「南国で全部落とした」
おにぎりの話が続いてる。
先日、コンビニで「スパムむすび」なるものを見つけたんよ。
懐かしきハワイの思い出。
高鳴る心。
即買いして、実食して、落胆した。
そのスパムむすびは、まさかの三段重ね構造だった。
スパム、玉子焼き、ツナマヨ。
それは、混沌と云う名の押し寿司だった。
三つの具材が、三位一体となって、米を侮辱していた。
「何故、余計なものを足すんだろうね」
調べたら、ハワイでアヒ(マグロ)を使ったツナむすびも、人気が出てきているらしい。
でも、重かった。
……人生よりも、重かった。
米にマヨとツナ。やめてください。
そして、思い出した。
20年前。義両親に連れて行ってもらった、「南国の公開処刑」。
娘と共に、物を落としまくったあの旅。
青い空。
美しい海。
空気の中に、パイナップルとプルメリアの香り。
そして、――床。
マク〇ナルドで出されたドリンクは、米仕様だった。
手が震え、トレイが傾き、ドリンク三本がフロアダイブ。
床一面に広がる、アメリカの自由の味。
「Oh……」と云う現地の人々に、日本語で謝る私。
苦笑する義両親。
そこから娘にもドリンクを渡すも、当然のように再び落下。
もう、床を信じるしかなかった。
涙目の娘。私も泣きそう。
義両親から笑顔が消えた。――全員、地獄。
その後、ビーチで見つけたソフトクリーム。
きれいなブルーベリーのソフトだった。
娘の眼が、キラキラしてた。
買った。手渡した。――落とした。
(今思えば、フラグだった。)
「これが、アメリカンドリーム……」
と呟きたくなるレベルで、何もかもがでかすぎた。
小さな娘には過剰なサイズ。
哀しみが紫で、冷たくて、コーンですら支えきれない人生だった。
食事は、過酷だった。
義両親が現地の料理に懐疑的で、探すのは日本食。
ハワイに来て、何故か、茶漬けと冷凍うどんの記憶しかない。
地獄のフードコートで買ったうどんは、ポキポキ鳴った。
もはや新食感。
そんな中で出会ったスパムむすび。
屋台で売ってて、涙が出そうになった。
一口食べた瞬間、五臓六腑が歓喜した。
「人間の食べ物だ!!」って脳が叫んだ。
白米とスパムのみ。
なのに、まさに味の天啓だった。
そして現れる、娘。
つぶらな眸が、スパムを捕らえて動かない。
「……食べたいよね?」
母とは、何かを犠牲にする生き物。
即座に譲渡。娘の笑顔。私は虚無。
でも、娘が笑ってくれたらそれでいい。
その瞬間、――落下。
世界が止まった。
泣きそうな娘。
もう一個買いに走る私。
しかし――完売。終焉。スパムは幻。
何故、最初からふたつ買わなかったのか。
己の食欲を呪った。
娘の涙に、自分の愚かさが焼かれる。
義父があとでポップコーン買ってくれた気がするけど、もう記憶がスパムに上書きされてて、
あんまり覚えていない。
この旅、最初の失敗だけじゃない。
だいたい全部失敗だった。
――で。話は戻る。
なんで最近のおにぎり、あんな攻撃的なの?
チキン南蛮、マグロユッケ
豚角煮、海老チリソース。
――ケンカ売ってんの?
お子さまランチおにぎり。
ケチャップライスに、ハンバーグ、エビフライ、唐揚げとか、
――なんで、一個で全部やろうとするの?
悪魔のおにぎり。
――魂まで、売ってしまったね?
結論:
私は昆布派。地味だけど、信頼できるやつ。
人生もおにぎりも、シンプルがいちばん。
ハワイで失ったものは多いが、
この教訓だけは、今でも私を支えている。
――米に、余計なことしないで。

おにぎりの話が続いてる。
先日、コンビニで「スパムむすび」なるものを見つけたんよ。
懐かしきハワイの思い出。
高鳴る心。
即買いして、実食して、落胆した。
そのスパムむすびは、まさかの三段重ね構造だった。
スパム、玉子焼き、ツナマヨ。
それは、混沌と云う名の押し寿司だった。
三つの具材が、三位一体となって、米を侮辱していた。
「何故、余計なものを足すんだろうね」
調べたら、ハワイでアヒ(マグロ)を使ったツナむすびも、人気が出てきているらしい。
でも、重かった。
……人生よりも、重かった。
米にマヨとツナ。やめてください。
そして、思い出した。
20年前。義両親に連れて行ってもらった、「南国の公開処刑」。
娘と共に、物を落としまくったあの旅。
青い空。
美しい海。
空気の中に、パイナップルとプルメリアの香り。
そして、――床。
マク〇ナルドで出されたドリンクは、米仕様だった。
手が震え、トレイが傾き、ドリンク三本がフロアダイブ。
床一面に広がる、アメリカの自由の味。
「Oh……」と云う現地の人々に、日本語で謝る私。
苦笑する義両親。
そこから娘にもドリンクを渡すも、当然のように再び落下。
もう、床を信じるしかなかった。
涙目の娘。私も泣きそう。
義両親から笑顔が消えた。――全員、地獄。
その後、ビーチで見つけたソフトクリーム。
きれいなブルーベリーのソフトだった。
娘の眼が、キラキラしてた。
買った。手渡した。――落とした。
(今思えば、フラグだった。)
「これが、アメリカンドリーム……」
と呟きたくなるレベルで、何もかもがでかすぎた。
小さな娘には過剰なサイズ。
哀しみが紫で、冷たくて、コーンですら支えきれない人生だった。
食事は、過酷だった。
義両親が現地の料理に懐疑的で、探すのは日本食。
ハワイに来て、何故か、茶漬けと冷凍うどんの記憶しかない。
地獄のフードコートで買ったうどんは、ポキポキ鳴った。
もはや新食感。
そんな中で出会ったスパムむすび。
屋台で売ってて、涙が出そうになった。
一口食べた瞬間、五臓六腑が歓喜した。
「人間の食べ物だ!!」って脳が叫んだ。
白米とスパムのみ。
なのに、まさに味の天啓だった。
そして現れる、娘。
つぶらな眸が、スパムを捕らえて動かない。
「……食べたいよね?」
母とは、何かを犠牲にする生き物。
即座に譲渡。娘の笑顔。私は虚無。
でも、娘が笑ってくれたらそれでいい。
その瞬間、――落下。
世界が止まった。
泣きそうな娘。
もう一個買いに走る私。
しかし――完売。終焉。スパムは幻。
何故、最初からふたつ買わなかったのか。
己の食欲を呪った。
娘の涙に、自分の愚かさが焼かれる。
義父があとでポップコーン買ってくれた気がするけど、もう記憶がスパムに上書きされてて、
あんまり覚えていない。
この旅、最初の失敗だけじゃない。
だいたい全部失敗だった。
――で。話は戻る。
なんで最近のおにぎり、あんな攻撃的なの?
チキン南蛮、マグロユッケ
豚角煮、海老チリソース。
――ケンカ売ってんの?
お子さまランチおにぎり。
ケチャップライスに、ハンバーグ、エビフライ、唐揚げとか、
――なんで、一個で全部やろうとするの?
悪魔のおにぎり。
――魂まで、売ってしまったね?
結論:
私は昆布派。地味だけど、信頼できるやつ。
人生もおにぎりも、シンプルがいちばん。
ハワイで失ったものは多いが、
この教訓だけは、今でも私を支えている。
――米に、余計なことしないで。

