〔ALSの父 レスパイト入院〕
3回目?
一か月の介護休暇です。
部屋は4人部屋。患者さんは前回と変わらないらしかった。
父はよく話す方だが、この部屋の人とは会話がないらしい。
みんな、生きるのに精一杯の様子だから仕方ない。
いつ行っても、痰の吸引で苦しそうにしているおじいさんが、
今日は車いすでテレビを観ていた。
その奥さんが話しかけてきてくれた。
人工呼吸器と胃ろうで、おじいさんは8年になるらしい。
多発性静脈瘤? そんな話だったような…
他のひとは、パーキンソンとか、病は色々らしいことが判明。
「でも、お父さんは娘さんがいてくれて幸せだ。
貴女は大変だろうけど…、うちには息子が3人いるけど、
何もしない。もう、8年も、どこにも出かけず、病院通い…」と、奥さん。
判る、判る、判る…もう、手に取るように判るよ、
貴女の気持ちも、大変なことも。
そうか、前回、帰り際に追ってきて、私に話かけてこられたひとだった。
話しをしたかったんだね。
だから、帰り際に「お体に気をつけて。また来ます」と、云って帰ってきた。
〔アイビーの脅威〕
この休暇中に、介護部屋の徹底的な掃除。
衣替え。
そして、一日も早く、庭のツタを抜いて欲しいと頼まれた。
野生のツタだから、どこまでもはびこって、
木の下に大事に植えてある山草をやられてしまう。
私はそのツタが美しく見え、広がる様子を楽しんでいたが、
どうしても抜いてくれと云う。
いずれ、大事なバラまでやられてしまう、と。
「あのツタがかわいいなら、鉢に挿し木にしてごらん。
真ん中に棒を立てれば、あっという間にからまって成長するよ」
じゃあ、そうするってことになった。
まだ、庭のことは、父に聞かなくては判らないことが多い。
そんな話をして、12国の「青条の蘭」を読んだりしたものだから、
物凄く胸が震えてしまった。
ヤバイ。
どの話も恐悦すぎる。
読後感が激しすぎて、精神不安に陥る。
魔物に近い。
…
ところで、里の循環タクシーをあてにして時間を合わせて登ってきたのに、
私が通う隣町の病院前に到着する時間がずれた。
間に合わなかったが、一時間後に、
巣栗渓谷行きのバスがあったので、
時間待ちに本屋へ寄った。
無論、「悔いなき選択」を入手するため。が、ない!
本がない…!
本当にない…!!
またも衝撃をくらった私はそのままスーパーに行き、
フラフラと寿司を買った。
そらが美味しいと喜んでいたパイナップルのジュースと、
パンと、ルッコラも買う。
買い物しつつ、身体の震えが止まらなくなった。
これは、12国の衝撃か、
ない本のショックか、
介護から解放された気の緩みか判らんが、
とにかく、身体が小刻みに震えて仕方なかった。
〔雨と猫〕
父が入院するというのに、朝から大雨の予報であった。
しかし、家を出る時は小降りになった。
そして、病院に着くと、大雨。
この雨ならありがたいと想った。
庭が潤って、植物が喜ぶだろう。
私がやる水くれでは、間に合わない。
その雨も、病院を出る時には上がった。
隣町まで戻ると、もう道路が乾きはじめていた。
買い物して病院前でバスを待っていると、また降って来る。
バスを降りると止んでいた。
本当に私は雨にあたらない。
おかげで、近所の外猫さんたちに大接近できた。
おいで、おいで~してると、
「ん、なに?」「食べ物あるの?」って感じで一匹近づいてきて、
それにつられた猫が二匹寄ってきて「ニャー」と鳴いた。
おおお、おまえら、エサで釣ったら一発だな。
節操のない猫どもめ。
猫たちは、私がなにも出さないのを知ると離れて行ったが、
その眼は何かを期待していた。
そうか、いつも逃げ腰になりながら、期待もしてたのね。
昔は、味噌汁作るのに、煮干しや鰹節を使っていたから、
だしを抜いた煮干しがあったけどね。
今は顆粒のだしだから、猫にくれてやる残飯がない。
でも、猫のあの調子じゃ、いつかはフレンドリーな写真が撮れそうな気がする。
今日は新顔を二匹確認して、
笑いをこらえつつ、家に帰った。