
しかし,反対に言ってしまえば,それ以外にウリはない…と言えますね。
何度も何度も言うように,本を作るにはコストがかかります。「賭け」です。ま,商売っていうのはすべからくそうですが,負けたら(売れなかったら)オシマイです。
だものですから,編集者としては執筆者の皆々様に気合を入れて書いていただきたい! と切に願うのでありますね。
ところが,シンポや講演会つうのは,当たり前ですが音声です。「書く」という作業と「話す」という作業の結果は違っていて,書いたものの方がやっぱ本にするのに適しているんですね。当たり前のことですが。適しているから,売れる。
ま,落語のCDと落語の本,同じ値段だったらどっちがいいかって話ですよ,これは。(言文一致の手本になったのが落語の速記本だったという話は気にしないノダ。)
要するに,シンポや講演会っていうのは,そんな面白いのかねぇ,という思いが,編集者にはあるんですな,たぶん。
もちろん,音声をテープに起こす。そのコストは正味のところ大したことはないのですが(テープ起こしの人いますしね),それを「読めるもの」に構成するのは,たいてい編集者の仕事であって,これが手間取る。
それをやりたくない! っていうのもあるかもしれません。
作業に手間がかかるわりに,あまり売れないんですね。けっこう人が話していることって意味ないことが多いんですよ。学生時代,テープ起こしのバイトをしたことがありますが,いや~ほんと,人間って文法どおりに話さないもんですよ。
なので,シンポをもとにして「編集もの」を作るっていうのが,一番であります。
たぶんほとんどの「シンポ本」は,そうして作ったものでしょうし,編集本のイキのいいものはシンポなどから盛り上がってできたということが多いのかもしれません。
ともあれ,シンポは盛り上げれば盛り上がるほど,経費もいろいろとかかっていますし,元を取ろうと本にしたいと思ってしまうもの。ですが,なかなかそうはうまくいかないよ,というお話でした。
2)座談会などを本にしたい
これも1)と同様,ちょっと難しいと思うのです。
多くの座談・対談本は,出版社指導型の(つまり,言いだしっぺが出版社)ものでしょう。
あるいは,
「書き下ろしをお願い」
↓
「断られる」
↓
「なら,テープ起こす」
↓
「じゃ,座談で」
というような流れがあった可能性もありそうです。
雑誌なんかに座談があるのは,筆者の「書く」時間がなくて済むから,という実際的な理由があるように思います。
とはいえ,あんまり頻繁に座談会やると,けっこう読むのに飽きてくるんですね,これが。
3)学会誌を出版社で発行したい
これも,ときどきお話を頂戴します。とはいえ,会社に,という話であって,ワタシが直接手がけたものはありませんが…。なので伝聞。
ある程度の規模になる前の出版社ですと,経営の根幹を支えていたりしますので,なかなかバカにできないんですね,学会誌発行は。
といっても,その学会誌の部数=会員数によるでしょう。
たとえば,文系最大の学会にまで成長した心理臨○学会。発行部数は,会員数より幾分か多いでしょうから,15,000部は刷っている勘定になりますね…。もっと多い? ま,すごい数ですよ,とにかく,これは。
はっきし言って,この数,大手出版社でも喜んでやる数字です。ま,もっとも,どういう条件で引き受けているのだか,わかりませんし,条件によるでしょうが…。
ま,漠然とした数字ですし,会社の状況によっても変わりますが,学会会員1,000人というのが,(小)出版社で発行する一つの目安になるような気がします。
もちろん,会ができたばっかりだったり,発刊頻度や将来性などによって,500からでも出版社で発行することもありえなくはないですが,ま,人件費を考えると,そういう感じです。
出版社で学会雑誌をやれるメリットは,
1)レイアウトが(そこそこ)きれい
2)書店経由の市販ができる
3)在庫管理などが楽
4)編集の手間がかなり減る
5)雑用を引く受けてくれることも
といったことでしょう。ま,「有能な秘書」を雇うようなものです。ワタシみたいなのに当たったら最悪ですけどね。雑務・雑用ができない人間として相方に日夜蹴りつけられている人間でありますから。
いっぽう,デメリットは,
・高い
の一言に尽きます。
ものすごくアバウトな試算ですが,1,000人会員のいる年に1回の雑誌で,150ページのB5版の雑誌を作ったとすると,150~300万円くらいの経 費が必要になるでしょう。もちろん,この金額は「どこまで仕事をしてもらうか」によって大きく異なります。メイドのような美人秘書的編集者を求めているな らば,300万は覚悟しておいてね♪ バキュ~ン
ま,要するに,出版社の編集者を使うのは,けっこう給金が必要だってことです。それが合うか合わないかは,学会や研究会の考え次第。ブランド好きなアナタには合っているかもしれません。
印刷屋さんでやってもらった場合,たぶん,金額は半分以下,もっと安ければ三分の一で済むでしょう。レイアウトも要望次第,打ち合わせ次第ですので1)は 同じです。しかし,3)は交渉が必要かと。ノウハウがない場合は,レイアウト・印刷・製本以外はやりたがらないはずです。
学会に事務能力が高い事務局長がいたり,事務局のバイトが長く続けてやってくれそうってな条件の場合,印刷屋でという方が吉かもしれません。
学会誌の送付にしても,喜んでやってくれるダイレクトメール業者がいることでしょう。
また,あまり知られていない手ですが,フリーの編集者を雇う,という手もなくはありません。フリーの編集者? 見つからない? ま,そうかも。
知り合いの編集者(男)に「ヨメ」がいたら,その「ヨメ」も(元)同業者である確率は,7割以上です(psy-pub調査, 2002)。ですので,その知り合いの編集者に,
「××さんの奥さんって何やってんの? へえ,いま,育児休業中? 前は? 同業者? だったらさ,学会誌やらん?」
と持ちかける,という手もアリ。これなら,小部数の学会でもいけます。年1冊,編集費(諸費用別)で20万なら,喜んでやりますよ,ワタシも。
DTPソフトが安くなっていますんで,そういうのもアリの世の中かもしれません。メールなどで連絡も楽ですしね。
といっても,在庫の管理や書店流通は難しいでしょうけれども,ふつうはそこまで考えは行きませんものね。
とはいえ,経費より長続きできるシステムか,というのが第一条件です。
その点を鑑みつつ,「業者」を選ぶというのがいいと思われまする。
メモ:
学会誌の判型
B5判→いわゆるジャーナルっぽい。
A5判→本の体裁。最近増えた。年1発行ならこれもアリか。
PDF→これからはこうなるんですかね。
鶏口牛後……などとイジワルは言わないこと。
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