Doll of Deserting

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偽善との共鳴:余章予告

2005-10-18 22:43:03 | 偽善との共鳴(過去作品連載)
*ギンイヅ、日乱、藍桃で、全三篇に渡り死ぬ前の現世での二人を書く予定です。イヅルにつきましては現世時代など存在しないということは百も承知ですが、パラレルとして読んで頂けると幸いです。
*この予告は全て混在しておりますが、本編では三話に分けて発表させて頂きます。




 彼は、花屋といえば花屋であった。穏やかな目尻を更に少し下げ、よく私に花を持ってきてくれた。彼は多忙な身であったので会うことは難しかったが、私は合間を縫って彼のところへ走ることもままあった。彼は、花屋ではあったが教職にも就いていた。むしろそちらが本職である。それなのにも関わらず時折庭でさながら美しく咲いた花があると、私に贈ってくれる。
 私にとっては、正しく彼は花屋であったのである。


                   「惣右介さん、お花、咲きましたよ。」

「花屋になりたいわけではなかったんだ。だからといって教職に就きたいわけでもなかった。むしろ僕は、生きていたいとさえ思っていなかったんだ。」



 血溜まりに、横たわっているのは彼ではないように思えた。彼の持っている花の方が、鮮明に見えた。





 彼は、刀を振るう人であった。だからといって人を斬るでもなく―いや、場合によっては斬るのであるが―決して見境なく斬りつけるということはなかった。
 美しい髪の色は、どこから来たのかと聞いたこともある。すると、今度はあちらからならばお前の色はどうした、と聞き返される。あたしはああ、と頷いてから、曖昧にはぐらかした。
 刀の似合う人であった。刀というよりも、その鋭い切っ先がまるで彼のために造られたように舞うのである。



「お前がそうしたいなら、そうすればいい。」



                  「…これは、刀などではございません。」



 彼は、その職業に就いている人間からすれば重々しさの感じられない男であった。僕の家に訪れる時は、決まって着物を売りに来る時であったが、時折彼は僕を連れ出したがった。
 男として育てられた僕を、儚いものに触れるようにして接したのは彼のみであった。彼の売る着物や扇子は、鮮やかな色を残しつつもどこか儚い印象を持たせた。あれは僕であるのだと、彼は見たこともないほどに一際悲しげな顔をして言った。



           「これはあなたの造ったものでしょう。ならばあれは何です。」


   

     「どうにでも、なるもんやねえ。」






*藍桃*「残花」
*日乱*「斬花」
*ギンイヅ「鮮花」


 どれから更新出来るかは分かりませんが…とにかく最終章を書く前にこれを書き上げてしまいます。(汗)


                   
    




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