Doll of Deserting

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偽善との共鳴:壱(ギンイヅ)

2005-06-25 22:04:01 | 偽善との共鳴(過去作品連載)
壱:パシフィリアサンクチュアリ
 貴方のために、私は弱く咲く。だから貴方は孤独の中に咲く花を一輪手折り、そのまま胸に挿して下さい。そして私の髪にもその花を挿して下さい。その花は、私そのものなのですから、私は馬鹿か何かのように救われることでしょう。
「きれえな花やなあ。」
 ギンはイヅルを見つめながら言う。そこに花などは存在しない。ただイヅルの胸にある牡丹の花だけが、白い肌を彩っていた。ギンの胸にも同じように椿の花が鮮やかに咲いている。遠い昔、互いの胸に互いが最も似合うと思う花を彫ろうと言い出したのはギンだった。ギンは決してイヅルのことを恋人のように大事に扱おうとはしないが、たまにこんなことでイヅルを独占しようとする。イヅルはもともとギンに対して温かい愛情など期待してはいなかったので、これを強制された時はたまらなく彼のことが可愛らしく見えた。そして同時に嬉しかった。
「何や、おかしいなあ。こんなん、消えへんもの残さしてしもうて。」
 別にお前を独り占めしたいわけでもないのになあ、と悪びれずギンは言う。イヅルは分かっているつもりだった。何もかもこれを彫った時墨と共に流れていったような気がしていたが、その断片は永遠に胸に残るものなのだから。
「ボクはな、別にお前のこと貸して言われても普通に貸せるんや。」
 分かっていたはずじゃないか、とイヅルは言い聞かせる。それが性的な意味であるということも重々承知しながらも、どこかで愛されているのではないかというような妄想に捕らわれていた。この刺青を彫った辺りから特にそういった妄想に耽るようになってしまった。
「…そうですか。そうでしょうね。そうだと思っていました。」
 やっとそれだけ振り絞り、鳴る喉を必死に制した。今にも嗚咽を零しそうで恐ろしい。今泣いたとしても何も返ってはこず虚しいだけなので、イヅルは自分の手で首を軽く絞めた。
「女々しいなあ。泣きそうになってんのお見通しやで。」
 ギンはあやすように背を撫でながら、おもむろにイヅルの喉から腕を外した。ギンがイヅルに優しく接する時は、イヅルを抱く間しかない。イヅルは常々そう思っていた。
「…今日はもう寝よか。腕枕したるから、おいで。」
 そう言われ、イヅルは大人しく身を任せた。胸で鮮やかな淡い紫電の花弁が揺れたような感覚を覚え、微かに身を震わせる。明日になったら全て零れてしまい、消えていたらどうしよう。そんなことを思った。彼との唯一の不変の繋がりが消えていたらどうしよう、と。
「…貴方のそういう気まぐれな優しさが、たまらなく嫌いです。」
 そしてたまらなく、愛しい。そう付け加え、ついにイヅルは泣いてしまった。ギンがそれに気づいたか定かではないが、抱く腕の力が強くなったような気がした。こんな自分が愛されている。少なくとも抱かれる間だけは。そう考えると少し笑みが零れた。
 朝になれば、何も知らない二人に変わる。何も望まない二人に変わる。何も必要としない二人に、変わる。果たして朝が来た後、再び夜は訪れてくれるのだろうか。彼が僅かにも自分を愛してくれる夜は、来るのだろうか。そう憂いながらも、二人だけの聖域とも言える場所で静かに目を閉じた。


…雲行きが怪しくなって参りました。因みに腕枕は思い切り趣味です。何かツボなのです。(コラ)一気に四話まで更新してみたいのですが、今日のところは様子見ということで。だんだん描写が過激になってまいりますので(性的にというよりも残酷系に)注意書きを載せさせて頂きます。

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